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Review チャン・リュル監督最新作『柳川』 ~死を身近にした男の報われない想いが漂う柳川

Text by 井上康子
写真提供:Foggy
2023/1/2掲載



 チャン・リュル監督最新作『柳川』が12/16から福岡で先行公開され、上映に併せて監督が来福し、12/24にはトークイベントも行われた。監督のトークの内容も含めてお伝えする。

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『柳川』誕生の経緯


 監督はアジアフォーカス・福岡国際映画祭(以下、FIFF)に2007年『風と砂の女』から、2009年『イリ』、2010年『豆満江(とまんこう)』、2014年『慶州』、2017年『春の夢』、2018年『福岡』メイキング、2019年『福岡』『群山:鵞鳥を咏う』まで、上映の度にゲストとして来福を繰り返し、福岡市や周辺地域も訪れていた。福岡の街や人情に魅了された彼は2014年には「福岡で映画を撮りたい」と語るようになり(Interview 『慶州』チャン・リュル監督、俳優パク・ヘイル、キム・ドンヒョン プロデューサー)、FIFFの協力も得て、『福岡』を完成させてしまった。そして、さらに、「柳川という空間に美しいリウ・チュアンという女性が来たらおもしろいと思った」と今回のトークでも語ったが、2018年には柳川で撮ることへの意欲を表明し(Interview 映画『福岡』撮影を終えたチャン・リュル監督 ~福岡の街と映画『福岡』に魂を奪われた)、こちらも『柳川』として晴れて誕生した。


待ち望んでいた福岡での上映


 『柳川』は2020年初頭にはクランクアップしていたが、あいにくの新型コロナ禍で編集・公開が遅れ、2021年に中国の平遥国際映画祭と釜山国際映画祭で同日ワールドプレミア上映、日本では2022年に大阪アジアン映画祭で上映された。そんな中で、FIFFで監督作品を観続けていた者たちは、福岡で生まれたこの作品の福岡での上映を待ち望んでいた。


中国映画だが、多言語


 監督は近年、韓国の俳優・スタッフによる韓国映画を作ってきたが、本作は中国朝鮮族の監督が母語:中国語で、中国のスター俳優を主演に起用し、中華圏のスタッフ中心で作られていて、中国のアカデミー賞と呼ばれる中国映画金鶏賞2022で助演男優賞(シン・バイチン)と中低予算映画賞を獲得している。ただ、ほとんどのロケが柳川で行われ、日本の俳優も重要な役割を担い、「柳川:やながわ」という日本の地名が「柳川:リウ・チュアン」という中国人女性の名も表していることを始めとして、近年の作品同様に多言語である。


Review


 病院から出たドン(チャン・ルーイー)が女性に煙草を求めた後「末期の癌だって」と告げると、気味悪がった女性は足早に去っていく。ドンは見ず知らずの女性だからこそ打ち明けたのだった。この冒頭から一気に引き込まれた。ドンは疎遠になっていた兄チュン(シン・バイチン)を誘い、柳川を旅する。柳川には兄弟が若き頃に愛したが、突然姿を消したチュアン(ニー・ニー)がいるのだった。兄弟は再会したチュアンと共に柳川の街を彷徨する。ドンは死が身近で、また、彼らは現在ではなく、変えられない過去にとらわれており、柳川で、悲しみを湛えた時を過ごす。

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 一方で、日本人キャストの演じる役は現在を生きている。兄弟の柳川での宿の主を演じているのは池松壮亮。チュアンに惹かれながらも、放置していた娘の父になろうと、彼女への想いを断ち切る。宿の主はもっと高い年齢を想定していたが、監督作品を好んでいた池松に会い、とても気に入ったため、役の年齢を下げ、さらにはシナリオも変更して、出番を増やしたそうだ。『君よ憤怒の河を渉れ』(1976年日本・1979年中国公開)に主演したことで、中国で絶大な人気を博し、監督自身もファンだと言う中野良子は居酒屋の女将を凛とした姿で演じている。

 ドンは北京出身であるのに北京訛りを使わない。それはかつて、地方から北京に引っ越して来たチュアンが地方訛りをからかわれた時に「北京の言葉が憎い」と彼に訴えたためだった。チュアンには、中国における朝鮮族、非主流の存在としての痛みを抱える監督の姿が投影されているのだろう。

 だが、年を経て、再会したチュアンは北京訛りを使うようになっていた。例え、報われないとしても想いを変えないのは前作『福岡』の男性たち同様だ。「漢字の名前は不思議なことに運命が漢字の意味に似通ってくる。ドンは漢字表記<冬>で寒い」とのことだ。ドンは寒さに耐え続けることを自らの運命として選んだと思ったが、結末を見ると、人はそんなに単純ではなく、揺らぐのだと諭される。

 多様な見方ができる作品だ。スクリーンを見つめて、登場人物と共に柳川の川の流れに身を委ねれば、各々が独自の『柳川』に出会えることだろう。


『柳川』
 原題 漫长的告白 英題 Yanagawa
 監督 チャン・リュル 出演 ニー・ニー、チャン・ルーイー、シン・バイチン、池松壮亮、中野良子、新音ほか
 2022年12月30日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国順次公開(12月16日より、KBCシネマにて福岡先行公開)
 公式サイト https://movie.foggycinema.com/yanagawa/

Writer's Note
 井上康子。作品には、監督の遊び心からだろうか。真冬の柳川の川を泳ぐ男(『福岡』で10年間口を利かなかった男も演じた同作品PDオ・セヒョンが演じている)や祖先が柳川出身のオノヨーコに扮して歌う女性(福岡フィルムコミッションのスタッフが出演)が登場。作品の緊張感をしばし緩和させてくれる。


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