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Review 『おだやかな日常』 ~震災後の東京で「選択」を許すこと

Text by mame
2013/2/3掲載



 昨年の7月、『大阪のうさぎたち』で来阪の際にインタビューさせていただいた杉野希妃さん。2006年に韓国映画『まぶしい一日』(シネマコリア配給)でデビューした後、日本はおろか海外の映画に出演し、今や「アジア・インディーズ界のミューズ」と呼ばれる程に活躍している。注目すべきは彼女が女優でありながら、出演する映画のプロデュースも手がけているということだ。プロデューサーとは大層な響きだが、映画好きの彼女にしてみれば、女優としてだけでなく、映画をより良いものにしていこうと働きかけた結果、そんな役割を担うことになったという印象だ。大変な労力が必要な役割のはずだが、「良い映画を世に広める」という真摯な姿勢が、その原動力となっているのだろう。

odayaka.jpg

 そんな彼女が『大阪のうさぎたち』の次に主演&プロデュース作として選んだのが、『おだやかな日常』。監督は『ふゆの獣』で男女の生々しい感情のぶつかりあいを描き、注目を集めた内田伸輝。即興的な演出が特徴だが、今回の作品でもシナリオはありつつも、敢えてそれを壊して作り上げられる、リアルな感情が交錯する様に息を飲んだ。

 『おだやかな日常』は2011年3月11日、東日本大震災以降の東京の空気を切り取った作品だ。描かれるのは「放射能」という得体の知れない脅威への、言い知れぬ不安。目に見えず、においもなく、自覚症状が全くない。そんな実体のないものを信じること自体が無理な話だが、浴び続けるとやがてガンを引き起こすと言われている。映画は震災発生直後の緊迫した空気から始まり、ふたりの女性を軸に「あの日」からの東京での生活を追う。

 母たる者、得体の知れない恐怖に対して、まず我が子を守ろうとするのは当然なはず。なのに「個々の選択を優先する」事が「抜けがけ」のように判断され、主人公の母親は凄まじいバッシングを浴びる。ぞっとするが、この感覚は調和を重んじる日本に住む者なら誰しも覚えがあるのではないだろうか。感情を露わにする者、感情をひた隠す者…。全ての登場人物に共感でき、本当は悪者なんていないという事に気づく。

 震災からもうすぐ2年が経とうとしているが、未だに根本的な解決策が見つからないまま日々の生活を営む私たち。阪神大震災を経験した筆者としては、3.11直後こそ「震災経験のある自分なら、何か出来る事があるかも」と思ったが、その規模の大きさ、さらには原発事故という人災には愕然とさせられた。「結局、自分には何も出来ない」という無力感で胸がひりひりする感覚を久々に呼び起こされ、何も言えなくなってしまった。

 シネ・ヌーヴォでの試写では、杉野さんより挨拶があった。

「本作は震災映画と捉えられがちですが、私はここで描かれているテーマは『選択』だと思っています。この映画に登場する人物は様々な困難に直面し、自分で考え、生きる道を選択しようとします。その度に立ちはだかるのが、自分と違う選択をする人たちです。非常事態だからこそ、色々な選択肢があって良いはずなのに、自分と違う意見を持つ者を敵視する、その感覚が他人はおろか自分まで拘束してしまっている、そういう世界に対する疑問を投げかけているのがこの映画です」
 舞台となった東京は、被災地から微妙に離れており、表面的には何もないような顔をした人々で溢れている。だからこそ終盤に投げかけられる「おだやか」という言葉の持つ意味に、はっとさせられた。

 『おだやかな日常』は、東京・関西でのロードショーを経て、2月23日(土)より名古屋シネマテークでも上映が始まる。また、4月20日(土)からはシアターカフェ(名古屋市大須)で「杉野希妃特集」が開催され、『マジック&ロス』『大阪のうさぎたち』『避けられる事』などが上映される。各国の映画人とコラボレーションし、主演、プロデュース、さらには監督作品も控える杉野希妃さんの、これまでの軌跡を追うことのできる貴重な機会だ。


『おだやかな日常』
 日米合作 英題 odayaka 日本公開 2012年
 監督 内田伸輝 出演 杉野希妃、篠原友希子、山本剛史
 2012年12月22日(土)より、渋谷ユーロスペースほか全国順次ロードショー
 2013年2月2日(土)より、渋谷アップリンクにて東京再公開
 2013年2月23日(土)より、名古屋シネマテークにて公開
 公式サイト http://www.odayakafilm.com/

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Writer's Note
 mame。3.11関連作が多数発表されていますが、杉野さんの場合、震災の翌日に大阪で即興撮りした『大阪のうさぎたち』、東京近郊が舞台の『おだやかな日常』と、被災地から離れた場所で震災との関りを描いているのが特徴です。海外公開も見据えて英語字幕付きで上映される本作の英題はずばり『odayaka』。「海外の人には発音しにくいようで『odoyaka』や『odayama』と間違えられるんです」と苦笑しながら話して下さいました。


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