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Review & Interview 『秘密のオブジェクト』 イ・ヨンミ監督 ~正直な恋をススメます

Text by Kachi
2012/11/22掲載



レビュー

 夫も子供もいて、一見何の不足もなく幸せに生きている女性がいた。あるとき彼女は若い愛人を作り、姦通罪で警察に逮捕される。大胆な事件だが、当の本人は浮気に罪悪感をおぼえるどころか堂々と振る舞っていたそうだ。理由はただひとつ。「夫のことも彼のことも、同じように愛していたから」。インタビューでイ・ヨンミ監督は、20代の時に出会った女性についてそう語った。その時のショックと「愛って何?」という疑問が『秘密のオブジェクト』を撮るきっかけだった。

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 社会学の大学教授ヘジョン(チャン・ソヒ)は40歳。夫はいるが、世間体のために離婚しないでいるだけの冷え切った関係。「婚外情事を経験した後の女性の性意識の変化」が研究テーマで、本当はプライベートでも満足したいのに、年齢と、教授という社会的地位とが心のブレーキとなり踏み切れないことばかり。夜中にこっそり「ヴァギナ解放」というハンドルネームを使い、ネットの掲示板に性への大胆なコメントを書き込むことが欲求不満のはけ口だ。ある日、研究助手募集の貼り紙を見た心理学科の学生ウサン(チョン・ソグォン)がやってくる。両親に愛されて育ったという、純粋でいて男性的魅力にあふれた彼に、ヘジョンの心は少しずつかき乱されていく。だがウサンにはある秘密があった…。

 夫婦で魚屋を経営している女性が、へジョンに対して、従業員の若い男との情事を思い出しながらうっとりと語るシーンがある。2人のセックス描写は、行為そのものだけでなく、原色に近い映像が刺激的だ。監督は「この作品には生々しさ、けばけばしさが似合うと思って」と、今や世界中で1社しか作っていない撮影用フィルムを取り寄せた。はっきりとした色出しは作品全体に見られるが、わけても魚屋でのセックス・シーンは、女性が男性に寄りかかるところでは赤みを強くし、水槽やまな板は古めかしさを強調するなど、色出しにこだわり抜いた。たががはずれたように絡みあって体で幸せを感じた女性の表情をきっちりスクリーンに映し出すことも、監督の目的だったという。

 濃厚なラブシーンから現在のシーンに切り替わった時、魚屋の女性とヘジョンの顔色の落差に女としての2人の生き方の違いが垣間見える。魚屋の人生が彩られた世界なら、へジョンのそれは茶色く乾燥した砂漠だ。以来、募るウサンへの気持ちと裏腹な、へジョンの「でも…」というためらいのたびに、魚屋の女性と愛人のセックスがフラッシュバックする。魚をおろすのが上手かったという、女性の愛人。ウサンもリンゴをうさぎ型に剥けるほど手先が器用だ。男性ならではのたくましい背中とともに、彼の器用で大きな手をカメラはクローズアップでなめるようにして追う。こんなに女性のフェティッシュな欲望が満載な作品は、韓国映画では見たことがない。

 2部構成の物語のセリフ回しを務めるのは、ヘジョンの研究室のコピー機とウサンのデジタル・カメラ。この2つのオブジェクトは、その「写す」という役割よろしくへジョンとウサンの心を見透かして観客に語る。社会学や心理学を研究している2人が逆に分析されているアイロニーが面白い。もし論文を書くならば、さしづめタイトルは「ヒト科の動物の恋愛行為における嘘と本音」といったところだろうか。

 デジカメの語りでウサンの真実が明かにされると同時に、作品前半の伏線が回収される。そこで痛感するのは、人間は心のままに生きることができない悲しい生き物だということ。とりわけ恋愛で素直になれないと、どんなに後悔することか…。そんなこと分かっているのに、いつだって正直になれずに涙を流した経験は誰しもあるはず。賢い2つのオブジェクトは、不器用な2人の恋にそっと手を貸す。それと引き換えにラストで自分たちを犠牲にしてしまうが、哀しくもすっきりした幕引きで後味がいい。

