Review 『2LINES あるカップルの選択』 ~新たな形の幸せを求めて模索するふたり
Text by mame
2013/8/31掲載
上映後、後方のドアからトコトコと可愛らしい足音と共に男の子が駆け出して来た時、場内は「あっ!」という歓声に沸いた。チミン監督の息子、カン君だ。続いてチミン監督、パートナーのチョルさんが登場。一見どこにでもいる3人家族だが、映画を観た後だとなんとも感慨深く、思わず笑みがこぼれてしまう。

左からチョルさん、カン君、チミン監督
「韓国女性監督特集2013」で上映された『2LINES あるカップルの選択』は、非婚と結婚の間で揺れるカップルを描いたドキュメンタリーだ。30代を目前に控えたチミンと、年上のチョル。ふたりは長い間同棲しているが、妊娠をきっかけに結婚するか否か悩む。「そんなのは親の身勝手で、子どもがかわいそうなだけだ」。カメラはチミンの母、父、友達の意見を映し出し、筆者も共感した。だが、ふたりがただ世間一般の考えに埋もれたくないから非婚を選んでいるのではなく、従来ある結婚制度に希望が持てなくなってしまったからという意見にも納得してしまう。なにより結婚に対して意見をぶつけ合い、お互いを理解しようとするチミンとチョルの関係が心地よい。
チミンと同世代、お年頃の筆者の周りでも、最近は集まれば結婚話に花が咲く。「今の時代だと夫婦共稼ぎで、子どもを育てられたら充分幸せだろうな」と結婚のイメージは湧くが、パートナーがいるのに非婚で子どもを育てるなんて想像がつかない。あえて非婚を選ぶにつけて、理想があったのかを訊いてみたところ、「あえて選んだというよりも、自分の親を見てきて、現行の結婚制度はふたり、更にはふたりの家族の関係を悪い方に変えてしまうようにしか思えず、安易に選ぶ気にはなれなかった」という答えがあった。彼らが選んだ非婚という形は漠然としたイメージすらなく、未完成、模索中なのだ。私達が思う幸せがいかに結婚ありきの常識の上に成り立っているのか、その選択肢の少なさに改めて驚かされる思いだった。
カン君が生まれ、出生届を出すギリギリまで、息子を私生児扱いにするのか、ふたりは悩む。だが、カン君に手術が必要となり、手術費の支援を受けられるのは正式な夫婦の子どもだけという事実を前にして、ふたりはようやく結婚を決意する。あれだけ悩んでいた結婚も、一度してしまえば、あらゆる制度が結婚を条件にスムーズに進むことを知ってしまう。今となっては、その恩恵に預かりながらも、結婚前に感じていた「結婚する人と、しない人との間の壁に対する考え方」が変わってしまう事への怖さがあるという。「今までは、なんで結婚するの?と否定的な気持ちでマイクを向けていましたが、結婚した今となっては、結婚しない人にも、同様の権利が必要ではないか?と思うようになった」とチミン監督は語る。
結婚、独身、事実婚…。いろんな形の幸せが溢れる今の日本では、どの道がいちばん幸せとはいえないし、自分の選んだ道がいちばん幸せだと信じたい。『2LINES』には、そこから一歩抜け出し、従来ある幸せの形に疑問を抱き、新たな形の幸せを掴みとるために模索を続ける人々の姿が爽やかに描かれていた。
韓国女性監督特集2013は9月6日(金)までシネ・ヌーヴォX(大阪・九条)にて開催。上映作品は他に『牛と一緒に7泊8日』(イム・スルレ監督)、『空色の故郷』(キム・ソヨン監督)の計3作品。牛の豊かな感情表現に驚かされたり、韓国人画家の生涯に迫るドキュメンタリーに圧倒されたりと、五感を刺激される作品群だ。
韓国女性監督特集2013
期間:2013年8月17日(土)~9月6日(金)
会場:シネ・ヌーヴォX(大阪・九条)
公式サイト http://www.cinenouveau.com/sakuhin/kankoku/kankoku.htm
Writer's Note
mame。チミンの意見を尊重し、理解あるチョルの姿はまさに女性の理想。そんなふたりも、付き合い始めの頃はよくケンカをしたそうで、言い返し方を考えるうちに、相手の考えを理解できるようになったとか。ケンカ上等! ぶつかってこそ最良の関係は築けるものなのですね。肝に銘じます…。

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