Review 『ポーランドへ行った子どもたち』 ~子供を守りたいという愛の共鳴を見せる
Text by 井上康子
2022/6/13掲載
『ポーランドへ行った子どもたち』とは1951年頃に金日成により朝鮮半島全土からポーランドへ送られた朝鮮戦争の戦争孤児たちである。金日成は「戦争を続けられるように」と数千人の孤児を東欧の社会主義同盟国であるロシア・ハンガリー・ルーマニアなどに預けた。ポーランドには約1,500人の孤児が預けられた。

監督のチュ・サンミは女優として『接続 ザ・コンタクト』『気まぐれな唇』『誰にでも秘密がある』などの映画やドラマで注目を集めた。筆者が最も印象に残っているのは彼女が主人公を演じた『微笑 ほほえみ』で視力を失っていく写真家の姿に胸を打たれた。元々、演出にも興味を持っていたのであろうが、出産・育児で休む間に大学院で演出を学ぶ。40歳で子どもを授かった時は、あまりにもかわいいと思うためか、毎晩子どもが死ぬ悪夢に苦しみ、産後うつも経験した。テレビで北朝鮮の飢えた孤児を見ると、人道的な思いを越えて、その子の母が不在であることに涙を流したという。
孤児たちがポーランドへ送られたことは韓国では周知されていなかったが、出版社で一冊の本に出会い、この事実を知り、劇映画化を決意する。彼女はポーランドへ送られ、守られなかった子どもたちに自分のできる方法で光を当てなくてはと思ったのだろう。
本作はその劇映画の準備である、脱北した若者たちを対象とした出演者オーディションとポーランドで孤児たちを世話した元教師たちへのインタビューから構成されたドキュメンタリー映画である。
オーディションに応募した若者たちは、北朝鮮で飢え、親が銃殺されて自身は収容所へ送られたなど、各々が過酷な体験を語る。そんな中で、イ・ソンという大学生は中国に滞在した時の経験があまりに惨かったため、語ることができない。監督は彼女を同行してポーランドへ向かう。
元教師たちは、60年を越える歳月を経ても、孤児たちのことを克明に記憶していた。ヨセフ元院長は孤児に自分たちを「パパ」「ママ」と呼ばせ、戦闘の記憶に怯える子を保母は一晩中抱きしめたと語る。元教師たちの発言の一つ一つから、いかに彼らが子どもたちに愛情を注いだか、自律心を重視したかが伺える。しかし、孤児たちは休戦後に復興のための労働力として北朝鮮に呼び戻される。
元教師たちは孤児たちを守り、彼らが安心して過ごせるように努めた。そして、現在の孤児ソンも元教師たちの言葉に心を開いていく。インタビュアーである監督の子どもを守りたいという強い思いが元教師たちの記憶を呼び覚まし、両者の思いが共鳴する。子どもを守るという強い意志と愛に溢れた作品だ。
『ポーランドへ行った子どもたち』
原題 폴란드로 간 아이들 英題 The Children Gone to Poland 韓国公開 2018年
監督 チュ・サンミ 出演 イ・ソン、チュ・サンミ
2022年2022年6月18日(土)より、ポレポレ東中野ほか全国順次公開
公式サイト http://cgp2016.com/
Writer's Note
井上康子。北朝鮮に呼び戻されてしばらくの間、孤児たちは教師に「ポーランドに連れ戻してほしい」と手紙を送ることができていた。エンドクレジットでは手紙の数々と送り主の写真が写される。その整った筆記のポーランド語は教師たちがポーランドでの未来を子どもたちに願った証と思えた。
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