『大阪のうさぎたち』 杉野希妃インタビュー
Interviewed by mame
2012/7/2掲載

『大阪のうさぎたち』のプロモーションで来阪された、プロデュースする女優、杉野希妃さんの独占インタビューをお届けします!
取材日:2012年7月1日(日)
会場:シネ・ヌーヴォ
── 『大阪のうさぎたち』は震災の翌日に撮られたということが大きく影響していると思いますが、撮影中の心境はいかがでしたか?
大阪アジアン映画祭に出席中、たまたまイム・テヒョン監督がカメラを回しているところに居合わせて、震災の影響で来られなかった韓国人女優の代わりに出演することになりました。映画は作るのも出るのも好きなのですが、あの日は震災の翌日という事で、こんな事をしていて良いのかな?という思いがよぎったのは事実です。ただ、今になって思えば様々なハプニングが重なって出来上がった映画なので、何かの導きによって作らされた映画のような気もしています。

── 震災の影響は、監督や作る側にもあったのでしょうか?
イム・テヒョン監督は大阪アジアン映画祭の1週間ほど前に映画の構想を練っていたそうですが、私が見たときにはもう撮影が始まっていたので、特に影響はなかったようです。「女優が来られないのにどうやって撮るの?」と聞かれても、「まあ、なんとかなるだろう」とあっけらかんとした状態だったらしく(笑)。実際に私がたまたま声を掛けて、出演することになったので、「ほら、なんとかなったじゃないか」と言っていたと相手役のミン・ジュンホさんから聞きました(笑)。
── 杉野さんは今までいろんな作品に出演されていますが、今回の即興的な撮り方についてはどう思われましたか?
今まで海外の作品では『マジック&ロス』(リム・カーワイ監督、マレーシア)、『避けられる事』(エドモンド・ヨウ監督、マレーシア)に主演させていただいたのですが、どちらの監督も脚本より役者の感じるままに任せる、即興を重視する撮り方だったので、『大阪のうさぎたち』についても、すんなりと監督の望むことが受け入れられた気がします。即興がうまくいくかは設定によりますが、今回は地球最後の日という設定もあり、即興的な演出がうまく取り入れられていると思います。
── プロデューサーとしても有名ですが、これからも自分の出演する作品についてはプロデュースを続けていきたいですか?
特にプロデュースにこだわっているわけではないので、出演する作品を全てプロデュースしたいとは考えていません。プロデュースするとなると、すごく労力が必要なので。また、作る側との信頼感が絶対なので、本当に信頼できる間柄で、なおかつ魅力的な作品であれば、プロデュースを買って出たいと考えています。『大阪のうさぎたち』の場合は、監督は撮影したものの具体的に上映については考えていなかったようで、「せっかく面白いものが出来上がりそうなのにもったいない!」との思いから、映画祭への出品、海外セールス、日本での権利について、プロデュースしたいと申し出ました。今回は流れ的な感じもあったので、プロデュースについてはその時によって違うかもしれませんね。

── 舞台となった大阪についての印象を教えてください。
もともと広島出身なので関西の友達も多く、身近な存在に感じています。映画祭で訪れる機会も多くなってきたのですが、その度に大阪はアツイ都市だなぁと感じています。好きなものを応援する!という姿勢がすごく強く伝わってくるので、私にとっては第二の故郷のように感じています。今回舞台となった場所を見ると、いわゆる名所ではないところもあったりして、やはり海外の監督が撮ったということもあり、監督ならではの目線が伺い知れて大変興味深かったです。
── 『大阪のうさぎたち』というタイトルについてはどう思われましたか?
作品を象徴するタイトルになっているのですが、そもそもは『ウォーターシップダウンのうさぎたち』という物語が発想のひとつになっています。あるところに、うさぎの住む村があり、そこでは人間によって一匹ずつうさぎが食べられていくのですが、いつ自分が死ぬか分からないのに、うさぎはじっと何事もなかったかのようにそのまま待っているというお話です。ナレーションでもその事に触れていますが、実は撮影時にミン・ジュンホさんがこの物語について説明する台詞がありました。説明的過ぎるということで、結局編集でカットされてしまったのですが。この映画でも、人間いつ死ぬか分からないという設定で物語にリンクしているので、それを象徴しているようで良いタイトルだと思いました。
── 共演されたミン・ジュンホさんについての印象を教えてください。
昨年の大阪アジアン映画祭が初対面だったのですが、あの日はそんなに日が照っていた訳でもないのになぜかサングラスをしていて、「なんだかスカした人だなぁ」と(笑)。相手役なので、いろんな事を喋らなきゃと思っていたのですが、見た目はあんなに男前なのに、実は挙動不審な面を発見したりして。最終的には、カッコいいだけでなく、すごく愛すべきキャラを持った面白い人だな、という印象に変わりました(笑)。

