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Interview アジアンクィア映画祭共同代表・入美穂さんに聞く ~クィア映画が自然なものとして存在するのが理想

Text by Kachi
2013/4/24掲載



 日本で唯一、アジアのクィア映画だけを上映する映画祭、アジアンクィア映画祭(Asian Queer Film Festival:以下、AQFF)が、シネマート六本木を会場に、5月24日(金)~26日(日)、5月31日(金)~6月2日(日)の6日間に渡って開催される。

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 AQFFは、製作や発表の機会が少なかったり、国によってはその性的指向のために法で罰せられるなど、欧米に比べて抑圧されがちなアジアのセクシュアル・マイノリティとその作品を紹介するために、またクィア当事者の立場から自由な描写ができるインディーズ映画を発掘し、映像文化全体の発展に寄与するため、2007年にシネマアートン下北沢でスタートした。以来、会場を変えながら隔年開催されているが、上映されるや大きな反響を呼んだイ=ソン・ヒイル監督『後悔なんてしない』(第1回、2007年、AQFFでは『悔いなき恋 -NO REGRET-』とのタイトルで上映)をはじめ、ソウルの有名なゲイストリートを舞台にした珠玉のドキュメンタリー『チョンノの奇跡』(第3回、2011年)などを紹介し、クィア当事者やアジア映画ファンのみならず、すべての映画好きを魅了する映画祭に成長した。

 第4回となる今年、韓国作品は、イ=ソン・ヒイル監督3部作「One Night and Two Days」(『あの夏、突然に』『南へ』『白夜』)、キム・スヒョン監督『マネキンと手錠』、キム=チョ・グァンス監督『2度の結婚式と1度の葬式』、ソ・ジュンムン監督『REC』、同『蛍の光』(アンコール上映)、ルディー・リー監督『女優』、チャン・ユンジュ監督『ネイル』、アンドリュー・アン監督『アンディ』と、長中短編あわせて10作品が上映される。

 AQFF発足当時から共同代表を務める入美穂(いり みほ)さんは、1999年からインディーズで映画作りを開始し、レズビアンの日常を描いた映画5作品を監督した。入さんの作品は各国のLGBT映画祭で上映されたが、2000年のソウルLGBT映画祭(Seoul LGBT Film Festival:以下、SeLFF)での上映がきっかけとなり、韓国映画を多く見るようになったという。映画祭直前、アジアのクィア映画だけを上映する映画祭に対する思いや苦労、今年の見どころなどをうかがった。



インタビュー


── 韓国映画がお好きな入さんから見て、韓国と他のアジア諸国とでクィア映画の違いはどんなところでしょうか?

韓国は映画産業の豊かな国なので、クィア映画も脚本がしっかりしていて、撮影技術が卓越していると感じます。映画祭や配給など、芸術映画を受け入れる体制も整っています。たとえば『REC』は、ソ・ジュンムン監督が配給会社のJINJIN Picturesに直接売り込んで韓国での劇場公開が実現したそうです。クィア映画がそうやって劇場公開されるということ自体、すごいです。

── 韓国のクィア映画は、昨年チョン・ギュファン監督『重さ/The Weight』がベネチア国際映画祭でクィア獅子賞を受賞したり、イ=ソン・ヒイル監督『白夜』がベルリン国際映画祭で披露されたりと海外で評価される一方、国内ではトランスジェンダーが出演するバラエティ番組「XY彼女」が、視聴者から抗議の嵐で開始早々に放送中止になってしまいました。SeLFFと交流されている入さんは、このような現状をどうお考えですか?

一進一退ですね。若い人たちにはあまり先入観もないですが、やはり50代~60代の世代にとってはバッシングの対象です。韓国では良いクィア作品が増えてきていて、最近はKBS系列で「クラブピリティスの娘たち」というドラマ(注)があったのですが、これも抗議が殺到して再放送できないようです。作品としてしっかりしていましたし、このような番組が作られたことが貴重だったので上映交渉をしたのですが、本国での事態が影響してか、かないませんでした。

世界で評価され、国内ではバッシングという動きは、そのバッシングがいかに時代遅れかという証明にもなります。SeLFFと交流したり、映画祭を主催している立場からすると、バッシングの事実も含めて、監督が当事者か否かに関わらずクィア要素が含まれた映画が高く評価されたり、きちんと当事者の声を代弁した番組が作られたということは、映画監督を目指す者に大きな影響を与えるので、映画祭などのイベントがより活性化するとてもいい動きだと思います。

(注)「クラブピリティスの娘たち」は、50代の女性が営むレズビアンバーを舞台に、30代のキャリアウーマン、10代の女子高生と年齢も仕事も様々なレズビアンの女性たちが織りなす愛を描いたスペシャルドラマ。2011年8月7日の放送直後より、偏見の多い抗議が殺到した。
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『2度の結婚式と1度の葬式』

