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Report 『アシュラ』特別試写会&トークイベント ~キム・ソンス監督「素晴らしい俳優の演技の晩餐会、堪能して欲しい」

Text & Photo by Kachi
2017/1/22掲載



 1月17日(火)、3月に劇場公開される『アシュラ』の特別試写会が開催され、キム・ソンス監督のトークイベントが開かれた。監督は「こんにちは。私はキム・ソンスです。映画を見に来てくださって、ありがとうございます」と日本語で挨拶をした後、『アシュラ』を撮るにあたっての思いや、撮影秘話を語ってくれた。

※ 文中で映画の内容に触れています。

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 私はフィルム・ノワールが大好きです。1960・70年代の日本、フランスの作品、昔のアメリカなど、多くのフィルム・ノワールを観てきて、いつかそういうフィルム・ノワール的映画を現代に置き換えて、自分なりの解釈を加えて撮りたかったのです。ただ、昔の悪人映画というと、暗黒街を牛耳っている親分というバックグラウンドで、それだと現代にあわないと思いました。本当の悪党は政治指導者や権力を握っている者や法律を動かす者では?と考えて、過去の映画で見られた犯罪者的立場の人を、政治家や警察や検事に置き換えました。でも、最初にシナリオを書いた時、周囲からは商業的な映画にするのは難しいと言われたので、このような素晴らしい俳優と仕事ができると思っていませんでした。チョン・ウソンさんとは昔から仲が良かったので、出演すると言ってくれまして、この映画の制作会社であるサナイ・ピクチャーズの社長の友人であるファン・ジョンミンさんもやると言ってくれて、その後、いい俳優の方々が続いてくださいました。期待以上のキャスティングとなり、戦慄を感じるくらいスリリングな撮影現場でした。


 撮影中、最も苦労したことに質問が及ぶと、作品中盤に登場するカー・アクションを挙げた。

 状況が一変する、映画の分岐点ですね。主人公ハン・ドギョン(チョン・ウソン)は、自分の感情をなかなか表に出せないタイプなのですが、あの場面でストレスが一気に爆発しているんです。大きな感情のシーンだと思ったので、主人公が暴走しているようなイメージで撮りたかったです。荒々しく狂気に満ちた、危険な感じのシーンにするためにどうするか話しあっていると、イ・モゲ撮影監督から「雨を降らせてはどうか」と言われ、シナリオを変更しました。でも実際に撮影すると本当に大変で、危険を伴うものでしたので実は後悔したのですが、撮り終えた後はとても良かったと感じました。


 『アシュラ』では、監督の長年の盟友チョン・ウソンが主人公を務めている。ファン・ジョンミンやチュ・ジフンは初めてタッグを組んだ。

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キム・ソンス監督

 これまで何回も一緒に撮影をしているチョン・ウソンさんには、シナリオを書く前から真っ先にこの作品について相談しました。「この映画はすごく制作するのが難しいストーリーラインだけど、是非やりたいと思っている」とチョン・ウソンさんに話すと、彼は私を「お兄さん」と呼んでくれているのですが、「お兄さんがそこまで撮りたいと思っているのであれば、自分は弟として参加したい。お兄さんが歌いたい歌があるのなら、そこで弟は歌にあわせて踊らなければならない」と言ってくれたりしたことに支えられました。チョン・ウソンさんの言葉が、作品を完成させるエネルギーとなりました。

 韓国の全ての監督・製作者が思うことですが、ファン・ジョンミンさんとは是非一度仕事をしてみたいと思っていました。今回の役は主演よりも助演に近いため、シナリオを渡すときハラハラしてしまったのですが、見た瞬間に「やります」と言って下さったので、そこから製作資金も一気に募ることができました。ファン・ジョンミンさんと一緒に映画を作った人は誰でも「彼は最高だ」と言います。演出家として高い眼識があるからです。本作で言うと、市長が会議室で素っ裸になっているシーン。私は当初、パンツ一丁で会議室にいるという演出を考えていて、どうしてもファン・ジョンミンさんにそれをやってもらいたくて「彼は政治指導者だけど、他人に一切関心がなく、礼儀を守ろうなんてさらさら考えていない。自由勝手にふるまう人だから、ここでパンツ1枚でいるんです」と説得しようとしたところ、「それならいっそのことパンツも脱ぎましょう」と言って下さったのです。全く思ってもみなかったことなので、ありがたかったです。


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監督(左)と橋本マナミ(右)

 その後、登壇したタレントの橋本マナミを交え、クロストークが行われた。実は今回の先行上映が、日本で最も速い『アシュラ』のお披露目となった。監督は最後にこう締めくくった。

 観ていて痛快なアクション映画を作るべきだったかもしれませんが、この映画では、暴力の実態をお見せしたいと思いました。私がここで言いたいことは、映画をご覧になった皆さんには言わなくてもお分かりいただけると思っています。まだご覧になっていない方々には、あえて何も言わずにまず観ていただけたら嬉しいですし、「韓国で演技の上手な俳優が集結して撮った映画だ」ということを伝えてもらえたらと思います。「まるで演技の晩餐会を観ているようだ」と勧めていただけたら嬉しいです。


