Review 『サムジンカンパニー1995』 ~負けっぱなしじゃいられない!女性たちのリベンジと連帯の痛快ムービー
Text by Kachi
2021/7/2掲載
1995年、ソウル・乙支路の語学学校に通うイ・ジャヨン(コ・アソン)、チョン・ユナ(イ・ソム)、シム・ボラム(パク・ヘス)。大企業サムジン電子に勤める彼女たちは、朝の英語学習にまい進していた。大卒や男性社員に追いやられて、日々をお茶くみや書類整理に費やしていたが、会社の方針でTOEIC 600点を超えたら、「代理」に昇進できるチャンスが到来したのである。しかしそんな折、ジャヨンは自社工場が有害物質フェノールを川に排出していることを偶然発見。下流の村では健康被害も出ていた。あの手この手で事実を隠蔽しようとする会社を相手に、3人は力を合わせて真相究明に乗り出していく…。

1991年に起きた洛東江フェノール流出事件をもとにした社会派ドラマである一方、90年代の空気感が作品の中へパッケージングされている。音楽を担当したのは、『哭声/コクソン』で名高いダルパランで、劇中ではシンセポップが効果的に使われている。オープニングとエンディングで流れる「Get Up Offa That Thing」は、ジェームズ・ブラウンの曲を本作に合わせたようにアレンジされた切ない音色も、90年代らしさを増している。
『サムジンカンパニー1995』の魅力は、ただ懐かしいというだけではない。TOEICで高得点が取れて当然、以前から韓国国内の問題として指摘されていた超・競争化社会がさらに激化した現代だからこそ、本作は好意的に受け止められたように感じる。なおかつ、雑用に追いやられていた高卒女性たちの機転や連帯が時にコミカルに、時に感動的に描かれていて、女性のエンパワーメント映画として胸を打つ内容に仕上がっている。特に、主演の三人女性のアンサンブルは格別だ。長身でエレガントな魅力を放つユナ役のイ・ソム、ちょっととぼけているが抜群の知性で3人を救うボラムに扮したパク・ヘス、そしてストーリーを牽引する役割を確かな演技力で果たすジャヨンを演じたコ・アソンと、キャスティングと演出によって最後まで飽きさせない。
韓国で2020年10月21日に公開された際は、コロナ禍にもかかわらず11月半ばで動員観客数150万人を突破した。劇中、彼女たちは自身を“tiny(ちっぽけな)”と言うが、小さな力が連帯することで成し遂げた功績は偉大で輝かしく、スクリーンの中でも外でも光を放っている。
『サムジンカンパニー1995』
原題 삼진그룹 영어토익반 英題 SAMJIN COMPANY ENGLISH CLASS 韓国公開 2020年
監督 イ・ジョンピル 出演 コ・アソン、イ・ソム、パク・ヘス
2021年7月9日(金)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー
公式サイト https://samjincompany1995.com/
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