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Review 『クロッシング』

Text by Kachi
2012/7/2掲載



 2002年5月8日、中国・瀋陽の日本国総領事館に北朝鮮から亡命した一家が保護を求めて駆け込んだ。中国警察に取り押さえられて泣き叫ぶ母親と背負われた子どもの姿は今なお目に焼き付いている人も多いだろう。実はその2ヶ月前にも北京のスペイン大使館に脱北者25人が駆け込む事件が起きていた。『クロッシング』はその出来事にヒントを得て作られている。

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 元サッカー北朝鮮代表選手だったヨンス(チャ・インピョ)は、身重の妻ヨンファ(ソ・ヨンファ)と11歳の息子ジュニ(シン・ミョンチョル)、ペックと名付けた犬と生活している。ジュニとサッカーをし、仲間と酒を飲む。つましいが幸せな日々だった。しかし国家情勢の悪化はひそやかな暮らしにも忍び寄ってくる。ジュニの幼なじみミソン(チュ・ダヨン)の父親はスパイ容疑で連行され、食料は乏しくなり、ヨンファは肺結核の診断を受ける。妻のために薬を手に入れようと、ヨンスは家族を残して中国へ渡る決意をする。幾多の危機を乗り越えながらもなんとか中国へ入ったヨンスは、脱北ブローカーから「インタビューを受ければ金をやる」と言われ、意味も分からないまま瀋陽のドイツ領事館に集団で駆け込んだ。しかしその後、脱北者として世界へ向けて記者発表するのだと知り「国を捨てられない」と拒絶する。

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 一方、北朝鮮では夫の帰りを待ちながらヨンファが息を引き取る。ジュニは父に会いに中国へ向かうのだが、再会したミソンとともに国境警備隊に捕まってしまう。収容所での労働の中、怪我がもとでミソンは命を落とす。絶望するジュニを、ヨンスを脱北させた団体が見つけ、警備隊にワイロを渡して釈放してもらう。ジュニは他の脱北者たちとともにモンゴルへ渡り、ヨンスと落ち合うことになる。しかしモンゴルの空港でヨンスは素性が分かってしまい足止めされる。一方、ジュニたちも国境で警備に見つかってしまう。たった一人逃れたジュニは、モンゴル砂漠を越え父の元に向かうが…。

 『クロッシング』は「脱北」が、もはや政府要人や金持ちの亡命ではなく貧しい人々にまで及んでいることを描いているが、それと同時に「脱北者」というくくりがはらむ問題も提起している。当時世界の関心は、脱北者が貧困にあえぐ国民の代表として命がけで自国を糾弾する姿だった。「家族が待っているから国に帰る」というたった一人の気持ちを誰がかえりみただろうか。

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 意に反して中国からソウルに連れてこられ、「いつになれば北へ帰れるのか?」といら立つヨンスに、韓国人工場長がキリストの教えを諭す。しかし、ミソンの父親がキリスト教を信仰していたことで連れて行かれた事実を知っているヨンスは耳を貸さない。

   「イエスは南朝鮮にだけいるんですか?」

   「神様も豊かな国だけ?」

   「なぜ北朝鮮を放っておくのですか?」

 神のように目に見えない存在に希望なんて持てるはずのない、理不尽さを目の当たりにしてきたヨンスと、そんな国を放っておく「豊かな国」。ヨンスの叫びは、小さな出来事や存在を黙殺してしまう世界すべてに向けられていた。

 父の気持ちに呼応するように、ジュニは砂漠をひたすら歩く。愛する母を失い、収容所では人間がモノのように使い捨てられ、淡い恋心を抱いていたミソンも守れなかった。国への非難も信仰もない。ただあるのは、背負った無念と父への思いだけだ。待っている結末がどうであれ、そんなジュニの姿から目を離すことはできない。

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 砂漠に倒れたジュニが見る夢に出て来た父と母、ミソン、ペック。そのペックの白さが、大きな力に理不尽に飲み込まれていった小さな幸せの残像のように、観る者の目に焼きつくことだろう。


『クロッシング』
 原題 クロッシング/英題 Crossing/韓国公開 2008年/日本公開 2010年
 監督 キム・テギュン 主演 チャ・インピョ、シン・ミョンチョル
 公式サイト http://www.crossing-movie.jp/

Reviewer's Profile
 Kachi。1984年、東京生まれ。図書館勤務。イ・チャンドン監督の『オアシス』で韓国映画に目覚めました。





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