 『アシュラ』は、3月4日(土)より東京・新宿武蔵野館ほかで劇場公開。


『アシュラ』
 原題 아수라 英題 Asura : The City of Madness 韓国公開 2016年
 監督 キム・ソンス 出演 チョン・ウソン、ファン・ジョンミン、チュ・ジフン、クァク・トウォン
 2017年3月4日(土)より、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
 公式サイト http://asura-themovie.jp/


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Report 第17回東京フィルメックス ~作り手、評者、役者に感じた映画への熱量

Text by Kachi
2017/1/10掲載



 それは、とてもフィルメックスらしい、というべき光景だった。審査員もゲストも客席から登壇する。以前にも見られた試みなのかもしれないが、まるで審査員が大上段に構えた特権的な役職ではなく、私たち観客と共にあるということの現れかに見えた。

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映画祭ポスター・ビジュアル

 会期中、2日目の国際シンポジウム「アジアから映画の未来を考える」に参加できたことは大きな収穫であった。東京フィルメックスの常連で、困難を経てもなお映画を撮り続けているアミール・ナデリ監督が「作品はオリジナルであることが大事。そして映画作りに必要なのはピュアであることだ」と気炎を上げ、熱弁の終わりに「カット!」と一言入れる茶目っ気に和ませられる。審査委員長のトニー・レインズ氏は「劇場というのは、この100年とは違った形態になっていく」として、マレーネ・ディートリッヒの「将来はあなたのものよ。私のものでなくて」という金言を引用。その語り口には、終わりゆくキネマの時代への涙がにじみながらも、映画作りに関わることがより難しい現代で、これからの才能が生き残る道を一途に模索する態度がうかがえる。穏やかに話すキム・ジソク氏だが、韓国映画の現状を誉めた質問者に対しては「本当にそう思うんですか?」と迫り、「今は政治が愚かだから、政権交代したら良い映画が生まれますね」と舌鋒鋭い。市山尚三氏は、日本と世界の映画製作の現場について、その違いと問題点について冷静に言及する。映画の未来を憂う者が額をつきあわせたホットな応酬であった。日本の映画批評の遅れと怠慢を指弾したトニー委員長の厳しい言葉に、筆者は大いに恥じ入るばかりだった。

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『The NET 網に囚われた男』キム・ギドク監督

 林加奈子ディレクターが開幕式で宣言した「本気の映画」が、オープニングから登場した。『The NET 網に囚われた男』は、これまで2作品で南北分断についてのプロデュース作品を手がけてきたキム・ギドクが、満を持すかのように演出・脚本から携わった映画である。北朝鮮で漁を生業とするチョル(リュ・スンボム)は、南北国境にほど近くで漁網を仕掛けている最中、ボートのエンジンが故障。制御を失ったボートは国境線を越えてしまい、チョルは韓国軍に逮捕されてしまう。

 かつてのプロデュース作、たとえば『プンサンケ 豊山犬』では、南北をひそかに行き来する孤高の運び屋と脱北女性のロマンスが物語を動かす鍵となり、『レッド・ファミリー』では、任務のために南で疑似家族を演じていた北の工作員たちに、隣人一家に触発されるように本物の絆が芽生えたことで悲劇が起きる。いずれも、国家が無辜なはずの民を翻弄している現状への怒りを、エンターテイメントに昇華した作品となっていた。そうしたある種の映画的娯楽が、本作にはほとんどない。開始早々、チョルが妻(ギドクの最新ミューズ、イ・ウヌ)とまぐわうシーンを除けば、性的および嗜虐的な描写も薄く、ギドク・カラーは影を潜めている。それだけに、分断国家に対するキム・ギドクの夾雑物のない切迫した思いが、確と伝わってくる。

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『The NET 網に囚われた男』キム・ギドク監督

 残してきた妻子を思い、一瞬たりとも南の資本主義に毒されまいと抗うチョルだが、猥雑な都会の街並みと経済的豊さがもたらす魅力が、彼の心をかすかに揺らす。そうした人間的脆さも、権力を思うまま振るう警察の横暴さも、簡単に指弾できない。監督は、劇中では数少ない心優しい男についてさえ、一抹の疑念が付きまとうように仕掛けているからだ。林加奈子ディレクターが「ギドク・トリック」と評したように、「善い悪いを抜きにお互いがお互いを疑っているような韓国と北朝鮮の現実」(キム・ギドク監督)という、監督の寓意術に違いない。

 ユン・ガウン監督『私たち』は、スペシャル・メンションと観客賞のダブル受賞という快挙を成し遂げた。クラスの中で「みそっかす」(子どもの遊びで、一人前に扱ってもらえない)のソン(チェ・スイン)。夏休み目前に転校してきたジア(ソル・ヘイン)。偶然出会った二人は、かけがえのない親友としてひと夏を過ごす。ところが新学期を間近に控えたある出来事で、友情は徐々にひび割れていく。

