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Report 第13回東京フィルメックス ~女性の成長・美しさ・強さを考える4本

Text by Kachi
2013/1/5掲載



 昨年末、韓国で朴槿恵(パク・クネ)が大統領に当選した。強い家父長制と男権社会のイメージがある韓国で、初の女性大統領が生まれることに対し、変化のきざしを感じずにはいられなかった。そんな情勢を反映しているわけではないだろうが、去る11月に開催された第13回東京フィルメックスで上映された韓国作品は、奇しくも女性を主題にした秀作が揃っていた。

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ティーチインの模様 『私には言いたいことがある』のイン・リャン監督

 オープニング作品は、シネマート新宿で特集『ホン・サンス/恋愛についての4つの考察』も開催され、再び注目が集まったホン・サンスの新作『3人のアンヌ』。映画作家を目指すウォンジュ(チョン・ユミ)が書いている脚本は、「アンヌ」の名を持つ3人のフランス人女性(イザベル・ユペール)が異国の地・韓国で織りなす出会いとひとときの恋愛。ウォンジュとその劇中劇の主人公であるアンヌは、入れ子構造の枠をたやすく越え、ニアミスを繰り返し、妙な笑いを誘ってくる。軽やかなストーリーの中、愛の痛手を受けてもアンヌの後ろ姿は凛としている。ホン・サンス映画の女性像に新たな美しさが加わった。

 コンペティション部門『グレープ・キャンディ』の背景になっているのは、1994年10月に起き、通学途中の女子学生など多くの死者を出した聖水大橋崩落事故だ。この事件は、後に起きた大邱市の地下鉄工事現場ガス爆発事故(1995年4月)、三豊百貨店崩落事故(1995年6月)とともに、災難管理法が制定されるきっかけとなった。実はパク・チャヌクの『オールド・ボーイ』で、オ・デスが監禁部屋で見ているTVニュースにもこの事故報道がある。韓国の多くの人に知れ渡っている衝撃的な出来事だったのだ。

 『グレープ・キャンディ』は、聖水大橋崩落事故にショックをおぼえたキム・ヒジョン監督が、トラウマを抱えて生きる女性の心情を等身大で描いた作品だった。ちなみに監督は「観客の皆さんへ」と、映画に登場する青ブドウ飴を持って来て下さった。一緒に来日された男性主人公、チェ・ウォニョンさんとともに親しみやすい人柄で、上映後のサイン会は大にぎわいだった。

 特別招待作品、キム・ギドクの復帰作『ピエタ(原題)』。非道な借金取りカンド(イ・ジョンジン)のもとに現れた、母を名乗る女(チョ・ミンス)。かつて彼を捨てたことをひたすら詫び、失った絆を取り戻すように世話を焼くが、彼女の潤んだ瞳は、心の奥底を雄弁に語っていた。母は命がけの愛を子に捧げ、子供もそれに応えるように母を求め、無条件で甘える。そこに存在するのは「慈しみ」だけではないことをギドクはえぐり出し、劇薬のようにして提示した。

 映画祭を欠席したギドクは、上映前のメッセージビデオで「始まって20分くらいはとても辛いが、どうか最後まで見て欲しい」と話したが、ラストまで貫かれた母性愛の宿命の痛みは、観客の誰もが感じたことだろう。見事、観客賞を獲得した。

 『チョンジュ・プロジェクト2012』は、毎年気鋭の監督3人を選出してオムニバス映画制作を依頼する、全州(チョンジュ)国際映画祭の看板企画。その中の一本、中国のイン・リャン監督の『私には言いたいことがある』は、『ピエタ(原題)』に呼応するかのような重厚な一作だ。

 2008年に上海で起きた警官殺害事件で逮捕された青年ヤン・ジア。理由もなく精神病院に収容された母ワン・ジンメイは、退院後にヤン・ジアの死刑判決を知る。十分な法的手続きを踏まない裁判。規制される報道で真実は何一つ分からない中、「私には事件のことで証言することも、言いたいこともある」と、ひたすら息子に会おうとする。

 ジンメイは、ほとんど激しい様子を見せないが、行き場のない感情を、息子が連行されてから無情に過ぎた歳月にぶつける。作品の画は事件の闇のように暗く沈黙しているが、悔しさや怒り、悲しみをか細い体からあふれさせる母の姿は厳かで、言葉以上に多くを訴えかけてきた。

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映画祭ポスター

 キム・ギドクが、大作上映に偏る韓国のシネコンに抗議するため、『ピエタ(原題)』の上映を早々に終了させ、映画人としての気骨を見せたのは記憶に新しい。東京フィルメックスの特色は、彼のような、小さいが作家性が強く、チャレンジングな作品が多数集まる点だ。今年も、イン・リャンのように社会への問題提起をはらむ作品、映像表現に凝った作品など、監督たちの独自性が発揮された佳作揃いであった。

 2012年は、富士フィルムでの映画用フィルム生産が終了し、今後のデジタル上映に対応できないミニシアターが、いくつも閉館を余儀なくされた。個性的な映画が発見し辛くなった世の中だからこそ、フィルメックスが続いていって欲しいと切に願っている。


第13回東京フィルメックス
 期間:2012年11月23日(金・祝)~12月2日(日)
 会場:有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇、東劇
 公式サイト http://filmex.net/

特集 第13回東京フィルメックス
 Report 第13回東京フィルメックス ~女性の成長・美しさ・強さを考える4本
 Interview 『グレープ・キャンディ』 キム・ヒジョン監督 ~ある女性の不安定な心と成長物語

Writer's Note
 Kachi。先日、都内某所で古い映画を見ていた時、フィルムが切れるアクシデントがありました(その後無事つながりました)。デジタル上映時代の昨今には珍事でしたが、逆に言えば、少しの修復で視聴可能になるという、フィルムの良さを改めて感じた年の瀬でした。


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