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Review 『ファイター、北からの挑戦者』 ~苦難と怒りを背負い、今日も私は拳で闘う

Text by Kachi
2021/11/12掲載



 4年前、『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』の劇場公開で来日したユン・ジェホ監督にインタビューをしたとき、印象的だった言葉がある。自身も脱北者でありブローカーでもあった主人公べーのことを、他の脱北者はどう思っていたのか聞いてみたかと質問した際、ユン監督はこう答えたのだ。

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「ある価値を判断するのは、その人が育ってきた環境によって決められるものだと思うんですね。マダム・ベーに会って、私は自分の人生の中でいろんな変化を経験しました。自分が知らない相手に対し、社会が先入観や偏見・環境といったものによって定義を下してしまう恐れがあります。人と人とが会った時は、国家や身分を取り払って接するのが大事なんだと思います。“その人をどう思うか?”と聞くこと自体が、そうしたことと矛盾しているのではないでしょうか」

 人間に対して、自身もありのままに接する。そうした自己を律したような製作スタイルが言葉として端々に現れたインタビューで、監督の人となりを確と受け止めた記憶がある。

 だから、ユン監督の新作が『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』に続いて脱北者を主人公にしていることを知ったときは、その一貫した姿勢に、映画人としての信頼感がさらに増したのだった。

 『ファイター、北からの挑戦者』では、冒頭、素朴な容貌の女性が小さなアパートへ引っ越してくる。脱北者のリ・ジナ(イム・ソンミ)は、中国に父を残してブローカーとともに韓国へ入国した。さっそく食堂で働き始めるが、生活はよくはならない。女性であるための危険も降りかかってくる。先に脱北していた母を訪ねるが、すでに別の家庭を持って裕福に暮らしていた。ままならない毎日の中、雑用のアルバイトを始めたボクシングジムで、その面白さに魅了され、館長(オ・グァンノク)と若いスタッフのテス(ペク・ソビン)は、彼女の秘めたファイティングスピリットを応援しようとする。こうして、韓国でのジナの闘いが始まったのだが…。

 ボクシングのトレーニングや北のアクセント指導を受けるなどフィジカルを鍛え抜いたジナ役のイム・ソンミの力はもちろんのこと、苦難を背負いながらも必死に生きる女性を感動的にとらえることに長けたユン監督の腕が冴え渡り、ジナという女性が実に魅力的に描かれている。お金は自由にならない。父も呼びよせられない。馬鹿にされ、定まらないアイデンティティ。彼女の中には怒りがとぐろを巻くように満ちている。ユン監督のインタビュー時、彼の人柄に感じたものと同じような、ジナの抑制が効いた姿から繰り出される拳の強さは、観ているこちらも“くらう”ものがある。

 脱北した女性が、息子を残して韓国へ逃れたために起こる家族の憎しみが描かれた『Beautiful Days』など、これまでユン・ジェホ監督はさまざまな愛が育まれ、そして分断される悲劇を扱ってきた。本作のイントロでは、アメリカの神学者トマス・マートンの一節が引用され、監督はこの10年間映画を撮り続けてきた中で核としてきたのが愛なのだと語る。ともすれば脱北者という題材を社会的要素でのみ切り取ろうとしてしまう社会への、監督のアンチテーゼなのかもしれない。

 『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』のラストカットは、べーがカラオケで切々と歌い上げる姿で、脱北者という色眼鏡ではない、ただある女性の半生をみつめた映画にふさわしかった。『ファイター、北からの挑戦者』のジナは、これからどんなファイティングスタイルで人生を歩んでいくのだろうか。まだ夜も明けきらないソウルの街を走っていく彼女の背中に、エールを送りたい。


『ファイター、北からの挑戦者』
 原題 파이터 英題 FIGHTER 韓国公開 2021年
 監督 ユン・ジェホ 出演 イム・ソンミ、ペク・ソビン、オ・グァンノク
 2021年11月12日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
 公式サイト https://fighter-movie.com/


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