── クィア映画の中でもレズビアン映画はゲイ映画より少ないです。

それはアジア全般で言えますが、原因の根本は「女性」という立場の弱さ、地位の低さですね。そもそも映画製作の現場は男性が多く、女性監督自体が少ないですから。ヘテロセクシュアルの男性がレズビアン映画を作ると、男性目線のファンタジー色が強くなる傾向があり、あまり良い作品が生まれません。かといって、レズビアン当事者として映画を作るのも、カミングアウトの問題が絡む上、偏見を持った男性から「男は不要なんだろう、女の力だけでやってみろ」と言わんばかりのプレッシャーをかけられたという話も聞いたことがあります。それと、レズビアン映画はどうしてもポルノ・ムービーのイメージがつきやすく、正規の商業映画のルートに乗りづらいんです。このイメージは払拭していきたいです。

── 数少ないレズビアン作品には、韓国の『OUT:ホモフォビアを叩きのめす!プロジェクト』のように、女性の地位向上を訴えかける文脈でレズビアンの存在が語られることが多いように感じます。

レズビアンの問題はフェミニズムとは切り離せないので、こういった作品が出るのは当然なのだと思います。これまで見てきたアジアのレズビアンのドキュメンタリーも、そういう傾向が強いです。

── 韓国映画に限って感じるのは、大ヒット作『サニー 永遠の仲間たち』にもある、女性同士での濃い友情、身体の接触の親密さです。映画で描かれるレズビアンとただの女友達とのボーダーはあいまいです。

あいまいだからこその傑作もありますが、本当はもっと直接的に出したいのに、それを避けるためにあいまいにクィアを描く場合もあります。それは、率直に描写されたクィアの姿に嫌悪感を示す人がいるからですよね。ただの友情物語なら、見る人の裾野は広がっていくのですが、あいまいにされることは存在しないことと同じなので、クィア当事者にとってはいつまでも辛いままなんです。クィア映画が広がりを見せるまでの途上ならそういう描き方も必要ですが、はっきり「レズビアン映画」と主張する作品がもっとあってもいいのでは?と日々思います。

── キム=チョ・グァンス監督『2度の結婚式と1度の葬式』にもレズビアンが登場します。

この作品は「偽装結婚」がテーマなのでゲイもレズビアンも登場し、観客の皆さんから上映を期待されている作品です。スチル写真もとても素敵ですが、レズビアンの描写についてはまだ少し浅く、場面も少ないですね。物語の設定上でレズビアンが登場する、という印象が強いです。

── キム=チョ・グァンス監督は「笑えるクィア映画」をポリシーにしているそうです。

確かにアジアのクィア映画は全般的にシリアスですね。彼らを取り巻く厳しい現実を反映していることが多いので、仕方がないといえます。もっと明るい作品も見たいのですが、なかなか表立って出てこない。そんな中でも笑いを、という監督のポリシーは素晴らしいですし、尊敬します。

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『マネキンと手錠』

── 『マネキンと手錠』もレズビアン映画ですね。

そうなんですが、ヘテロセクシュアルの男性目線を意識させない作品になっていて驚きました。レズビアンの監督が作ったのではないかと錯覚するほど共感できました。男性が作ったレズビアン映画でこんなに満足できたのは初めてです。クィア映画には自分のセクシュアリティに悩むテーマをもつ作品が多いですが、そういうものとも違っているので、初めはとっつきにくいですが、見ているうち引き込まれていく作品です。レズビアン映画史上、革命的な作品になるかもしれません。キム・ヒョジンとキム・コッビがいいですね! 二人の力は大きいです。

── AQFFといえばイ=ソン・ヒイル監督ですね。第1回で『後悔なんてしない』を日本初上映しましたし、今年「イ=ソン・ヒイル トリロジー」として『あの夏、突然に』『南へ』『白夜』の三部作をクロージング上映する「One Night and Two Days」は注目プログラムの一つです。

ヒイル監督の作品は、まだ韓国で一般上映がされていない段階で上映交渉に入りました。どの作品も配給が間に入ると交渉は難しくなるものですが、配給からプレビューをもらうのに一苦労でした。

── 彼の作品ということで「これは!」と思われたのですね。ヒイル作品の魅力はどんなところですか?

彼はインディーズ出身ですが、もはや名実ともに一流の監督になったと思っています。映像美にこだわった作品は概して脚本が弱いですが、彼はそんなことないんですよね。作品のどのシーンをスチル写真として切り取っても、それだけで成立してしまうような詩的で美しい画面。『後悔なんてしない』は、手がかじかむようなソウルの寒さが伝わってくる独特な色味の画面ですが、どこか温かい。そんなことが作品全体から伝わってくるんです。脚本も展開に派手さや奇抜さはありませんが、よく練られていて、この後二人はどうなるの?と、主人公たちに寄り添いたくなる気持ちにさせてくれます。さらに彼がすごいのは、そのスタイルが有名監督になっても変わらないことです。大きい作品を手がけるようになれば、興行的にも成功しなければとプレッシャーがかかりますし、一般受けをねらってゲイシーンを必要以上に綺麗にしすぎたりなんてこともありますが、ヒイル監督作はいつもむき出しのリアリティーがあります。でもそれが元々の才能で、本当に美しいんです。こういう監督は貴重です。

