Review 『ただ悪より救いたまえ』 ~これぞ韓国!名コンビが見せた新しきバイオレンスの世界
Text by Kachi
2021/12/31掲載
2014年に公開された『新しき世界』が韓国映画史に残した功績は計り知れない。韓国バイオレンスの強度、固く結びついているにもかかわらず引き裂かれてしまう男たち、そんな彼らのセリフを端的に言い表す名セリフの数々…。韓国映画のひとつの転換点がここにあった、と言っても過言ではないだろう。そんな『新しき世界』のファン・ジョンミンとイ・ジョンジェの二人がタッグを組んでスクリーンに戻ってきたのが本作だ。

暗殺者インナム(ファン・ジョンミン)は、引退前の最後の仕事として暴力団の東京支部長コレエダ・ダイスケ(豊原功補)を片付け、パナマで新生活を始めようとしていた。ところが、以前所属していた韓国国家情報院の元上司チュンソン(ソン・ヨンチャン)から、かつての恋人ヨンジュ(チェ・ヒソ)がバンコクで殺害されたと知らされ、遺体の引受人として韓国に舞い戻る。ヨンジュはタイで不動産業に関わっていたが、9歳の娘ユミン(パク・ソイ)が誘拐され、身代金の受け渡しに出向いて殺されたらしい。チュンソンからユミンの父親が自分だと知らされたインナムは、いまだに行方不明のユミンを探すべくバンコクに飛ぶ。一方東京では、コレエダの葬儀に、絶縁状態だった凶暴な殺し屋で実弟のレイ(イ・ジョンジェ)が現れ、兄の復讐を誓いインナムを追い詰めようとする…。
『新しき世界』で、ヤクザの覇権争いの只中にいる、ファン・ジョンミン演じるアクの強いチョン・チョンと、任務と感情に引き裂かれる、イ・ジョンジェ扮するいつも物憂げなジャソン。この化学反応がまた観られるだけでも目を細めてしまうが、狂犬となった二人のパワーは尋常ではない。臓器売買をテーマにしているという点でも血なまぐさいのに、インナムもレイも拷問や襲撃の手並みでさらに切れ味を加えている。二人は追いつ追われつの身ではあるが、なぜかそうしていることこそが分かちがたい絆を表しているようにもみえてしまう。
特に見応えがあるのが、トゥクトゥク(タイの三輪タクシー)からレイが降りながら銃を撃ち放す場面。今回、カメラマンは『パラサイト 半地下の家族』の洪水シーンを撮りあげたホン・ギョンピョで、さすがに流れるようでありながらダイナミズムが溢れている。おかげで、これまでの韓国バイオレンス・ムービーにあったアクションシーンを刷新したような気配がある。
年初め、脂の乗った男たちが景気良く暴れるノワールを、ぜひともスクリーンで見届けていただきたい。
『ただ悪より救いたまえ』
原題 다만 악에서 구하소서 英題 DELIVER US FROM EVIL 韓国公開 2020年
監督 ホン・ウォンチャン 出演 ファン・ジョンミン、イ・ジョンジェ、パク・ジョンミン
2021年12月24日(金)より、シネマート新宿、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国公開
公式サイト https://tadaaku.com/
>>>>> 記事全リスト
- 関連記事
-
-
Review 『夏時間』 ~喪失を重ね、大人になっていく少女 2021/03/16
-
Review 『豚の王』 ~花コリ史上最大の話題作、その魅力とは? 2013/04/07
-
Review 『猫たちのアパートメント』 ~猫たちの居場所作りを通して、他者と共存するための術を見せる 2023/01/02
-
Review ハートアンドハーツ・コリアン・フィルムウィーク 『春の夢』『バッカス・レディ』『空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~』 ~憂鬱と悲しみを癒やす映画の旅 2017/07/23
-
Review 『7番房の奇跡』 ~リアリズムのイントロを、ファンタジーに転調させて描いた小さき者たちの献身 2014/01/12
-
スポンサーサイト
Review 『ひかり探して』 ~あなたの存在が私を再生させてくれる « ホーム
» Review 『茲山魚譜-チャサンオボ-』 ~歴史の狭間にいた存在をすくい取る、イ・ジュニク監督の優しく透徹したまなざし
コメントの投稿