Report ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013 ~「おかえりなさい」「ただいま」純白の街が映画一色に染まった5日間
Text by hebaragi
2013/3/13掲載
今年も「ゆうばりファンタ」の季節がやってきた。ゲストの映画人や観客が夕張に到着すると、市民から「いらっしゃいませ」ではなく「おかえりなさい」の言葉で迎えられる。リピーターが多い映画祭であることを物語る心温まるエピソードである。人の背丈を超える雪におおわれた街が映画一色に染まる5日間。かつて「夕張に降る雪は世界一美しい。神が雪を降らせている街だ」と語った外国人ゲストがいた。その言葉どおり、今年も映画祭に集う映画人と観客、そして市民の思いは降り積もる雪を溶かすほどに美しく熱かった。今回で23回目を迎えた「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013(以下、ゆうばりファンタ)」のレポートをお届けする。

ゆうばりファンタの構成は回を重ねるごとに大きく変わってきた。初期の頃は大物ゲストを招聘するなど派手な印象が強かった。夕張市の財政破綻後、2008年の再開以降は「新たな才能の発掘」「上映機会の少ない良質な作品の紹介」「映画人との交流」という映画祭の原点に立ち返った企画による運営が行われてきた結果、観客や映画人の反応もおおむね良好で、映画祭をきっかけに様々な企画が生まれるようにもなった。今回の「ゆうばりファンタ」では開催直前の追加分を含め、過去最高となる145本の作品が上映された。上映環境も今年から全てデジタル上映となるなど改善が図られたほか、新たにショートフィルムを対象としたコンペ部門がスタートし、今回のテーマである「一歩その先へ」が感じられる映画祭になった。
社会派の力作が光るオフシアター・コンペティション部門
オフシアター・コンペティション部門(以下、オフシアター部門)ノミネート作品の特徴として、ドキュメンタリー制作などの経験を持つクリエイターの手による社会派の視点を感じるものが多かったことが挙げられる。グランプリとシネガー・アワードのダブル受賞となった『暗闇から手をのばせ』は障がい者の性をテーマにしているが、ドキュメンタリーの中にユーモアを含むとともに、真摯なメッセージが伝わってくる作品だ。スカパー!映画チャンネル賞受賞の『樹海のふたり』は、富士の樹海を舞台にしたサスペンスタッチのストーリーをベースにしながら、主人公ふたりの生き方をサブストーリーとして展開する力作。審査員特別賞受賞の『ケランハンパン』はチュ・ソヨンが出演する日韓合作セクシャル・コメディで、「恋愛格差」に悩むアラサー女子のやるせない気持ちをユーモアたっぷりに描いている。また、受賞こそ逃したが、『少年物語』は韓国で社会問題となっている「家出ファミリー」の少年たちを描き、同様の格差社会に直面する日本人にも大きな衝撃を与える作品である。さらに『ami? amie? つきあってねーよ!』は基本的にはラブコメディだが、同性同士の結婚がテーマになっている骨太の作品だ。審査委員長の塚本晋也監督は「現在のオフシアター部門は商業映画レベルの良質な作品が多く、まるで同業者の作品を審査するようなもの」と印象を語っていたが、観客の多くも同様の感想を持ったのではないだろうか。

ゲスト総出のフォトセッション
多彩な魅力のショートフィルム・ショウケース部門
今回からコンペの対象となった「インターナショナル・ショートフィルム・ショウケース部門(以下、ショートフィルム部門)」では、ホラー&サスペンス、ミステリー、ファンタジー、コメディの4ジャンルに国内外から20本の作品が出品された。どの作品もレベルが高く、予定調和的なストーリーが見あたらなかったことが新鮮に感じられた。優秀CG賞受賞の『虹色』は美術をテーマとした映像美が秀逸な作品。優秀実写賞受賞の『京太の放課後』は原発事故による放射能汚染におびえる親子を防災ずきんをかぶった子どもの視点から描いている。優秀アニメ賞受賞の『嫌われ者のラス』は魚たちの視点から環境問題へのメッセージを込めた作品。『水の足跡』は北関東の山間を訪れたカメラマンが出会った不思議な出来事を美しい風景の中でファンタジックに描いている。また、映画ファンの心の中に入り込んだような『アントワーヌとヒーロー達』のような楽しい作品や、『色声』のようなユニークなテーマの作品も注目の的だった。
秀作ぞろいの韓国ショート・フィルム
ショートフィルム部門にノミネートされた韓国映画4作品(『未確認生命体』『影』『Cackile - コケコッコー』『愛のゲーム』)はそれぞれユニークな設定が新鮮な印象。このうち『影』はサプライズアニメ賞、『愛のゲーム』はサプライズ特別賞を受賞した。また、ウェイン・リン監督による『復讐人』は、復讐する側とされる側のやりとりが韓国語によって行われる息詰まるワンシチュエーションドラマだ。コンペ部門以外では「ゆうばりチョイス」で、「PiFan Youth Film Academy collectoin」として、プチョン国際ファンタスティック映画祭(PiFan)の第2回ワークショップ作品7本(『あがき』『それでも私は無視をする』『友よ』『バンッ!』『文通しませんか?』『シーソー』『俺たちのドンキホーテ』)が上映されたが、世界屈指のIT大国ならではの恋愛模様がテンポよく描かれた『文通しませんか?』や、現代韓国の若者模様が生き生きと描かれた『バンッ!』など、若い感性がほとばしる作品が目立った。さらに「Pisaf Master Class」として、2012年に開催された第14回プチョン国際学生アニメーション・フェスティバルから、『マリといた夏』で知られるイ・ソンガン監督の新作『ひとりぼっちの怪物』と、『Green Days~大切な日の夢~』のアン・ジェフン、ハン・ヘジン監督の新作『蕎麦の花が開く頃』が日本で初公開された。この2本はテイストは異なるものの、洗練されたストーリーと映像美に圧倒される秀作だった。