── 読者にメッセージをお願いします。
監督も意図してなかったと思いますが、この映画は本当に今しか撮れない作品に仕上がったと思います。今の日本のみならず世界的な状況にもリンクしていて、現代的でもあり、またクラシックな部分もあり、いろんな要素が絡み合っている作品です。即興で撮られた作品ではありますが、実はすごく深い内容を扱っています。普段、生きていると感じられない死という存在を、あの震災以降、誰もが身近に感じられたのではないでしょうか。この映画も世界最後の日という設定で、死によって生きているという事を感じさせる内容に仕上がっているので、このタイミングで上映されることを大変喜ばしく思っています。
取材後記
映画祭やイベントなどで何度も訪れているシネ・ヌーヴォが会場ということもあり、杉野さんもリラックスしたご様子で、インタビューは終始和やかに行われました。偶然にも私とは同じ歳で、残念ながら韓国に留学した時期はちょうどすれ違いだったのですが、留学当時のエピソードを懐かしく思い出しながらお話いただきました。なんでも、女優デビュー作『まぶしい一日』は留学して2ヶ月目にオーディションを受けて勝ち取った作品で、その頃は韓国語もほとんど喋れなかったそうです。『まぶしい一日』をきっかけに杉野さんは女優への階段を着実に登りつめて、今や海外の国際映画祭で審査員を務めるほどの映画人に成長されたわけですが、お話し下さる様子は大変親しみやすく、また何事にも積極的に取り組む姿勢が、周りの人を巻き込む魅力になっている気がしました。

同じ年齢の者としては、大変まぶしい存在で、緊張しっぱなしのインタビューだったのですが、私が制作した美術作品も快く見ていただくことができ、同年代として「私も頑張らなくちゃ!」と勇気をもらえました。また、同席した和エンタテインメントの小野光輔プロデューサーからは「関西は京都・大阪・神戸とそれぞれ異なる大きな文化があるので、映画の発信地としてはとても面白い広がり方をする」との意見をお聞きして、関西出身の者として嬉しくなりました。
『大阪のうさぎたち』は、大阪アジアン映画祭をきっかけに作られた映画ですが、わずか一日で映画が出来てしまうのは、さすが!スピードの韓国と感じさせられました。今まで映画というとお金と時間がかかるイメージでしたが、こうした映画祭映画という新しいジャンルが各地で広がっていけば、映画業界のみならず、地方を巻き込んで新しい展開を見せてくれるのではないかと楽しい予感が膨らんでいます。
『大阪のうさぎたち』
韓国・日本/原題 大阪の二匹のうさぎ/英題 TWO RABBITS IN OSAKA/2011年
監督 イム・テヒョン 主演 杉野希妃、ミン・ジュンホ
2012年6月30日(土)大阪シネ・ヌーヴォにて地元先行ロードショー、8月4日(土)神戸・元町映画館、京都みなみ会館ほか順次全国公開予定
公式ブログ http://ameblo.jp/two-rabbits-in-osaka/
Interviewer's Profile
mame。1983年、岡山県生まれ。2004年、韓国・弘益大学美術学部に交換留学。韓国映画は留学を決めるきっかけにもなった。専攻は木版画。現在は会社勤めをしながら作品制作を続けている。
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