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『私たち』ユン・ガウン監督

 上映後、ティーチインに登壇したユン監督は「自分がソンよりももう少し年齢が上の頃、映画と似たような、幸せで心が痛む経験をした」と話した。この作品のリアリティは、監督の脚本よりも、子供たちの「こういう時はどう言うか?」という現実を優先させた演出や、実体験から映画が生まれていることに起因するわけだが、子供の主観ショットが維持された画角によって、ソンやジアたちが普段見て、聞いて、触れている世界のみずみずしさと残酷さが、偽りないものとして観客に届いてくる。低所得家庭のソンと弟のユンは、しかし母親からの愛情を一身に受けている。他方、欲しいものを飽くほど与えてもらえるジアだが、両親の関係はすでに破綻していて、子供心にやり場のない鬱積が広がっている。そんなジアを見て、家で咲いていたホウセンカから取った赤色を、爪紅にして慰めようとするソン。「上手に慰める言葉がみつからないから」(ユン監督)こその行動だが、このシーンのみならず、本作は私たち大人がはっとするような、本質的な示唆を与えてくれる。言葉は時に舌足らずで、たやすく誰かを傷つけてしまうものだ。

 韓国映画を観る時、子役が見せる大人顔負けの演技にひれ伏したくなることがある。2016年は、特にそういう思いに駆られることが多かった。パク・チャヌク監督『お嬢さん』で、キム・ミニ演じる官能的な令嬢、秀子の幼少時代を演じたチョ・ウニョン、『哭声/コクソン』で、不気味な悪霊の餌食になる少女を怪演&力演したキム・ファニ、そして『私たち』のチェ・スインとソル・ヘイン、更にフィルメックスで観客の心を一人でわしづかみにした、ソンの弟ユン役のカン・ミンジュンは、これから幼い名優たちを牽引していく存在になるだろう。

 無論、子役だけでなく、少ない出番ながら鮮烈な印象を残した女優もいた。『The NET 網に囚われた男』で、スンデ店に潜む女性スパイに扮したのは、今年『スチールフラワー』が評価され、今や実力派若手女優の一翼を担うチョン・ハダムで、「悲しい時にいつも泣かないといけませんか?」というセリフとともに忘れがたい登場であった。


第17回東京フィルメックス
 期間:2016年11月19日(土)~11月27日(日)
 会場:有楽町朝日ホールほか
 公式サイト http://filmex.net/

『The NET 網に囚われた男』
 原題 그물 英題 THE NET 韓国公開 2016年
 監督 キム・ギドク 出演 リュ・スンボム、イ・ウォングン、キム・ヨンミン、チェ・グィファ、ソン・ミンソク
 公式サイト http://thenet-ami.com/
 第17回東京フィルメックス特別招待作品(オープニング作品)
 2017年1月7日(土)より、新宿シネマカリテほか全国順次公開

『私たち』
 原題 우리들 英題 The World of Us 韓国公開 2016年
 監督 ユン・ガウン 出演 チェ・スイン、ソル・ヘイン、イ・ソヨン、カン・ミンジュン
 第17回東京フィルメックス<東京フィルメックス・コンペティション>招待作


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Report ソウルの映画館から ~『恋物語』との心ときめく出会い

Text by hebaragi
2017/1/9掲載



 「一期一会」とは様々な場面で使われる言葉だが、映画もその例外ではない。公開される映画のほとんどがDVDで発売される日本映画には、後日見るという選択肢も残されているが、韓国映画は日本での劇場公開はもちろん、輸入盤を含めDVDの発売もされないものが少なくない。

 2016年の年末、ソウルの映画館を訪れる機会があり、何本かの韓国映画を見た。その中でも『恋物語(原題 恋愛談)』は筆者に強い印象を残し、まさに一期一会を感じさせるものだった。

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『恋物語』の韓国版チラシ

 『恋物語』は、美大生ユンジュ(イ・サンヒ)と飲食店で働くジス(リュ・ソニョン)という二人の若い女性同士の恋愛がテーマ。ゴミ捨て場で何気なく出会った二人がコンビニで再会し、身分証明書を忘れてタバコを買えないジスの代わりにユンジュが買ってあげてから関係が少しずつ近づいていく。お互いにひかれていく二人の心理描写が細やか、かつ丁寧で、ストーリーがしっとりと心にしみていく。大事件が起こるわけではないが、何気ない会話や言葉を交わさなくても通い合う二人の心の交流の美しさに心惹かれる。とりわけ、二人の距離が接近してきても、どこかに戸惑いがある微妙な関係を反映した表情が秀逸だ。

