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Review 『猫たちのアパートメント』 ~猫たちの居場所作りを通して、他者と共存するための術を見せる

Text by 井上康子
2023/1/2掲載



 再開発のため、ソウルの巨大な集合住宅:トゥンチョン団地の取り壊しが決定する。団地には約250匹の猫が住民に見守られて地域猫として住み着いていた。この猫たちの命を守ろうと住民有志が<トゥンチョン団地猫の幸せ移住計画クラブ>を結成する。本作はその活動を中心に、巨大団地の誕生から消滅までの歴史も描いたドキュメンタリーである(タイトルの「アパート」は韓国では規模の大きい集合住宅を指す)。

catsapartment.jpg

 先ずは猫たちの愛らしさに目を奪われる。地域で守られているために毛並みも艶やかだ。だが、猫の視線の先を追ったシーンがたいへん多いことから伺えるように、監督が見せようとしているのは猫が自分の今置かれている環境をどう観察して振る舞っているかだ。クラブのメンバー:キム・ポドさんは「常に猫の声を聞こうと努力していました」と語り、猫一匹ずつをスケッチしている。猫には名前が付けられ、各々の猫の縄張りや個性が把握されている。地域で共に生きてきた仲間で、言葉を持たない弱者であるから配慮が必要だとして真摯に対応している。

 猫を対象にした撮影・編集は困難を極めた。監督は「可能な限りすべての猫を撮影し、編集時に同一の猫が登場するシーンを集めることでストーリーを作った」が、「夜は団地内に入れないため、夜行性である猫を昼間しか撮影できず」、「猫を観察し、特徴を見極め、キャラクターをつくり出す作業は、実は映画的には無謀で難しい挑戦だった」と語っている(監督の発言はいずれも本作パンフより抜粋)。

 取り壊しは再開発により建物間の間隔を狭くして、入居できる世帯数を増やすという収益性のために決められた。団地はゆとりある空間に建設され、豊かな自然を保有していたこともあり、愛着を抱いていた住民が多かった。愛着を抱いているにも関わらず、退去しなくてはならなくなった住民の想いも映画は映し出している。クラブのメンバー:イ・インギュさんは思い出の詰まった団地への愛着を示した活動を展開し、また、本も著し、団地の住民を越えて、幅広い人々から共感を得ている。

 この作品を観ているととても穏やかな気持ちになれた。それはなぜだろうと考えてみると、いずれの発言者も、異なる思いを持つ他者を否定せず、穏やかに語り掛けてくれたためだと分かった。イさんは団地に愛着を抱いているが再開発を否定はしない。キムさんは猫の保護について様々な意見があり、これが正しいと収れんできないことをわきまえている。

 弱い他者の声を聞き、異なる意見を持つ他者を否定せず、静かに語る。地域で他者と暮らしていく場所を作るための術がそこにありそうだ。


『猫たちのアパートメント』
 原題 고양이들의 아파트 英題 Cats' Apartment 韓国公開 2022年
 監督 チョン・ジェウン 出演 キム・ポド、イ・インギュ、キム・スマン
 2022年12月23日(金)より、ユーロスペース、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかロードショー
 公式サイト http://www.pan-dora.co.jp/catsapartment/

Writer's Note
 井上康子。本作の監督、チョン・ジェウン監督の代表作『子猫をお願い』(2001年韓国・2004年日本公開)が4Kリマスター版になり、2022年末から公開中。大好きな作品でロケが行われた東大門や仁川を歩くと登場人物の姿がそこに浮かんでくる。


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