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Review 『拝啓、愛しています』 ~シニア世代を見つめる人間愛に満ちたまなざし

Text by mame
2012/12/3掲載



 この映画をジャンルづけるとしたら、さしずめ「シニア世代のラブストーリー」といったところだろうか。だが、それだけでは足りない。鑑賞後の私は、まるで美しい絵本を読んだ後のような幸福感に満たされていた。

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 隠居生活を送るマンソク(イ・スンジェ)は、おんぼろバイクを乗り回し、早朝の牛乳配達をしている。夜も明けきらない中、急勾配の坂を重そうにリヤカーを引っ張る女性、ソン(ユン・ソジョン)がいた。バイクですれ違った際、転んだ彼女にマンソクは声を掛けるが、言葉はとても乱暴だ。「俺のせいじゃないよな!?」 その威圧的な態度に、ソンは尻込みしてしまうが、強引にリヤカーをひったくり、ずんずん進んでいく後姿に、彼が本当は優しい人であることを悟る。マンソクの方も、どこか寂しげなソンに惹かれ、いつしか坂の上で彼女が来るのを心待ちにするようになる。

 TVドラマ「イ・サン」などの時代劇でおなじみのイ・スンジェが、威厳がありながらもどこか飄々としたマンソクを好演していて、おんぼろバイクを颯爽と乗り回す姿も爽やかだ。このおんぼろバイクが出す騒音は、古紙回収に出かけるソンの目覚ましがわりとなり、認知症を患うグンボンの妻(キム・スミ)は、マンソクのバイクに乗せられて自分の家を探す道中、夫グンボン(ソン・ジェホ)との幸せな記憶を思い出す。妻を助けたことでグンボンとも仲良くなったマンソクは、早朝から働かなければいけないグンボンの家の前で、ブルンブルンとおんぼろバイクを鳴らし、彼を起こしてあげる。老人とバイクという意外な組合せが、物語を躍動感溢れるものにしている。

 認知症の妻と、それを支える夫、「ソン」という名字しか持たず文字も読めない老女と、暗い要素ばかりの登場人物だが、どうしてこんなに輝いているのだろう。それはまさに、マンソクから「ソン・イップン / 송이뿐 / (私には)ソンだけだ」という名前をもらった彼女が、人から愛される喜びを知り、自分も幸せになっていいんだと実感する瞬間から輝き始めるからだ。

 「クデルル サランハムニダ / 그대를 사랑합니다 / きみを愛しています」 本作の原題にもなっているこの告白には、マンソクの特別な思いが込められている。死別した妻に呼びかけていた「タンシン / 당신 / あなた」ではなく、「クデ / 그대 / きみ」。愛情をうまく伝えられないまま逝ってしまった妻を悼むかわりに、イップンには精一杯自分の愛を伝え守ってあげたいという、マンソクの新たな決意が込められた言葉…。なんとも甘いエピソードだが、飄々としたマンソクが口にするとストレートに心に響いてくる。

 一方、グンボンとその妻。認知症のため排泄もままならないグンボンの妻だが、彼女が部屋の壁に描く絵は鮮やかな色に彩られ、朗らかな性格がそのまま表れているようだ。夫婦には3人も子供がいるのに、彼らが家に寄りつく事はなく、グンボンはたったひとりで妻の介護をしている。だが、グンボンのまなざしは暖かく、今や子供のように無邪気になってしまった妻を、以前と変わらぬ愛情で包み込む。キム・スミ演じるグンボンの妻の明るさが、まさに4人のムードメーカーとなっていて微笑ましい。妻の病状の進行を知ったグンボンは、子供たちを呼び出し、ある決断をするが、それはふたりの幸せを守るための決断だった。

 「シニア世代のラブストーリー」。そこには限りある人生を、誰とどのように生き、そしてどのように終えるかというテーマがある。マンソクとイップン、グンボンとその妻、この二組が下した決断は、人生が限られているが故の切実な思いに満ちている。それなのに幸福感が残るのは、4人のキャラクターがとても魅力的で、高齢者を囲む厳しい現実の中で育まれる彼らの友情が、冬の陽だまりのように暖かく、私たちの心を包んでくれるからだろう。その光はどこか幻想的で柔らかく、不幸な現実を和らげ、小さな幸せをより輝かせてくれる魔法を持っているようで、彼らのいる路地裏・浜辺・駐車場さえもキラキラと輝いて見えたのが印象的だった。

 原作となったカン・プルの漫画は演劇化され、2011年に映画化された本作は、韓国でも多くの人の感動を呼んだ。監督を務めるチュ・チャンミンは、最新作がイ・ビョンホン主演の時代劇『王になった男』(2013年2月公開)と聞き、その幅の広さに驚かされる。本作で魅せた人間愛に満ちたまなざしが、今後どう展開するのか期待は膨らむばかりだ。


『拝啓、愛しています』
 原題 그대를 사랑합니다/英題 LATE BLOSSOM/韓国公開 2011年
 監督 チュ・チャンミン 主演 イ・スンジェ、ユン・ソジョン、ソン・ジェホ、キム・スミ
 2012年12月22日(土)より、シネスイッチ銀座、シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
 公式サイト http://www.alcine-terran.com/haikei/

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Writer's Note
 mame。1983年、岡山県生まれ。韓国映画を日本で見る際に楽しみなのが、ポスターなどの宣伝ビジュアル。『拝啓、愛しています』の韓国版ビジュアルは主演4人の写真でしたが、日本版は暖色系の絵に仕上がっていて映画の雰囲気にピッタリです。チラシをよーく見てみると、劇中で登場する重要な小物がさりげなく描かれているので、映画を観た後に見つけてクスッとしてみて下さいね。


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