 ある日、ユンジュがボーイフレンドに自分とジスの関係をカミングアウトするシーンがある。ボーイフレンドは表面上理解を示すように見えたが、ユンジュは心穏やかではない。二人の愛情がこのままずっと続くかと思えたストーリーの中盤、母親が急死したため実家に帰るジス。ユンジュは、ジスに会えなくなった時間に堪えきれず、彼女に会いに行く。しかし…。ユンジュを迎えたジスはどことなく冷淡で、ジスの父親もどこか怪訝な表情でユンジュを迎える。このあたりから二人の関係が微妙に変化していく。そして、ジスが実家からソウルに戻り、二人は再会する。

 再会後の二人の愛の行方は観客の想像力にゆだねられている。余談だが、本作では、二人の主人公がタバコを吸うシーンが多い。しかし、それも作品の演出上必然性が感じられるもので、違和感は全く感じられなかった。「心がときめく」という恋愛の本質を描いた秀作といえよう。本作は、全州国際映画祭の韓国コンペ部門で最優秀賞を受賞したほか、バンクーバー国際映画祭、サン・セバスチャン国際映画祭などで上映された。さらに2016年の東京フィルメックスでも好評を博し、韓国では11月からソウル市内のミニシアターで公開がスタートした。

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監督トークショーの模様

 筆者が本作を見たのはソウル随一のファッショナブルな街として知られる狎鷗亭(アックジョン)にあるミニシアターだが、約100席がほぼ満席。かつ女性比率高めの観客層だった。そして上映終了後は自然に拍手が起き、一人も席を立たず、隣の女性が涙ぐむなど、客席全体に感動の余韻が広がったと思っていたら、なんとこの日が上映最終日で、イ・ヒョンジュ監督のトークショーがあることが判明。監督の舞台挨拶のあと、質問コーナーでは10人を超える観客が手を挙げ、ひとつひとつの質問に丁寧に答える姿が印象的だった。

 質疑の中で、ジス役の女優のキャスティングは声を重視して決めたなど、興味深い話も出て、本作の理解がより深まった。1時間にも及ぶトークのあと、監督は映画館の外で出待ちをしていた大勢のファンに囲まれ、気軽にサインやツーショットに応じるなど、気さくな面も見せてくれた。筆者も劇場前で少しだけ監督と話ができた。「日本から見に来た」と声をかけると「どこから来たんですか。ありがとうございます」と答え、「日本でも劇場公開されるとよいですね」と言うと「まだ決まってないんです」と応じた。本作が日本で公開されれば、韓国同様たくさんの観客を魅了することだろう。

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イ・ヒョンジュ監督

 滞在中は他にも映画を見た。とあるきっかけで、10年前に戻ることができる薬を手にした男性をとりまくストーリー『あなた、そこにいてくれますか』は、ユニークな設定が興味深いドラマ。『パンドラ』は、韓国を突然襲った大地震と原発事故がテーマであり、迫力あふれる映像に圧倒された。一方で、少しでも早く避難しようとマイカーで移動する住民で渋滞する様子や避難所の風景などは、東日本大震災を彷彿とさせるものだった。さらに為す術もなく苦悩する大統領や政治家たちの様子が描かれていたことも印象に残る。イ・ビョンホン扮する大物詐欺師とカン・ドンウォン扮する刑事の二人を中心にストーリーが展開するクライム・アクション『マスター』は、豪華キャストとテンポの良さが観客を魅了する作品だ。

 ここ最近のソウルの映画館事情についてふれておきたい。韓国は日本同様シネコン全盛で、CGV、ロッテシネマ、メガボックスの3大チェーンが全国主要都市のターミナル駅周辺などに展開している。一方でミニシアターも存在しており、ソウルを中心にシネコンでは見られない韓国のアート系作品やヨーロッパ映画が上映されている。かつてはソウルの光化門に3つのミニシアターが軒を連ねていたが、ここ1年ほどで2館が閉館した。残念なニュースだが、そのかわりソウルでシネコンにミニシアターが併設されるようになったことは特筆すべきことといえる。筆者が『恋物語』を見たミニシアターも「CGV狎鷗亭」併設のミニシアター「アートハウス」であり、3スクリーンを擁し、熱心な映画ファンの注目を集めている。

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韓国では『君の名は。』が1月より公開中

 なお、映画館事情で以前から変わっていないのは、シネコンでのエンドロール開始と同時の場内点灯と観客早帰りであり、本編上映前に近日公開作品の予告編がなく商品のCMが流れることだ。エンドロール終了前まで室内灯を点灯せず、商品CMがなく予告編が流れるミニシアターとは好対照といえる。


『恋物語』
 原題 연애담(恋愛談) 英題 Our Love Story 韓国公開 2016年
 監督 イ・ヒョンジュ 出演 イ・サンヒ、リュ・ソニョン
 公式サイト http://ourlovestory.modoo.at/
 第17回東京フィルメックス<東京フィルメックス・コンペティション>招待作
 日本劇場未公開

Writer's Note
 hebaragi。ソウル滞在中は映画館にいる時間が圧倒的に長く、映画の幕間での食事処に悩むことも多い。今回は映画館近くの韓国料理店に初めて入り焼き肉を注文したところ、あまりのボリュームに驚いた。映画だけでなく、飲食店との一期一会も楽しみのひとつだ。


