Review 『Green Days~大切な日の夢~』
Text by mame
2012/6/25掲載
企画から完成まで11年の歳月をかけたアニメーション。何につけスピードが求められる韓国において、この制作期間の長さは特殊だ。

作品は、1970年代の韓国の田舎を舞台に、女子高生の初恋と将来への希望を描いている。CGを最小限に抑えた手作業によるアニメーションは、細部まで丁寧に手が入れられているだけあって、日本のアニメにはない、韓国独特の空気感を醸し出している。特に目を見張るのが背景の美しさで、当時の韓国の街並を私は知らないが、線路のすぐそばに家があったり、坂の多さは今のままだったり、と現在の街並と比較して見ることができ、とても興味深かった。季節によって背景全体のトーンが変わっていくのも美しい。
気になったのは、背景の豊かさに比べると、人物の表情の種類が乏しく、物足りなさを感じたこと。1970年代の、しかも田舎の物語ということで、充分ノスタルジーを感じられそうな設定なのに、人物になかなか感情移入できないのは惜しい。ストーリーも、いろんなエピソードを入れすぎてしまって、中途半端に終わってしまっている。垢抜けた転校生への劣等感、負けるのが恐くて逃げ出してしまった陸上、初めての恋…。もう少しテーマを絞って、コンパクトに収めても良かったのではないだろうか。アニメの醍醐味である、ファンタジックな場面、たとえば耳の聞こえない叔父さんと会話するシーンなどは見応えがあって良かった。

今まで韓国のアニメーションというと、子供向けのものしか想像できなかったが、この作品はそんな現状から脱却して、新境地を切り拓こうという作り手の思いが伝わってくる。韓国アニメでこうしたリアルなテーマを扱った作品はなかなか無い気がするので、観終わったときも、とても新鮮な気分になれた。
この作品を観て思い出したのが、私が留学時代に感じた韓国と日本の学生の美術作品の違いだ。韓国の学生は基礎レベルが恐ろしく高い。たぶん、入試のレベルが高いので、基礎レベルも自ずと高くなるのだろう。ただ、基礎が出来上がってる分、自分が「これ!」と決めた作風を貫く傾向があるので、どの作品を観てもひと目で誰の作品かわかるようになっている。が、それはそれで少し面白みがない。対して日本の学生は入学後、試行錯誤しながら自分の作風を探っていくので、完成度は低いが、思わぬ魅力を発見できたりして、面白みがある。この映画も、作画の統一感に力を入れ過ぎて、ストーリーが散漫になってしまった感がある。が、それもひとつの個性と考えれば、CG全盛の現在にあって、日本のアニメが『Green Days~大切な日の夢~』を通じて、手作りの良さを再発見したり、韓国も日本の作品を通してアニメーションならではの斬新なストーリー作りに挑戦してみるなど、双方の刺激になれば面白いのではないだろうか。
『Green Days~大切な日の夢~』
原題 大切な日の夢/英題 Green Days/韓国公開 2011年
監督 アン・ジェフン、ハン・ヘジン 声 パク・シネ、ソン・チャンイ
真!韓国映画祭2012の一本として上映。同映画祭はK's cinemaにて開催、
2012年6月23日(土)より名古屋・シネマスコーレ、夏、大阪・第七藝術劇場にて開催!
映画祭公式サイト http://blog.livedoor.jp/kinoeye/
Reviewer's Profile
mame。1983年、岡山県生まれ。2004年、韓国・弘益大学美術学部に交換留学。韓国映画は留学を決めるきっかけにもなった。専攻は木版画。現在は会社勤めをしながら作品制作を続けている。
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