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Report 『哭声/コクソン』プレミア上映、ナ・ホンジン監督&國村隼トーク ~國村隼演じる「よそ者」をどう思うか観客に問い続ける映画

Text by 加藤知恵
Photo by Kachi
2017/3/1掲載



 『チェイサー』『哀しき獣』といった衝撃作でカンヌでも名高いナ・ホンジン監督の最新作『哭声/コクソン』が、3月11日よりシネマート新宿ほかで公開される。それに先立ち1月24日に、プレミア上映とナ・ホンジン監督、國村隼のティーチインが行われた。

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ナ・ホンジン監督(右)と國村隼

 山間の小さな村「谷城(コクソン)」で次々と起こる猟奇殺人事件。村人は山奥に住む「よそ者」の日本人の男(國村隼)を犯人と噂し、警察官のジョング(クァク・トウォン)も彼を怪しみ追い始める。果たしてその男は何者であり、本当にこの事件の犯人なのか。最後まで先の読めない、多様な解釈を可能にする展開が続く。ふんどし姿での怪演や滝行、山中での疾走シーンなどハードな撮影をこなし、ミステリアスな役どころを演じ切った國村隼は、昨年の青龍映画賞で外国人として初めて男優助演賞・人気スター賞をダブル受賞するという快挙を果たした。

 ジョングの娘を救うムーダン(巫俗の霊媒師)を演じたファン・ジョンミンの、どこかユーモラスでありながら重厚な演技も圧巻である。クライマックスとなる「クッ」(祈祷)のシーンはほぼノーカットで6台のカメラを回して撮影され、料理や小物といった細部まで本物のムーダンの意見を取り入れリアルに再現されたという。そして「“背景”を通じ、一種の神の存在を表現したかった」という監督の言葉どおり、ショッキングかつ緊迫感あふれる映像・ストーリーを、荘厳で美しい自然の風景が淡々と包み込んでいる。本作にはムーダンだけでなくキリスト教の司祭を目指す若者も登場し、「よそ者」との戦いを繰り広げる。『チェイサー』や『哀しき獣』を通し、アクション・サスペンスでありながらも社会的マイノリティーに関心を寄せてきたナ・ホンジン監督が、本作では自身の宗教観をも反映させ、偏見や固定観念、しいては差別の問題にも彼なりの答えを提示しているように感じられた。

ティーチイン


司会:ではまずお二人からご挨拶をお願いします。

國村:どうも、こんばんは。映画をご覧になったお客さんの前に出てくるのは緊張します。皆さんは日本で最初にこの『哭声』をご覧になった人たちです。本当に嬉しくて、皆さん一人一人に拍手を送りたい気持ちです。本当にありがとうございます。

監督:こんばんは。ナ・ホンジンです。お会いできて嬉しいです。今日はお越し下さり本当にありがとうございます。上映時間も長いのにトークまでお付き合い下さって…。皆様トイレは大丈夫でしょうか?(会場、笑い) シナリオの段階から6年ほどかけて作った作品です。披露できて本当に嬉しいですし、貴重なお時間をいただいて有難く思っています。今からのティーチインも精一杯お答えします。

司会:では早速質問を受け付けましょうか。

質問者1:リドリー・スコット監督の製作会社からリメイクのオファーがあり、韓国サイドの代表が「この題材で撮れるのはナ・ホンジン監督以外にいない」と明言されたそうですが、もしハリウッドからリメイクのオファーが来たらもう一度この作品を撮ろうと思いますか? その際にはまた國村隼さんを起用されますか? 國村さんはオファーがあったらどうされますか?

監督:彼の会社から連絡があったと聞いています。確かに代表が同様の話をしたそうですが、冗談で言ったのだと思います。オファーが来たとして、私は監督するつもりはありませんが、國村さんは絶対に必要だと思うので推薦しておきます。

國村:お薦めされても、ナ・ホンジン監督がメガホンを握らないなら私も引き受けないと思います。

監督:では2人ともやらないということにしておきます(笑)。

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質問者2:『チェイサー』や『哀しき獣』など、これまでの監督の作品はどちらかというと社会派サスペンスのような作品で、今作品はオカルトというか…、表現しにくい内容で、違うスタイルだと思いますが、監督が元々作りたかったのはどちらのタイプの作品でしょうか。

監督:この作品は前の2作を撮った後、もう少し自分らしく自由に表現したいという意欲が高まって作り始めた作品なので、自分のやりたいことを詰め込んで思うように撮れたと思います。

質問者3:今回、國村さんを起用された一番の理由は何だったのでしょうか。日本でもベテラン俳優として色んな役を演じられていますが、一番の決め手は何だったのかと。それと國村さんはナ・ホンジン監督の現場で印象的だったのはどんな点でしょうか。

