Interview 『1999、面会~サンシャイン・ボーイズ』キム・テゴン監督、主演キム・チャンファンさん独占インタビュー
Text by mame
2013/3/31掲載
1999年の韓国を舞台に、高校卒業後1年が経った同級生2人組が、兵役に入った友人を訪ねて面会に行く道すがらに起こるエピソードをユーモラスに綴ったロードムービー。脱力系のボーイズトークに笑いが絶えない一方、それぞれ違う道を歩む3人の心情の変化も細やかに描かれていて、後味爽やかな映画です。第8回大阪アジアン映画祭で来日されたキム・テゴン監督と、軍人ミヌク役を演じたキム・チャンファンさんにインタビューを行いました。

『1999、面会~サンシャイン・ボーイズ』英語版ポスター
インタビュー 2013年3月15日(金)
── 映画、楽しく観させていただきました。日本人にとっては謎であった、韓国の兵役生活が垣間見れて楽しかったです。作品を作ったきっかけを教えて下さい。
監督:私が20歳の頃に友人ミヌクに面会に行った時のエピソードが基になっています。そもそもは短編を作るつもりで脚本を書き始めていたのですが、なかなか機会を作れずにいた頃、当時の友人と再会し、呑みながらこの映画の話をした際に、これは長編でもいけるんじゃないかな?という話になりました。
── 実際に軍隊に行ったときのエピソードが反映されていますか?
監督:そうですね、軍隊生活というよりは、家族や友達や恋人が面会に来てくれた時のエピソードが反映された映画です。韓国の軍隊について補足すると、誰かが面会に来てくれた時のみ1泊2日の外出が許されているのですが、行けるエリアは全て決められているので、1歩でもそこから抜け出すと逮捕(!)されてしまいます。
── そうなんですか! では、毎日でも面会に来てもらいたいぐらいですね。チャンファンさんはいかがでしたか?
チャンファンさん:そうですね。私も実際に兵役を経験してますので、自分の経験が大いに反映されていると思います。
── 1999年を背景にした理由を聞かせて下さい。
監督:私が面会に行った年が1999年だったので、その頃を思い出しながら作りました。ファッションや音楽も当時のものが使われていて、思い入れのある時代なので韓国の人が懐かしく思えるような、1999年の韓国に戻ったような気分で楽しんでくれたら良いなと思っています。また、韓国では1998年にIMF危機があり、当時高校を卒業して社会に出なければならない自分達はとても不安定な立場にありました。そうした時代を背景に映画を作ることは、皮肉ではないですが意味を持つのではないかと思っています。S.E.Sの曲は、友人のミヌクがファンだったので使ったのですが、メンバーのパダさんが「映画必ず観に行きます!」とツイッターでメッセージを下さって、大変感激しましたね(笑)。
── この映画は釜山国際映画祭でも上映されましたが、国内での反応はいかがでしたか?
監督:当時を知る韓国人にとっては、懐かしいと思ってくれているようで好評でした。あえて今この時代を背景にした映画を作ることが国内での共感を呼び、話題を提供できたかな?と思っています。2月下旬から劇場公開されているのですが、中には5回、6回と観てくれている方もいるらしく、大変嬉しいですね。
── チャンファンさんは、釜山で韓国映画監督組合賞男優賞を受賞されましたが?
チャンファンさん:感激しましたね。本当に予想してなかったので(笑)。パーティで美味しいものを食べる事しか考えてなかったので、受賞を聞いた時は全く信じられず本当に驚きました。
監督:私は事前に知っていましたが、あえて伝えませんでした(笑)。
── チャンファンさんは、子役としてデビューされたそうですが、今回、監督の友人役を演じる事は難しくなかったですか?
チャンファンさん:ミヌクは自分のキャラクターに近かったので、そんなに難しさは感じませんでした。実際に兵役を経験していましたし。私はドラマで子役としてデビューした後、少し演技から遠のいた時期があって、軍隊に行って帰ってきて、また俳優をやっています。