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Report 新千歳空港国際アニメーション映画祭2016 ~空港が世界中のアニメで埋め尽くされた4日間

Text by hebaragi
2016/12/13掲載



 11月3日から6日まで、北海道の空の玄関・新千歳空港内の映画館「ソラシネマちとせ」をメイン会場に「新千歳空港国際アニメーション映画祭2016」が開催された。今回は、コンペティション部門に世界66の国と地域から1,232作品の応募があり、日本の作品も228作品を数えた。期間中に上映された作品は、招待作品部門、ショーケース部門などを含め約230本にのぼる。空港での映画祭という他に類を見ない試みは新千歳空港から未来に響く表現を発掘・発信すること、そしてアニメーションという文化を通じて新たな国際交流の場を創出することを目的としている。

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メイン会場のソラシネマちとせ

 本映画祭のメインとなるコンペには、インターナショナルコンペティション、日本コンペティション、ミュージックアニメーションコンペティションの3部門がある。今回のインターナショナルコンペティションのグランプリには、スカンジナビアの海岸を舞台とする伝説をもとにしたロシア作品『アマング・ザ・ブラック・ウェーブス』(アンナ・ブダノヴァ監督)、日本グランプリは北海道出身の榊原澄人監督の『SOLITARIUM』、ベストミュージックアニメーションは『Olga Bell “ATA”』(橋本麦監督)が受賞した。

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『この世界の片隅に』片渕須直監督の舞台挨拶

 オープニング作品『この世界の片隅に』は、『マイマイ新子と千年の魔法』などで知られる片渕須直監督を迎えて上映された。本作は、戦時中の広島と呉を舞台にしたひとりの女性の生き方を描いた作品だ。直接的な戦場のシーンこそないものの、ささやかな市井の市民の生活を破壊する戦争の本質が淡々と描かれ、しっかりとしたメッセージが伝わってきた。主演の「すずさん」をはじめ、登場人物たちの心理描写が丁寧で、かつ、すずさんをとりまく夫や親戚たちのキャラクターも魅力的。一方、真摯なメッセージの中にもさりげないユーモアを含めた脚本も秀逸だった。さらに、きっちりと時代考証がなされた街や自然の風景も素晴らしく、たとえば、原爆投下から3日後に広島市内の路面電車が運行を再開したこともきちんと描かれていた。平和であること、普通に生活できることの幸福に思いをいたす作品といえよう。そして、エンドロールの最後に制作支援のためのクラウドファンディングに協力した3,000人を超える人々の名前が紹介されていたことも印象に残った。戦後70年を過ぎたが、戦争と平和を考えるうえで、たくさんの人に見てほしい作品だ。

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『わたしのシカな友達』

 韓国関連では、インターナショナルコンペティション出品作を対象とした新人賞に、飼い主に捨てられた動物たちのグループセラピーにやってきた野生の鹿の物語をユーモラスに描いたコ・スンア監督作品『わたしのシカな友達』が選ばれた。本作は切実さと楽しさを巧みに描いており、授賞式で監督は「ありがとうございます」と日本語、英語、韓国語で挨拶し、受賞の喜びを会場の観客に伝えた。

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『エンプティ/The Empty』

 また、インターナショナルコンペティション審査員特別賞(チェン・シー)には、韓国のチョン・ダヒ監督作品『エンプティ/The Empty』が選ばれた。本作はある女性の部屋が舞台のワン・シチュエーション・ストーリー。女性にまつわる記憶をもとに、男がちょっとしたゲームをしながら、その部屋で時を過ごす。愛する人が消えた部屋とその思い出を2Dアニメーションで繊細かつ洗練された映像で描いた本作は、8月に開催された第16回広島国際アニメーションフェスティバルのコンペティションでもグランプリに輝いている。本映画祭の授賞式で「この映画祭に招待していただいたことに感謝します。プログラムをとても楽しみました」と喜びを語った監督は、目下、世界的に注目を集めるクリエイター。2014年の『Man On The Chair(椅子の上の男)』が、カンヌ国際映画祭「監督週間」に招待されたほか、アヌシー、広島、ザグレブなどの国際アニメーション映画祭で賞を総なめにしている。

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ゲストのサイン

 新千歳空港国際アニメーション映画祭には、その他にも地元の小学生が審査員となるキッズ賞をはじめとする多数のアワードが設定されており、国内外問わず新たな才能にスポットを当てる試みは今回も観客を魅了した。また、ユニークな「爆音上映」なども多くの観客を楽しませたほか、子ども向けのワークショップも開催された。今後も幅広い年齢層が楽しめる、空港というロケーションを生かした特色ある映画祭として回を重ねていくことを期待したい。


新千歳空港国際アニメーション映画祭2016
 期間:2016年11月3日(木・祝)~11月6日(日)
 会場:新千歳空港内「ソラシネマちとせ」
 公式サイト http://airport-anifes.jp/