監督:シナリオが完成して日本人の俳優が必要になり、國村さんと同年代の俳優を調べました。國村さんの出演作は既に見ていて素晴らしい俳優だと思っていましたが、特徴的だったのは、1つのカットの中でまるで編集したかのように変化されていることでした。同じカットの中だとは信じられないような演技でした。見ての通り今回の國村さんの役は、状況ごとに「よそ者」とはどういうものか、観客に疑問を投げかけ続ける重要な存在です。その役を演じられるのは國村さんしかいないと確信を持ち、オファーをしました。

國村:オファーをいただいた際に、監督の『チェイサー』と『哀しき獣』を見ました。その段階で、とんでもない才能を持った人だと感じました。そしていざ現場に入り撮影を進める中で、この人は本当に才能の塊が人の形をしているような人だなと。というのは、現場で監督はなかなか撮影を終わらせないんです。1つテイクを撮ると、基本のビジョンにプラスして新たなイメージがどんどんと浮かんでくるタイプの方でして。むやみやたらと撮り重ねるのではなく、そのように膨らむイメージに沿ってテイクを重ねているわけです。そんな様子を現場で目の当たりにして、想像以上にすごい人だなと感じました。

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質問者4:ファン・ジョンミンさんのファンなのですが、國村さんと現場でお話をされた内容など、何かエピソードがあれば教えて下さい。

國村:実はファンさんと撮影現場でご一緒したことはほとんどありません。ただそんな中でも、韓国の役者さんは映画の世界に進むまでに色んなスキルを重ねていらっしゃって、彼も学生時代に演劇を始めて、それから映像の世界に入って様々な経験を重ねて…、だから経済的にも非常に苦労したという話をされていました。その辺は日本の役者の事情とも似ているので、面白いな、同じなのかなと思いました。今やあれほどの大スターですが、彼は全く驕るところのない人です。色んなキャラクターを演じられていますが、今回もファンさん自身の物事に対する真摯な姿勢が現れていると感じました。

質問者4:監督には、作品全般を通して何かキャスティングの際の基準があれば教えていただきたいのですが。

監督:一番その役にふさわしく適切だと感じた人を選びます。俳優同士のバランスも重視します。基準といえるのはそれくらいでしょうか。先ほどの質問について補足しておくと、國村さんとファン・ジョンミンさんは劇中では一度も会わないので、一緒に撮影をしたことはありません。1箇所だけ2人が会うシーンがあったんですが、そこも編集でカットになりました。

質問者5:以前の作品でキム・ユンソクさんが、看板の上から飛び込みをさせられたのにきちんと映っていなかったと聞きました。監督は國村さんのことを「ソンセンニム(先生)」と呼ばれるくらい尊敬されているようですが、目上の方に無理なことをお願いするのは大変じゃなかったでしょうか。韓国は年上の方を敬う文化でもありますし。國村さんもそういう大変なシーンではどう思われたのか気になりました。

監督:心から申し訳なく思っています。ただシナリオがそのように出来ていたので、どうしようもなかった部分はあります。でも撮影で大変な思いをされた分、撮影以外の部分で何とかケアしようと最善を尽くしたつもりです。今でも申し訳なく思っていますし、この映画が日本で成功しなかったら國村さんにどう言われるか不安です。撮影を通して多くのことを國村さんから学び、驚かされ、感嘆させられました。また撮影を経て更に尊敬の気持ちが高まり、好きになりました。改めて謝罪とお礼の意を述べさせていただきます。

國村:何だか気恥ずかしいですね。私も台本を読んでこういうことをしなければいけないというのは予め分かった上でオファーを受けました。ただ一番引っかかったのは、「もしかして俺はカメラの前ですっぽんぽんになるんか?」という部分でした。でも『哭声』という作品のこの世界観はすごいなと思い、ここで男にならないといけない、他の人がこの役を演じるのを見るのは嫌だなと思いました。だからそれで監督や観客の皆さんにご迷惑なものを曝したとしても、それでもやってみたいと。ですから監督にひどいことをさせられたという意識はなく、あくまでも自分からその世界に飛び込んだという感じです。

司会:最初の案ではふんどし姿じゃなかったんですか?

國村:言い忘れましたが、最初の脚本では、すっぽんぽんだったんです。

司会:ふんどしは國村さんから提案されたんですか?

