Review 『白頭山(ペクトゥサン)大噴火』 ~文句なしのディザスター・ムービー誕生
Text by Kachi
2021/8/22掲載
災害映画は時に難しい。私たち日本人にとって、大津波に襲われるような映画は平常心で見られないし、映画らしく面白く撮るのは相当な工夫が必要だ。災害映画は、ありふれた日常が変化してしまうと過度に真に迫るものになり過ぎる。

ところが『白頭山(ペクトゥサン)大噴火』は面白い。火山の噴火はたしかにあり得る災害だが、最悪の状況を食い止めにいくまでのプロセスは映画ならではのフィクション性で展開していき、ダイナミックなので思わず没頭してしまう。文句のつけようがないディザスター・ムービーが、韓国映画で生まれたのだ。
北朝鮮と中国の国境付近の火山・白頭山で、観測史上最大の噴火が発生。大地震によりソウルでもビルが崩壊するなどパニックに陥る。政府は白頭山の地質分野の権威であるカン教授(マ・ドンソク)に協力を要請する。教授の予測にしたがい、韓国軍爆発物処理班のチョ・インチャン大尉(ハ・ジョンウ)率いる部隊が、北朝鮮へ潜入し火山の沈静化を図る極秘作戦に乗り出していく。そして作戦成功の鍵を握る北朝鮮武力省の工作員ジュンピョン(イ・ビョンホン)を探し出すが、彼もまたある事情を背負っていた…。
朝鮮戦争の歴史を紐解いても分かるように、韓国は大国の思惑に振り回され、介入を受ける。最終的に手を取れるのはやはり同じ血を分けた民族同士しかない。そうした根本が、緊迫感のある局面でも「とはいえ、同じ民族じゃないか」という弛緩が、コメディ要素として映画の中に現れてくるのではないか。本作でも、今まさに白頭山が噴火しようとしているにもかかわらず、どこか茶目っけのあるやりとりがある。それがむしろ、作品によい緩急をつけていて、後に起こる張り詰めたシーンを引き締めてくれている。
朝鮮半島の南北を越えた人間のドラマを、ハ・ジョンウとイ・ビョンホン(二人が同じスクリーンの画の中に収まっているだけで韓国映画ファンは“アガる”のではないか)が最大限に熱気を込めて演じ切った。個人的には、マ・ドンソクの芸達者ぶりに改めて唸らされた。地質学教授というインテリジェンスあふれる役柄を、やや声のトーンを控えめにするようにしてキャラクターを作り上げている。
本作の圧倒的なスケール感は、大スクリーンで感じることをお勧めしたい。こんな時期ではあるが、ぜひ映画館へ足を運んでいただきたい。
『白頭山(ペクトゥサン)大噴火』
原題 백두산 英題 ASHFALL 韓国公開 2019年
監督 イ・ヘジュン、キム・ビョンソ 出演 イ・ビョンホン、ハ・ジョンウ、マ・ドンソク、チョン・ヘジン、スジ
2021年8月27日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
公式サイト https://paektusan-movie.com/
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