ティーチインでのキム・コッビ
熱気あふれる「キム・コッビまつり」
作品紹介の際にMCの女性がはからずもネーミングした「キム・コッビまつり」。その名にふさわしい3本の出演作品がキム・コッビの舞台挨拶とともに上映され、大きな盛り上がりを見せた。『蒼白者 A Pale Woman』は彼女が初めてフィルム・ノワールに出演した作品。大阪の裏社会を舞台にした緊張感あふれるストーリーは切ないラブストーリーの要素も含みながら展開し、新鮮な印象を受けた。『クソすばらしいこの世界』はスプラッター映画のイメージが強い中で、日韓の留学生の意識の違いも描いている。山口幸彦プロデューサーは、この作品のコンセプトについて「勉強をしない日本の留学生がダメで勉強熱心な韓国の留学生が素晴らしいということではなく、文化の違いを描いた」と話していた。青春映画『1999、面会~サンシャイン・ボーイズ』でのキム・コッビは飲食店で接待を行う女性(タバンアガシ)の役を表情豊かに演じており、彼女らしい瑞々しさが感じられた。
韓国映画を育むゆうばりファンタ
ゆうばりファンタは初期の頃から韓国映画の紹介に力を入れてきていることで知られる。『猟奇的な彼女』が2002年のヤング・ファンタスティック・グランプリ部門(現在休止中)でグランプリを受賞したことをきっかけにクァク・ジェヨン監督と日本のプロデューサーが出会い、『僕の彼女はサイボーグ』の企画につながったのは有名な話である。その後も『木浦(モッポ)は港だ』、『初恋のアルバム~人魚姫のいた島~』、『血の涙』、『チェイサー』などが各賞を受賞している。最近では2011年にオ・ヨンドゥ監督が『エイリアン・ビキニの侵略』でオフシアター部門グランプリを受賞し、翌年、支援金をもとに製作した『探偵ヨンゴン 義手の銃を持つ男』が上映され人気を集めた。また、韓国映画が今ほど注目されていなかった1999年にいち早く『八月のクリスマス』が上映されたほか、その後も、『嘆きのピエタ』主演のイ・ジョンジンが出演する『海賊、ディスコ王になる』、『サマリア』、キム・コッビが出演する『恥ずかしくて』『いま、殺しにゆきます』など注目作をタイムリーに上映しており、「韓国映画の先取り鑑賞ならゆうばりファンタ」との評価が定着している。さらに、プチョン国際ファンタスティック映画祭(PiFan)との姉妹関係を活かし、ゆうばりファンタのコンペ受賞作品がPiFanで上映されたり、PiFanで上映されたショートフィルムが「ゆうばりファンタ」で紹介されるなどの交流が継続されている。2011年のゆうばりファンタで日本の監督やプロデューサーがキム・コッビと出会ったことをきっかけに、今回上映された2作品の企画がスタートしたことは、新たな日韓コラボレーションとして特筆すべき出来事であろう。

クロージングの模様
ゆうばりファンタの一期一会が人生を変える?
オフシアター部門プログラミングディレクターの塩田時敏氏は、クロージングセレモニーで「ゆうばりファンタには人生を変える力がある」と話していた。コンペ受賞をきっかけにその後大きく羽ばたいた監督や俳優が少なくないほか、映画人と観客、観客同士の交流が人生の新たな出発点につながったという話もよく聞く。ゆうばりファンタにはリピーターが多く「ゆうばりファンタの5日間のために1年間働いている」という声もあるほど。まさに「一度行くとクセになる」魅力あふれる映画祭だ。未経験の方はぜひ一度参加してみることをおすすめしたい。
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013
期間:2013年2月21日(木)~2月25日(月)
会場:北海道夕張市内
公式サイト http://yubarifanta.com/
特集 ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013
Report ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013 ~「おかえりなさい」「ただいま」純白の街が映画一色に染まった5日間
Interview 女優・キム・コッビさん独占インタビュー
Writer's Note
hebaragi。ゆうばりファンタは、取材のほか、上映会場や飲食店などで映画人や観客・地元市民と交流するのも楽しい。「今年も来たよ」「来年までお元気で」こんな会話が交わせるのも小さな街の映画祭ならではの醍醐味。
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