Writer's Note
 hebaragi。映画祭の会場に入ったときの、わくわくするような感じが好きだ。北海道内で毎年開催される映画祭は6つを数える。新千歳空港国際アニメーション映画祭はまだ3回目の開催だが、今回は約3万1千人の観客が訪れ、映画ファンのみならず北海道民に確実に定着してきた印象を強くした。


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Report 『弁護人』ソン・ガンホ来日記者会見&舞台挨拶 ~一流の俳優、高貴の人

Text by Kachi
2016/12/7掲載



 誰もがこの日を待ちわびていた。それが決して誇張ではないほどに、11月11日の日本外国人特派員協会の会見場はマスコミ関係者でひしめき合い、熱気が漂っていた。翌日の『弁護人』劇場公開を控え、主演を務めたソン・ガンホが来日記者会見を行なった。『グエムル -漢江の怪物-』以来、実に約10年ぶりだ。

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 『弁護人』は、2009年にこの世を去った、故・盧武鉉元大統領の弁護士時代にスポットを当て、1980年代の民主化勢力を弾圧した軍事独裁政権に、裁判を通して立ち向かった姿を描いている。食べることにも事欠いた貧しい青年時代から、金融弁護士として釜山法曹界で頭角を現し始めるあたりまでは、ソン・ガンホの真骨頂である「憎めない俗人」というキャラクターに魅せられるが、後半の法廷劇では、信念を持って闘い抜く弁護士として、骨太な演技力で物語を力強く牽引していく。韓国での劇場公開から2年以上経過しての日本公開であるが、ここ最近の韓国、日本、そして世界情勢の混迷は、皮肉にも本作の封切りに合わせたかのようである。さらについ先日、セウォル号事件の署名活動に参加したということで、朴槿恵政権が制作したとされる「青瓦台が検閲すべき文化人、芸術家9,473人」いわゆる「ブラックリスト」にパク・チャヌクらとともにソン・ガンホの名前も掲載されているとの報道があったばかりであった(政府はこのリストの存在自体を否定している)。

 予定時刻を少し過ぎ、ソン・ガンホと、本作のプロデューサーであるチェ・ジェウォン氏が姿を現した。

ソン・ガンホ:はじめまして、ソン・ガンホです(日本語)。10年ぶりに皆様にご挨拶できて、本当に光栄で嬉しく思っております。その間、どうして空白期間ができてしまったのか分からないのですけれども、今回、意味のある作品で皆様にご挨拶ができて格別な思いです。

チェ・ジェウォン:この『弁護人』は、数年前に韓国で公開されているわけですが、時間が経った今、こうして私が日本に来ましたのも、この作品に格別な愛情があるからです。そして、アメリカでトランプ大統領が誕生した時期にこの映画を上映していただいて、そして韓国と日本の国民の皆さんももう一度自分たちの生きている姿を振り返ってたくさんのことを考えられる、そんな意味のある映画だと思いますので、そういった考えを皆さんと共有したいと思いますし、その一助になると思います。

ソン・ガンホ:皆さんもご存じかと思いますが、韓国情勢は今混乱し、非常に残念な状況にあるのですが、この『弁護人』という作品は、今こそ、たくさんのことを提示できる時期ではないかと思います。それと併せて、最後は残念な形でお亡くなりになってしまった、盧武鉉元大統領の若い頃が描かれている作品です。若い時の、その人生に向き合う姿勢、身を粉にして献身する姿勢を改めて映画を通じて皆さんにご覧いただいて、韓国人に限らず日本の皆さん、中国の皆さんと共有できる映画でありますし、非常に意味のある作品だと思います。この映画を通して皆さんも私たちと同じ気持ちを感じ取っていただけると思います。


 ソン・ガンホが口にした「意味のある作品」という言葉。それをきっかけに二人からは、社会派の題材にたずさわった映画人ならではの言葉があった。チェ・プロデューサーが言及した、アメリカの次期大統領に選出されたドナルド・トランプ氏は、選挙戦では、女性や移民といったマイノリティへの攻撃的発言が目立った。保守的、孤立的とされるトランプ氏、そして韓国の現大統領の姿には、本作が舞台とした、政治が暴力的で愚かだった時代の指揮官たちが重なるようだ。

 韓国でも日本でもよく知られた実在の人物である盧武鉉氏を演じる上で意識したこと、弁護士役を初めて演じた苦労について聞かれると、ソン・ガンホは次のように答えた。

ソン・ガンホ:実は最初、オファーをいただいた時に「怖い」という気持ちになりました。残念な最後を迎えられてしまった、今は亡き盧武鉉元大統領のことを愛し、恋しく思う国民の皆さんが見守っているわけですし、ご家族の方もいらっしゃるので、その人生の一部をしっかり迷惑をかけずに上手く演じることができるだろうかと、俳優としての悩みがありました。でも至らなくても未熟でも、真心を込めて演技をすれば、皆さんと心を触れあわせることができると思い、勇気を出して演じました。