 本作を「これは私の物語」と語るイ・ヨンミ監督が、「愛って何?」という疑問に対して出した答え。

   愛とは、傷つくことなしには成就できないもの。
     それでも得たいなら、素直に生きること。
       自分の思うままに生きなければ。

 ヘジョン世代の女性たちはもちろん、意地を張ることに慣れてまっすぐに生きられないすべての大人たちに見てもらいたい一作だ。



インタビュー

── 女性が男性に感じるフェティッシュに注目した作品だと感じました。

女性からの視線を大事にして撮りました。例えば「美しすぎる」というセリフがありますが、それは女性が言われたいことです。女性が望むようなセリフや仕草を増やしました。また、男性2人が皿洗いをしていて、背中を映したシーンがありますが、男性が女性の体を見るように、女性も男性の体を見るんだよ、ということを表現しました。

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── 魚屋の女性のラブシーンはとても情熱的で濃厚です。一方、へジョンとウサンのラブシーンは、浴室のすりガラス越しで、よく見えなくなっています。この差についてはどうお考えですか?

魚屋の女性は社会的地位の低い女性で、欲望に対して積極的ですが、大学教授であるヘジョンは何でも手に入れているように見えるけれど、欲望に正直に生きることができず、自分自身を表現することができない。本当の愛を知らない女性です。2人を比べた場合、女性としてヘジョンのほうが弱い部分があると思っていて、ラブシーンの描写に関しては、よく見えないくらいがヘジョンの人生観にあっていると考えました。すべてをさらけ出すことができない女性なのです。

── へジョンがウサンへの恋心を、友人に相談する場面があります。へジョンは彼との年の差をとても気にし、彼女の友人も「40歳になることは女性にとって死刑宣告」と言っています。日本では、40歳はまだ女ざかりで自分より若い男性にも積極的だったりしますが、韓国ではどうなのでしょう?

昔は40代になると「4=死」という意味もあり、女として終わりと考えられていました。最近では、寿命が長くなっていることもあり、綺麗な40代の方も増えてきて、考え方がだんだん変わってきていると思います。ただ、そうは言っても、韓国には人と会った瞬間に年齢を聞く文化があり、どんなに綺麗な人でも年は聞かれたくないので、そういう場面に出くわすと靴を持って逃げ出したくなります(笑)。

── 韓国人は自分の意見を相手にはっきりと伝え、日本人はそれに消極的という印象があります。ただ韓国映画を見ていると、男性も女性も「好き」の一言が言えずに苦しい思いをしていることがあります。こういう点は私たち日本人が共感するところですが、恋心を胸に秘めておくことへの美学のようなものがあるのでしょうか? 差し支えなければ、監督の恋愛観も交えてお話しください。

韓国人全体については分かりませんが、ヘジョンの場合、守るものが多くて気持ちに素直になれないのです。私はというと、撮影に入ると3・4ヶ月は現場なので、もし恋人ができても連絡する暇もなくて大変です。でも、恋も大事。私は木でも石でもなく、熱い気持ちを持った人間なので、どれだけ忙しくても情熱的なことは大事にしたいです。そうですね、まずは自分自身から正直にならなければ(笑)。

── 監督自身は、ラストをハッピーエンドとして描かれたのでしょうか?

私はハッピーエンドだと思っています。お互い気持ちを吐き出して結ばれた2人なので。もちろん、どれだけ長く一緒にいるかは分かりませんけれど。私もそうですが、皆いつも隠している気持ちがありますよね。映画の中だけでも正直に生きたうえでの幸せを感じて欲しいです。



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イ・ヨンミ監督


『秘密のオブジェクト』
 原題 事物の秘密/英題 Secrets, Objects/韓国公開 2011年
 監督 イ・ヨンミ 主演 チャン・ソヒ、チョン・ソグォン
 2012年12月1日(土)よりシネマート六本木、12月29日(土)よりシネマート心斎橋ほか全国順次公開
 公式サイト http://www.u-picc.com/himitsu/

Writer's Note
 Kachi。1984年、東京生まれ。図書館勤務。『秘密のオブジェクト』を見て以来、身の回りの製品が自分を観察してるんじゃないか…と考えたりします。面白い反面、劇中のコピー機とデジカメのするどい洞察力を思うと「そんなところまで見てるの?!」とちょっと怖い気も。


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