Review 『潜入』 ~史上最高に脂の乗ったファン・ジョンミンとリュ・スンボム
Text by Kachi
2021/6/18掲載
1998年。前年にアジア通貨危機に見舞われたことで、韓国国内は荒みきっていた。特に打撃を受けた港湾都市・釜山では、自らをビジネスマンと嘯くタチの悪い麻薬売人のサンド(リュ・スンボム)が幅を利かせ、記録的な利益でこの世の春を謳歌していた。それを追うのが、かつて仲間を麻薬王に殺され、今は落ちぶれた刑事ジングァン(ファン・ジョンミン)だった。釜山から麻薬組織を一掃するためなら手段を選ばないジングァンは、サンドの弱みを握って組織の壊滅を図るが、サンドもまたジングァンを利用して麻薬密売のトップになろうとしていた…。

韓国映画ファンにとっては“あの”という枕詞がつくほど伝説化していた『死生決断』の、待望の日本公開である。ファン・ジョンミンとリュ・スンボムのねちっこさが実にたまらない。カメラが二人を近い距離で捉えているとき、まるで吐息や汗の臭いまでもこちらに届いてきそうである。二人とも若かったせいか、演技の力加減が取れていないところがあり、この映画ではそれがむしろ最高に効いている。ファン・ジョンミンとリュ・スンボムのタッグといえば、リュ・スンワン監督『生き残るための3つの取引』での熱い息でヒリつくような演技合戦が今も忘れがたいが、それはこうしたタフな応酬があったからこその作品だったのだと、改めて考えさせられた。
タイトルバックといい、トロットやポンチャックを主とした韓国歌謡の劇伴といい、かつて存在したレトロさがプンプン漂う、懐かしくも“イキのいい”映画だ。昨今日本でも『悪人伝』『ザ・バッド・ガイズ』といった「悪を極悪で制する」系のコク深い映画が盛り上がっているが、本作はその元祖ともいえるのかもしれない。近年韓国映画において評価されているみずみずしいアート系やノワールともまたひと味違った骨太の活劇は、スクリーンで何度でも観たい。
『潜入』
原題 사생결단 英題 Bloody Tie 韓国公開 2006年
監督 チェ・ホ 出演 リュ・スンボム、ファン・ジョンミン、キム・ヒラ、チュ・ジャヒョン、オン・ジュワン
2021年6月18日(金)より、シネマート新宿にて公開
公式サイト http://www.finefilms.co.jp/bloodytie/
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