 ソン・ガンホが実在の歴史的人物を演じるのは、『王の運命(さだめ) ―歴史を変えた八日間―』に続いて2作目だ。しかし、故・盧武鉉元大統領については、韓国人ではない筆者にすら未だ鮮明な記憶が残っている。ソン・ガンホほどの名優の口から出た「勇気」という言葉に少し驚くとともに、本作に賭けた並々ならぬ決意に思いを馳せる。

ソン・ガンホ:今回演じたのは専門的な職業だったので、苦労はありました。法廷の用語もあり、台詞も膨大で大変でした。公判のシーンも全部で5回ありますが、それぞれが違ったリズム感を持ち、特色もありますので、それを立体的に生かすために、それぞれを差別化させて演じるということが難しく、悩みました。ですので、個人的にセットには何日か前に入って、そこで第1次公判から5次公判まで、一人で練習したのを覚えています。


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 質疑応答に入り、報道陣からは口々に演技についての賞賛を受ける。そのたび、「ありがとうございます!」と日本語で答えながら笑顔を見せる。その茶目っ気に、会場は幾度も笑いに包まれる。まずは、ここ数作のソン・ガンホの演技における「深み」について、長いキャリアの中で演技への態度や考え方へ変化があったか、という質問がされた。

ソン・ガンホ:私も自然と年を重ねているわけですが、その中で人生全体を見渡すような視点が出来てきます。人生には色々な時期、逃走している時期や、大きな声をあげて叫んでいるような時期などがあったりしますが、今は人生を見渡すような傾向にあるように思います。ですので(変化と言えば)、人生を見守って寄り添っているような自分の立ち位置ですね。

チェ・ジェウォン:少し付け加えさせていただくと、初めてソン・ガンホさんと一緒にお仕事をしたのが『殺人の追憶』だったのですが、本当に演技の上手い俳優さんだなあと思っていました。その後、いろんな映画に出演されて作品も重ねられ、月日も流れていく中で、今は映画全体を見渡せる視点をお持ちだと思います。自分一人のことを考えて演じるのではなく、共演されている俳優さんとの調和も考えて演技をされたり、映画の方向性をしっかりと提示してくださる俳優さんだと思います。本作に続いて、新作『密偵』でもご一緒しましたが、そのように感じました。作品を重ねるたびに年輪となって慕われていくような俳優さんだと思います。世界のどこに出しても恥ずかしくない俳優であると自負心を持っています。


 『弁護人』のヤン・ウソク監督は、本作が映画監督として初めてである。ソン・ガンホよりもキャリアが若い監督との作品づくりについて、質問が及ぶ。

ソン・ガンホ:驚いたことがありました。監督にお会いして、この映画の物語を、いつの時点で構想していたのか気になっていて、もし盧武鉉元大統領が亡くなった後に考えたとしたら、少しがっかりするなあと思っていました。ところが、監督はこの物語を構想したのは1990年代の序盤だとおっしゃるんですね。自分がいつか映画監督になったら、是非これを映画にしたいと思っていたと言ってくださり、大きな感動を覚えました。監督の中には、何か政治的な背景があったわけではなく、時代を描くだけでも感動が与えられると思っていらしたようです。


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 「後半の裁判シーンで、ソン・ガンホ演じる弁護人ソン・ウソクの論理的な問いかけが、理不尽に覆されるという繰り返しに、そうした理不尽を乗り越えて進んできた韓国の20年の民主化の歴史そのものが表わされていると感じた」という報道陣から、裁判シーンを支えていたソン・ガンホの迫力についての問いかけがあった。

ソン・ガンホ:第1次から第5次の裁判シーンは、本当にどう演じたらいいか何日も考えていました。そのせいで、あのシーンにおける感情やリズムが自然発生的に身についたのだと思います。今お話しくださった記者の方の発言の中に正解があったような気がするのですが、あのシーンにおける演技は、テクニカルな要素ではなかったと思います。あの時代はまさに、故・盧武鉉元大統領をはじめ、私も含めて多くの韓国人が望んでいた民主化への思いが込められていたと思います。そんな熱い思いが自然と出てきたのだと思います。また、裁判は同じような形で実際も行われていたそうで、故・盧武鉉元大統領も同じように無視されたり、ちょっと辛い目にあったりされたそうです。モハメド・アリのボクシングのシーンも台詞で言っていましたけれども、あのくだりも実際にお話しになったことを映画の中に取り入れたそうですが、ソン・ガンホという役者の気持ちもミキシングされていたように思います。


 韓国のマスコミからは、『弁護人』で描かれた韓国現代史をあまり理解していない日本人へ伝えたいこと、そしてやはり、件の「ブラックリスト」について質問がおよぶ。ソン・ガンホはやや苦笑いを浮かべながらも、おそらく彼が現時点で言える最も誠意ある答えを口にした。

