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Report 『ポドリ君の家族残酷史X -韓国の夜と霧-』キム・ソン監督舞台挨拶 ~韓国インディーズ映画の旗手は表現の自由のため戦う

Text by Kachi
2013/7/3掲載



 「ここで上映されて光栄です。」

 6月29日(土)、『ポドリ君の家族残酷史X -韓国の夜と霧-』公開初日を迎えた東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムの舞台挨拶でキム・ソン監督は、噛み締めるように言った。一方、本作でやり玉に挙げた李明博(イ・ミョンバク)と朴槿惠(パク・クネ)大統領を「非常に保守的で矛盾が多く、ひどい政治家」とバッサリ切り捨て、「日本の安倍総理も同じようなものでしょうか?」とチクリとやって会場の笑いを誘う。ごく普通のオシャレな若者だが、理知的で燃えるような反骨心を秘めている、というのが第一印象だ。

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 「あまりにも不条理な時代だった李明博政権のことを語るために作りました。彼を支持しないからといって、その前の盧武鉉(ノ・ムヒョン)のことが好きなのでもありませんが、表現の自由によって自分が強い批判にさらされることを恐れていた李明博が大統領になったことで、その自由が侵されたことは事実です。あの時ほど、文化・芸術界の人間が一致団結して戦ったことはありませんでした。」

 狂牛病の不安が取り除かれないままアメリカ産牛肉の輸入を解禁したことに抗議するローソク集会など、李明博の失策への批判は枚挙にいとまがない。わけても文化・芸術への抑圧は、「1980年代以降の韓国における文化政策を一気に後退させた」という声があるほどだ。特に2009年には、文化体育観光部による監査によって韓国芸術総合学校が学問と表現を弾圧された事件に端を発する、パク・チャヌクら映画監督の「韓芸総事態を憂慮する映画監督100人宣言」や、映画人225人による「時局宣言」など、表現の自由の侵害と戦うクリエイターたちの提言が相次いだ。

 「この映画では李明博政権やすべての保守系の政治家に当てこすった描写が出てくるので、彼らが見たら本当に怒り心頭だと思います。特にネズミ。韓国では李明博=쥐(チュ:ネズミの意)なので、大統領官邸のホームページでは쥐(チュ)の文字を入力することができないのです。これこそ表現の自由を侵しています。ポドリ君の考案者である漫画家・李賢世(イ・ヒョンセ)氏についても同じです。彼は韓国一有名な漫画家ですが、李明博や朴槿惠といった保守系を強く支持しながら、子どものキャラクターを創作したというねじれを持っています。」

 保守への抗いを口にする監督だが、実際はどの立場にも与していないそうだ。主人公ポドリ君をはじめとした映画のマネキンや人形たちに、シュヴァンクマイエルやクエイ兄弟、カナダの映画監督ガイ・マディンの影響を認めつつ、「政治的に死んでいる、どの側にも立つことができない人物」としての監督の思いを投影したと話す。そして本作は、警察官だがまだ子どもであるポドリ君が成長していく物語。誰かをポドリ君の母親にと思った時、李明博と同様の政治的矛盾を抱えていた朴正煕(パク・チョンヒ)のことが頭に浮かび、その娘である朴槿惠を母親にすべきだと考えた。

 そのことに韓国の映倫である映像物等級委員会が噛み付いた。『ポドリ君~』のレイティングを「制限上映可」としたのだ。韓国のレイティングは、全年齢観覧可、12歳以上観覧可、15歳以上観覧可、青少年観覧不可(いわゆる18禁)、そして制限上映可の5段階だが、今回彼らが下した「制限上映可」とは、韓国に存在しない「制限上映作品専門の映画館」でのみ上映可、つまり事実上の上映禁止措置なのだ。