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『白夜』

── 惚れ込んでらっしゃるのですね。今年は監督の招聘も予定されています。どんな方なのですか。

それほど長い時間お話をしていないので、ほんの印象なのですが、ブレない、土台がしっかりした方です。

── 5月にお会いできるのが楽しみです! ヒイル監督が計画したオムニバス映画『カメリア・プロジェクト:ボギル島の三つのクィア・ストーリー』でデビューし、『REC』『蛍の光』が上映されるソ・ジュンムン監督について伺います。『蛍の光』は、かつての恋人同士が老いて再会するストーリーですが、「老いと同性愛」はクィア映画の重要なテーマなのでしょうか。

クィアにとって「老後をどうするか」は大きな問題です。結婚という選択肢は、今はまだありませんし、それに伴う公的な補助もないですしね。あと、ゲイ男性にとって老いは恐怖のようです。ゲイコミュニティの中でちやほやされるのは常に、若くていい体をした男性ですから。

── 『REC』はどんな作品ですか?

登場人物は男性二人だけ。舞台もホテルの一室で話が進むので、二人の感情に乗れないとちょっと難しいですが、入り込めればとても良い作品だと思います。ジュンムン監督はまだ若いので、作品に甘さやゆらぎも感じます。でもAQFFは、良作の紹介だけでなく、作り手の応援というスタンスもあるので、上映を決めました。

── 映画監督をされていた入さんですが、今、クィア映画の製作はどのような状況でしょうか?

たとえば短編Bの一本『アンディ』のアンドリュー・アン監督は、『アンディ』の後に『Dol (First Birathday)』を撮っていて、昨年サンダンス映画祭で上映されたりしているのですが、作り続ける監督って本当に少ないです。自分の経験から言うと、映画製作自体の大変さもさることながら、クィア映画のようなインディーズ製作から始めた人は必ず岐路に立つ時が来ます。そこで選択肢はいくつかありますが、商業映画に方向を変えていくことが最も高いハードルです。インディーズ系の短編作品の後で長編の『2度の結婚式と1度の葬式』を撮ったキム=チョ・グァンス監督は、方向転換が上手くいった例ですが、彼はもともとプロデューサーとして商業映画の世界にいて、短編映画もその布石となる作りだったことで、可能だったのだと思います。

── 『チョンノの奇跡』のソ・ジュンムン監督のパートでは、彼が撮影現場でただ一人のゲイであることで抱えるストレスと孤独が印象的でした。

そうですね。ですので、『後悔なんてしない』のようにゲイであることを公表した監督がインディーズで製作したクィア映画が商業的に成功したことは、本当に重い事実です。モデルケースがあれば後に続く人が出ますから。

── AQFFも今年で7年目を数えます。今後の展望などを教えて下さい。

これまで隔年開催にしていたのは、プログラムを「アジア」「インディペンデント」「クィア」の3点にしぼると、作品が集まりづらいと思ったからです。ただ近年は、アジアのクィア作品も増えつつあるので、作品数だけなら映画祭の規模を大きくできるかもしれませんし、その方が上映される監督のためにもなります。ただ運営は全員ボランティアなので、やはり隔年がやっとというところです。

でも本当は、クィア映画が自然なものとして存在していくことが理想です。アジアのクィア監督がカンヌの常連になったり、オスカーを競いあったりする世の中になったら、その時はアジアのクィア映画祭ではなく、アジアで特にクィア映画が生まれにくい国に限定した映画祭をやっているかもしれません。そしてその国の映画が世界に知られ始めたら、また別の…というように。いずれは、私たちが上映する映画が「クィア映画」とカテゴライズされずに済むようになればと願っています。その時は、AQFFはなくなってもいいのかもと考えています。

あと忘れないようにしているのは、映画祭としての楽しさと、文化としての映画を芸術として感じること。差別や偏見をなくすために訴えたいことはたくさんありますが、それが主になって「活動」に傾き過ぎるのではなく、あくまで映画を楽しんでもらい、多様な愛や生き方を知ってもらいたいです。



取材後記


 アジアのクィア映画の、日本屈指のパイオニアへのインタビュー。かなり気後れしつつ取材場所に到着したのですが、お会いした入さんは穏やかな方で、まだまだ知識不足の筆者の質問に真剣に答えて下さいました。作品や監督に寄り添ったお話しの数々を思い出すにつけ、「クィア映画や監督が実力で評価される世の中になったらAQFFはなくなってもいい」という言葉の重さを感じます。長時間のインタビューに応じて下さり、改めてお礼申し上げます。


第4回アジアンクィア映画祭
 期間:2013年5月24日(金)~5月26日(日)、5月31日(金)~6月2日(日)
 会場:シネマート六本木
 公式サイト http://aqff.jp/


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