國村:いいえ。もちろん韓国でも映倫に相当する組織はありますし、監督からやはりそれはまずかろうと。日本といえば何かと聞かれたので、それならふんどしかなと思いました。劇中でおじさんが「おむつ」と言ってますが、そういうふうにも見えたんでしょうね。

司会:日本といえばふんどしだと。そこであの台詞も付け加えられたんですね。

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質問者6:この映画は見る側の想像に委ねる部分が多いと思うのですが、監督の中で國村隼さんの役に関しては細かい設定を考えていらっしゃったのでしょうか。また國村さんはある程度人物の背景なども解釈をした上で役作りをされたのでしょうか。

監督:「よそ者」は観客に質問を投げかけ続ける立場にあります。これは映画そのものが各状況で「よそ者」をどう思うかという質問を観客一人一人に問い続ける作りだからです。また「よそ者」というキャラクターをどのように捉えるかによって、他の登場人物についての認識も整理されていきます。ですからたった一つの解釈でこの映画を定義することはできないし、私自身もキャラクターを一言では定義できませんが、観客の皆さんがどんな解釈をされようと、その全てが正しいと思っています。観客の皆さんが結論を出して完成させてくれる映画になることを望んでいます。

國村:その男を演じるにあたり、一般的な役作りのアプローチは全く機能しないと感じました。そもそも実在するものではないかもしれないし、人なのか何らかの物体なのか、そこに存在しているのかどうかも分からない。その男を見たという人の話の中にいるだけで、司祭になろうとする若者も、自分の目の前にいる男から「お前は何だと思うんだ」と聞かれてしまう。そうすると、そこには悪魔として存在する。いや、存在してるのかどうかも分かりませんが。そういうイメージなんですね。ですから存在自体が不明なものを作り上げるというのは無理な話で、強引に実感を伴うイメージを1つ想像するならば、劇中でのキャラクターの存在意義というか役割は何だろうと。そこからアプローチしたほうがいいと思いました。例えば谷城(コクソン)という小さな片田舎の村という池の中にポンと放り込まれた異物としての石ころ。石ころが放り込まれることによって起こる波紋。男はその石みたいなものかもしれない、と考えました。

質問者7:監督と國村さんから見たチョン・ウヒさんの印象をお聞かせ下さい。

國村:彼女もまだ若いですが、舞台も経験してきちんとスキルとして積んでいて、女優さんとしてのクオリティーが高いと感じました。何より彼女はムミョンというキャラクターがどういうものかを、ちゃんと言葉に置き換えて語ることができる人です。とにかく若いけれどクオリティーの高い女優さん、というのが僕の印象です。

監督:沢山の女優の中からオーディションで選ぶ過程で、彼女が最適だと思いました。なぜそう感じたかというと、彼女は大変なパワーを持っているからです。外部から見える力というよりは内的な「気」のようなものですが。2時間半ほどのこの映画の中で、あらゆる人物や状況の背景になるのは谷城(コクソン)という場所です。この背景を通じて、直接的ではないものの一種の神の存在を表現しようと努力しました。サウンドや時間や天気の変化など、あらゆる要素を通してイメージを伝えようとしていました。そしてそのように積み重なったものを、チョン・ウヒさんが演じるムミョンという役が最終的に全て伝えてくれるのを望んでいたんですね。前半には出番や台詞はほぼありませんが、緊張感を保ってくれる力が必要でした。実際に彼女は現場では可愛らしい妹のような存在でありながら、期待以上にパワフルな演技をしてくれました。

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司会:撮影中も含めて、監督がなぜそんなに天気にこだわっていたのかというのがよく分かりました。最後にお二人から皆さんにご挨拶をいただければと思います。

國村:今日はお越し下さり本当にありがとうございました。最初に聞くべきでしたが、この作品はどうでしたか?(観客拍手) お楽しみいただけたのがしっかりと伝わってきます。これは今までになかったタイプの映画だと思います。カテゴライズできない映画であり、映画の新たな楽しみ方を味わえると思います。お友達にもそういう体験をさせてあげたいと思った方は、ぜひ一緒に見に来て下さい。ありがとうございました。

監督:普通は映画を撮り終えたあと、監督として残念に思える部分があります。でもこの作品には何の後悔もありません。ナ・ホンジンという監督の持つ力を全て注いで作った映画です。どのように評価されても受け入れる覚悟です。6年を費やし全てを注いで完成させた作品なので、周りに感想を伝えていただきたいです。長い時間、最後までお付き合い下さり本当にありがとうございました。


『哭声/コクソン』
 原題 곡성 英題 THE WAILING 韓国公開 2016年
 監督 ナ・ホンジン 出演 クァク・トウォン、ファン・ジョンミン、國村隼、チョン・ウヒ、キム・ファニ
 2017年3月11日(土)より、全国ロードショー
 公式サイト http://kokuson.com/

Writer's Note
 加藤知恵。ところどころ関西弁を混ぜ、囁くように話す國村さんの口調が非常に温かくて印象的でした。その温かく柔らかい雰囲気がゆえにミステリアスな役柄がより恐ろしく見え、絶妙にマッチしていたのかもしれません。


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