ソン・ガンホ:ブラックリストについては、自分がリストに入ってしまったことによって、「国民に対して申し訳ない」と思う気持ちがやや薄れました。本作は、盧武鉉元大統領の政治哲学や政治家としての姿を語るための映画ではないと思います。軍事独裁政権による暗黒の時代を生きた、その姿を描こうとしているのだと思います。抱えきれないほどの圧力があった時代に一人の若者が真摯な気持ちで人生に向き合い、献身する姿が描かれていますので、その点が現代を生きる多くの人たちの気持ちをゆさぶったのではないかと思います。そしてまさにそういった点を描くことがこの映画の究極的な目標だったと思います。そしてそれが観客の皆さんにもしっかりと伝わったと思います。


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 司会者からは、韓国で封切られた新作映画『密偵』が750万人の観客を動員し、ソン・ガンホは韓国の俳優で初めて主演映画の累計観客数が1億人を突破したことが発表され、会場からは拍手が起こる。だが当のソン・ガンホ本人は、こう謙遜し声を出して笑う。

ソン・ガンホ:1億人という数字が出ているわけですが、俳優としてはお客さんのことを計算しながら作品を選んだり、遠慮したりということはしていないですよね。おそらく、ある記者の方が累計観客数を「(計算してみると)面白いんじゃないか?」と思って記録を探して、数字をまとめてくださったのだと思います。映画の宣伝を担当しているワーナー・ブラザースの広報チームも、うまくまとめて記事にしてくれたのではないかと思います。決して、私がこの数字をあげてくださいと言ったわけではありません(笑)。


 そして最後に、チェ氏から「プロデューサーだけが知るソン・ガンホの素晴らしさ」が語られ、会見は締めくくられた。

チェ・ジェウォン:映画は、監督、シナリオ、プロデューサー、俳優がいなければなりません。私以外の3つの要素が大事になってくるわけです。ソン・ガンホさんと長く作品を撮ってきて、今はとても親しい友人としてお会いする中で感じたのは、ソン・ガンホさんという俳優は、映画を作るという作業の中でその3つの要素の単なる一つではなくて、しっかりと映画を撮っていく上でのパートナーだなとよく感じています。『弁護人』の演出を務めたのが新人監督だったのですが、非常に感動的な作品を撮れたのも、主演俳優がどれほど見事な演技を見せてくれたかにかかってくると思います。今後『密偵』という映画をご覧になった時にもまた感じられると思いますが、日本との縁があまり良くない時代の物語ではあります。その中で淡々と、時に熱い表現で演じてくれています。日本の観客の皆さんに観ていただいても決して恥ずかしくない作品が出来あがったと思っています。その反面、ソン・ガンホさんはとても繊細な面があるんです。一般の方よりももっともっと感傷的になっているところもありますし、また見た目は骨太に見えるかもしれないのですが、誰もが鈍感に見落としてしまうようなところも敏感に反応される時があるんですね。ですので、緊張しながら世の中を見渡しているんだなと感じることが多いです。私としてはソン・ガンホさんがいない現場にいくと心も体も楽ですが、ソン・ガンホさんが現場に来るといきなり緊張してしまうことがよくあります。それからソン・ガンホさんは、日本のビールが大好きです!


 翌日の舞台挨拶は、満員のファンたちで沸きに沸いていた。登壇したソン・ガンホは、「韓国と日本は近い国ですが、文化も歴史も違います。でも、映画というのは本当に美しくて大きな役割を担っていると思います。映画を通して心が一つになって触れ合えたり、お互いを理解し合えたり、共有できたりするからです。そういう意味では、文化において映画というのは美しい、非常に大切な役割を担っていると思います。『弁護人』、あるいは他の韓国映画を通して皆さんは韓国のことを知って下さり、そして私たちは日本の映画を通して日本のことを知りたいです。そういうきっかけになってくれたら嬉しいです」と語りかけた。自身の作品だけでなく、すべての韓国映画への心配りが見えるその発言は、まさに国民的俳優というにふさわしい。

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初日舞台挨拶

 ソン・ガンホはスクリーンの中のソン・ガンホそのものであった。記者会見ではチャーミングさでその場を大いになごませ、舞台挨拶の日は、お客さんとのセルフィーにも笑顔で応じていた。一方で、役柄、作品の時代背景、そして韓国という国について語るときは、真摯で切実な眼差しに変わり、一言一言を大切に話しているという印象であった。セウォル号事故の後、ソン・ガンホは「遺族の方々の切実な願いを祈願して応援します」と、心の痛みを表明した。ブラックリストの件で述べた所感は、「自分が国民を思ってした行いで政府から睨まれたのなら、それで構わない」という意味だと、筆者は受け取った。一流の俳優である前に、人間としての高貴さを強く感じた。韓国にはソン・ガンホという俳優がいる。それが何とも羨ましい。


『弁護人』
 原題 변호인 英題 The Attorney 韓国公開 2013年
 監督 ヤン・ウソク 出演 ソン・ガンホ、オ・ダルス、キム・ヨンエ、クァク・トウォン、イム・シワン
 2016年11月12日(土)より、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
 公式サイト http://www.bengonin.ayapro.ne.jp/


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