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Review 『夏時間』 ~喪失を重ね、大人になっていく少女

Text by 井上康子
2021/3/16掲載



 最近の韓国映画では、キム・ボラ監督『はちどり』や、キム・チョヒ監督『チャンシルさんには福が多いね』のように、女性監督が女性を主人公に描いた秀作が誕生している。本作も若い女性監督(ユン・ダンビ)が女子高校生を主人公にした作品で、釜山国際映画祭やロッテルダム国際映画祭などで受賞を重ね、高い評価を得ている。本作を見ながら、是枝監督作品『誰も知らない』を想起したが、人物たちの「演技とは思えない動き」に監督の高い演出力が伺えた。

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 原題は『ナムメ(漢字語で「男妹」、兄と妹または姉と弟を指す)の夏の夜/남매의 여름밤』で、主人公の姉オクジュと小学生の弟、そして、父と叔母(父の妹)の2組の「ナムメ」が登場する。父は事業に失敗、母と離婚し、母はオクジュたちを残して家を出ている。生活の目途が立たない父は家を引き払い、学校が夏休みの間、子どもたちと一緒に祖父の家で過ごすことにする。

 祖父の家は緑豊かで広大。庭には唐辛子が赤い実をつけ、葡萄がたわわに実る。祖父は微笑み、無条件に孫たちを受け入れる。部屋には足踏みミシンまであり、強い郷愁に誘われる。祖父を見舞いにやってきた叔母も加わり、夕食はにぎやかな家族だんらんの時間になる。無邪気な弟の踊りが何ともかわいい。心を閉ざしているように見えるオクジュも蚊帳を張り、その空間を自分の居場所のように感じ始める。

 一方で、「ナムメ」間の葛藤があらわになる。無邪気に母を恋しがる弟を、母を恋しいものの許せないオクジュは叩いてしまう。夫婦仲がこじれている叔母は祖父宅をめぐって、父に不満を訴える。

 本作の英題は『Moving on(過ぎていく、先へ進む)』だが、私がこの作品に感動した理由は先へ進むためには喪失を甘受しなくてはならないことが描かれているためだ。弟と対等の喧嘩をしていたオクジュは弟を庇護する姉に成長したが、それは喪失が繰り返された結果だ。成長するとは、何かを得ながら、同時に何かを喪失し、変化していくことだ。

 家族の問題からの逃げ場にしたかったのに好きだと思っていた異性はあまりに幼稚だった。恋しかった母を失い、祖父はあっけなく亡くなる。子どもでいられる時間を失い、大人の世界に取り込まれることに戸惑うオクジュの姿に、祖父という主を失い、いずれ消えてしまうだろう、温かい存在感を放つ家が重ねられて、喪失の切なさが一層迫ってくる。

 この作品を見れば、子ども時代の甘美な夏休みを思い出すと同時に、自分がここに来るまでに何を失ってきたかを振り返ることだろう。


『夏時間』
 原題 남매의 여름밤 英題 Moving On 韓国公開 2020年
 監督 ユン・ダンビ 出演 チェ・ジョンウン、ヤン・フンジュ、パク・ヒョニョン、パク・スンジュン
 2021年2月27日(土)より、ユーロスペースにて公開中、全国順次公開
 公式サイト http://www.pan-dora.co.jp/natsujikan/

Writer's Note
 井上康子。祖父宅でオクジュたちがスイカを食べる場面を見て、子ども時代に祖母が丹精して育てたスイカを振る舞ってくれたのを思い出した。もっと食べろもっと食べろと最も甘い中心部だけを選り分けて食べさせてくれた。


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