Review 『ポドリ君の家族残酷史X -韓国の夜と霧-』 ~アナーキー過ぎる一卵性双生児の弟が浮き彫りにした韓国の自己矛盾
Text by Kachi
2013/6/27掲載
人種に関わらず、古来より一卵性の双子が生まれる可能性は、1,000の出産に対して4組といわれている。そんな中で、奇抜な発想力で魅了する一卵性双生児のクリエイターが、現代に二組もいる。一組は、アメリカ人のスティーヴとティモシーのクエイ兄弟。無機質と生々しさを併せ持った素材が織りなす美しい作品が特徴だ。そしてもう一組が、非妥協的映画集団ゴクサを率いて実験的な作品を世界に放ち、注目を浴びている韓国の映像作家、キム・ゴクとキム・ソン兄弟だ。

その弟のキム・ソン監督が、往年の保守系漫画家が作った韓国警察のマスコット、ポドリ君の人形を主人公に撮ったのが、『ポドリ君の家族残酷史X -韓国の夜と霧-』だ。国に忠誠を誓う警察官ポドリ君が、会えない父をひたすら思いつつ、秩序を乱すしぶといネズミたちと繰り広げる悪戦苦闘に、ブラックな笑いや下ネタもふんだんに盛り込んだ、カルト映画の新たな傑作である。
過去に国民へのプロパガンダに使われた「大韓ニュース」や、民主化デモとその鎮圧を想起させるシーン、ポドリ君の両親が李明博(イ・ミョンバク)と朴槿恵(パク・クネ)という危うい設定に、ざらついた映像と音楽が興を添える。キム・ソン監督は、タブーなき批判精神で韓国が抱えて来た政治的問題や自家撞着=自己矛盾を過激にあぶり出し、徹底的におちょくり倒す。
韓国で「GeeBak(ジーバク:ネズミミョンバク)」は、ネズミに顔が似ている李明博の蔑称で、韓国語の「ネズミ」は男性器を揶揄する意味を持つ。とあるシーンのポドリ君の姿からは、作り手の「二人は正真正銘の親子!」なんて声が聞こえてきそうで、思わずニヤリとしてしまう。一方、キッチュなコラージュ人形たちには、朴正煕(パク・チョンヒ)による、ベトナム戦争の派兵で生まれたライタイハン(韓国軍兵士と現地人女性との間にもうけられた混血児)の悲劇をイメージして慄然とする。韓国の歴史通であればあるほど笑わせられもし、才能の非凡さに恐れを覚えるはずだ。
クエイ兄弟や、シュルレアリストのクリエイターであるヤン・シュヴァンクマイエルの諷刺作品『ボヘミアにおけるスターリン主義の終焉』の影響を認めつつ、これらの作品とは違うと監督は語る。耽美的なクエイ兄弟とシュヴァンクマイエル作品に比べ、『ポドリ君~』の悪趣味なおふざけは、現実を鋭く切り裂く皮肉の刃となっている。
韓国では『自家撞着:時代精神と現実参加』のタイトルで公開が待たれたが、映像物等級委員会(韓国の映倫)は、2011年6月に特定の権力への嫌悪を、2012年9月は当時大統領候補だった朴槿恵の描写を、それぞれ問題視し、二度に渡り事実上の上映禁止処分の決定をした。だが裁判を経た今年5月、ソウル行政法院は「大人にとって、この映画は自由な批判にまかせておくべきだ」との判決を下した。勝訴を手にした監督は、とある記事で(このインタビューのタイトルは)「朴槿恵の手先である映像物等級委員会よ、自滅せよ」にしてくれ、と笑う。その舌鋒に次回作も期待せずにいられない。
『ポドリ君の家族残酷史X -韓国の夜と霧-』
原題 자가당착 : 시대정신과 현실참여 英題 Self-Referential Traverse: zeitgeist and engagement 韓国未公開
監督 キム・ソン 出演 チョン・アヨン、カン・ソク、イ・ラニ
2013年6月29日(土)より、シアター・イメージフォーラムにてレイトショー、以降全国順次公開
公式サイト http://podori-zankoku.com/
Writer's Note
Kachi。すでにマスコットから引退したポドリ君に会いたくて、ソウル滞在中は毎日のように警察署の周囲を見回りましたが、みつかりませんでした…。もはやポドリ君を拝めるのは本作だけのようです。
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