キム・テゴン監督(左)、キム・チャンファンさん(右)
── お2人の兵役中のエピソードもお聞かせ下さい。チャンファンさんは、入隊中に演技をしたい!という思いが出てきたりしませんでしたか?
チャンファンさん:全然!(笑) 先ほどの話のように、とにかく面会の日が待ち遠しくて、遊びたい!外へ出たい!という気持ちでいっぱいでしたね。除隊後は演劇のスタッフとして働いていたのですが、やはり演技がしたくなって、再び演技の道へ戻ってきました。
監督:私は大学の演劇映画科出身だったのですが、2年2ヶ月の兵役中は、時間を作ってシナリオを書いたりして、なかなか充実した時間でしたね。
── ずいぶんと対照的な軍隊生活ですね(笑)。キャスティングについてお聞きします。今回キム・コッビさんが「タバンアガシ(飲み屋のホステス)」として登場したのが意外でした。
監督:コッビさんとは、『息もできない』が上映された2009年のロッテルダム国際映画祭からの知り合いで、私もそこに映画『毒』(2009:日本未公開)を出品していました。その頃から一緒に映画が出来たら良いね、と話したりしていて、偶然にもコッビさんの家が私の家の近所だったのですが、会う機会が持てずにいました。今回のシナリオが仕上がった時に、この役は自然な感じだが、ちょっと神秘的なイメージのある人にやってもらいたいなと思って、コッビさんにシナリオを送り、近所のカフェで会う事ができました。最初はコッビさんも役の設定に戸惑っていたようですが、「3人の主人公の隣に座っても違和感のない、近所のお姉さんのようなイメージで演じて欲しい。“なぜこの女性はこんな仕事をしてるんだろう?”と思わせるような雰囲気が出せればと思っている」と説明すると、納得してくれました。
── チャンファンさんは、今回の映画で印象に残った共演者は?
チャンファンさん:スンジュン役のアン・ジェホンさんですね。映画のキャラ通り、とても楽しい方で、場面場面で効果的なアドリブを発揮するのが面白くて勉強になりました。
── 3人の主人公はそれぞれ軍人(ミヌク)、大学生(サンウォン)、浪人生(スンジュン)と境遇が違いますが、一番女性にモテるのは誰だと思いますか?
チャンファンさん:やっぱりこれ(サンウォンの指をかぐ仕草)でしょう?(笑)
── 劇中ではサンウォンが指をかぐ仕草が頻繁に登場しますが、その仕草には青春時代ならではの甘酸っぱい思い出が込められていますよね。では、3人はそれぞれ大切なものを失いますが、一番不幸なのは誰だと思いますか?
監督:ミヌクですね。彼だけは辛いことがあっても軍隊に戻らなければいけないので。
チャンファンさん:そうですね。私だけまた戻らなければいけないので…(涙)。
── 次回作について教えて下さい。
監督:次回作は商業映画を予定しています。あと、私が製作に関っている作品として、今回主演した3人の俳優を使ってスポーツ青春映画を作る予定です。3人が軍隊から帰ってきて、スポーツに目覚めて…といったところですかね(笑)。
チャンファンさん:今度は私の役ももっと幸せになってくれる事を望みます(笑)。
── 読者へメッセージをお願いします。
監督:今回、大阪アジアン映画祭に作品を持って訪れることができ大変光栄です。この映画はロッテルダム国際映画祭でも上映されたのですが、外国であっても西洋と東洋の感覚は違うし、日本では兵役制度がないので、今回日本の皆さんの反応を観るのがとても楽しみです。いつか私の映画が日本で劇場公開された際に、再び来日して皆さんの意見を聞ける日が待ち遠しいです。
チャンファンさん:大阪に映画祭ゲストとして来られて大変嬉しいです。短い滞在期間ですが、美味しいものをたくさん食べて帰るつもりです! 私もいつか日本の俳優と共演(蒼井優さんのファンだそうです)できる機会が持てるよう、日々頑張りますので、どうか見守っていて下さいね。
取材後記
お互い歳が近い事もあり、チャンファンさんも監督をヒョン(お兄さん)と呼ぶなど、映画さながらの親しい雰囲気で、笑いの絶えないインタビューでした。当初はスケジュールの都合で、日本の観客と一緒に鑑賞する機会は持てなかったのですが、予定を変更して梅田ガーデンシネマでの最終上映を一緒に楽しまれました。いちばん笑い声が大きかったのが、ミヌクが先輩の前で「二等兵、キム・ミヌク!」とガチガチの喋り方をする場面。このシーンは通訳さんの息子さん(9歳)もお気に入りで、家に帰ってからずっと真似をしている、というエピソードにテゴン監督も演じたチャンファンさんも大喜びでした。

ティーチインの模様
第8回大阪アジアン映画祭
期間:2013年3月8日(金)~3月17日(日)
会場:梅田ブルク7、シネ・ヌーヴォ、梅田ガーデンシネマ、第七藝術劇場、プラネットプラスワンほか
公式サイト http://www.oaff.jp/
『1999、面会~サンシャイン・ボーイズ』
原題 1999, 면회 英題 Sunshine Boys 韓国公開 2013年
監督 キム・テゴン 出演 シム・ヒソプ、アン・ジェホン、キム・チャンファン、キム・コッビ
韓国版公式サイト http://blog.naver.com/1999visit
特集 第8回大阪アジアン映画祭
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