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 「委員会は、国家の最も重要な人物を殺害する描写と、作品で朴槿惠の同居人に設定した人物を問題視した、というのです。この作品が審査を受けていた時、朴槿惠はまだ大統領候補の一人にすぎなかったのに。この処分を2回も受けて本当に腹が立ち、その都度行政訴訟を起こして一審では勝利をおさめました。今まで映像物等級委員会は、この種の裁判で負けたことがなかったので、みんな驚いていました。でも彼らとの摩擦によって、韓国で劇場公開されていないにもかかわらず、本作の存在を知らない人はいません。もし実際に映画を見ていたら、こんなに話題にはならなかったでしょうね。」

 映像物等級委員会は、キム・ギドク監督の新作『メビウス』に、母子の性愛関係を扱っているという理由で『ポドリ君~』と同じ制限上映可のレイティングを、また名門私立高校で起きた事件を通じて教育現場の問題を浮き彫りにしたシン・スウォン監督の『冥王星』に、青少年観覧不可(後に15歳以上観覧可に変更)のレイティングを付与するなど、インディペンデント系を含めた韓国映画界との対立は今も続いている。

 「そのことについては、インディペンデント映画界全体で一緒に協力していこうとしています。今回『ポドリ君~』の一審での勝訴が、私たちに有利に働くのではないか?という期待も高まっています。ただ不幸なことに、国家情報院が大統領選で情報操作をした問題と、大統領の秘書官がアメリカで起こしたセクハラ問題に関心がいってしまったのが残念です。」

 『ポドリ君~』はベルリン国際映画祭をはじめ世界各国の映画祭に出品された。しかし、裁判が長引いているせいで、2010年の全州国際映画祭とソウル独立映画祭での上映を最後に、今も韓国では劇場公開の見込みが立っていない。そんな監督に手を差し伸べたのが、シアター・イメージフォーラムだ。韓国インディペンデント映画2004で『反-弁証法』(2001)、『時間意識』(2002)、『光と階級』(2004)を紹介して以来、キム・ゴク、キム・ソン両監督を「アヴァンギャルドな活動を続ける作家として注目し続けてきた」と支配人の山下宏洋氏は語る。日本で劇場公開するため自らクラウド・ファンディングで広告費用を集めるなどした、キム・ソン監督の気骨に賛同したのだ。

 『ポドリ君~』を見るにあたって韓国の歴史を知っていれば、どこまでも深読みができ、面白さが無限に広がっていくことは事実だ。しかし、舞台挨拶で「これを撮らせてくれた李明博、ありがとう!」とうそぶくユーモアを忘れないキム監督の手に掛かれば、強い政治色さえも説教臭く感じられない。本作はあくまで、笑える愛すべきヘンテコ映画。韓国の社会情勢を知らなくても十分楽しめる。

 ラストは大統領官邸の青瓦台で撮影しようと思っていたが、別のデモ隊と政府が小競り合いを繰り広げていたため諦めたという。そうまでして完成させたかったのは、映画人なら当然のこと、作品を公開するためだ。だが今、監督は「制限上映可というレイティングを撤廃させるため、さらに韓国だけでなく世界中の表現の自由のために貢献していきたい」と力強く語った。

 表現の自由は、多様性を生み出し、映画という芸術を豊かにする。それを侵す権力は、映画を愛する者すべてに対する圧力だ。世界から表現の多様性が失われないよう我々映画ファンができるのは、『ポドリ君~』のような作品を一つでも多く見に行くことだ。

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『ポドリ君の家族残酷史X -韓国の夜と霧-』
 原題 자가당착 : 시대정신과 현실참여 英題 Self-Referential Traverse: zeitgeist and engagement 韓国未公開
 監督 キム・ソン 出演 チョン・アヨン、カン・ソク、イ・ラニ
 2013年6月29日(土)より、シアター・イメージフォーラムにてレイトショー、以降全国順次公開
 公式サイト http://podori-zankoku.com/

Writer's Note
 Kachi。写真・左は監督と一緒に来日したチョン・アヨンさん。劇中でネズミを操る謎の美女を演じていますが、韓国伝統舞踊のダンサーで、インディーズ映画にも多数出演しているそうです。監督曰く「僕のペルソナ」とか。


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