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Report アジアフォーカス・福岡国際映画祭2020 ~チャン・リュル監督『福岡』モノクロ版をオープニング上映

Text by 井上康子
2020/10/3掲載



 「アジアフォーカス・福岡国際映画祭2020(以下、アジアフォーカス)」が、9月20日から5日間、福岡市内会場で開催された。チャン・リュル監督が福岡で撮った『福岡』モノクロ版がオープニング上映され、アジアの新作・話題作、アノーチャ・スウィチャーゴーンポン監督特集、日本映画特集など、公式招待22作品の上映があった。また、関連企画として他の会場でもアジア映画上映があり、併せて、22ヶ国・地域、全59作品が上映された。新型コロナ禍でゲスト来福はなかったが上映前には監督たちのビデオメッセージが流された。


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『犯罪現場』

香港とタイの現状を重ねた、福岡観客賞『犯罪現場』とアノーチャ・スウィチャーゴーンポン監督特集


 アジアフォーカス2018に『大楽師』で福岡観客賞(観客投票の第1位作品に授与)を受賞したフォン・チーチアン監督が『犯罪現場』で2度目の福岡観客賞受賞となった。クライムサスペンスだが徹底的な悪人は登場せず、主人公の刑事は犯罪現場にいたオウムから犯人を聞き出そうとするなど『大楽師』同様、作品全体はほのぼのとした温かみがあり、多くの観客に好まれたのが肯けた。受賞メッセージ(映画祭公式サイトに掲載)では厳しい表情で「香港映画にも境界線はない。自分が信じた映画を撮り続けていく」「私たちは今まで諦めたことはない」と語る監督のことばに胸が痛くなった。広東語の自由な表現の香港映画をこれからも見続けたい。

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『暗くなるまでには』

 アノーチャ・スウィチャーゴーンポン監督特集ではアジアフォーカス2010で上映された『ありふれた話』、同2017で上映『暗くなるまでには(2017のタイトルは『いつか暗くなるときに』)』、『クラビ、2562』、「アノーチャ・ショート・フィルム傑作選」が上映された。監督は1976年生まれで、同年にタイのタマサート大学で起きた「血の水曜日事件」で学生たちが虐殺されたことを自身の起点の一部ととらえているようだ。『暗くなるまでには』は事件で生き残って作家になった女性、その作家の映画を撮ろうとする監督達が登場するが、夢と現実、時間と空間は交錯して前衛的だが至って静謐。出来事の意味付けは見る者に委ねられており、主体的鑑賞が促される。2017年にゲスト来福した監督が「観客が想像するのが映画」と語ったことも印象深く、ぜひもう一度見たいと思っていた作品だった。『ありふれた話』では明示はされていないが筆者には虐殺事件で傷ついた生還者の再生がイメージされた。折しもタイでは民主化を求める大規模な集会が開かれ、今後、さらに緊張が高まる気配だ。

 「アノーチャ・ショート・フィルム傑作選」で冒頭に上映された、コロンビア大学卒業制作で監督デビュー作『グレイスランド』と2019年制作『クラビ、2562』では、仏教文化と欧米文化の遭遇が描かれ、タイから米国に留学した監督が文化の異なりに関心を持ち続けていることが伺えた。


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『土曜の午後に』

アジアの新作・話題作 独自な撮り方でアジアの今を見せる


 『三人姉妹の物語』はトルコの雪に覆われた山岳地帯を舞台にした作品。町に出なければ未来はなく、町に出るためには子守奉公をするしかない。三人はそれぞれの事情で奉公先から実家に帰されるが、自分たちの未来のためにまた町に出ようと奮闘する。個性的な三姉妹の逞しさがすてきだった。熊本市賞(観客投票の第2位作品に授与)受賞の『土曜の午後に』は2016年にイスラム過激派が起こした「ダッカ・レストラン襲撃人質テロ事件」を基にした作品で、凶悪なテロ現場をワンショット映像で緊張が途切れることなく見せた。『樹上の家』はベトナムの少数民族に彼らの家について、火星で映画を作ろうとする監督がインタビューを行うという作品。監督は少数民族のアイデンティティに敬意を抱き、家の意味を深めていく。火星が登場するユニークな設定は少数民族同化政策を取る政府を刺激しないための工夫のようだ。『明日から幸せな人になろう』は地方から北京に出稼ぎに来た青年の姿を追う。同居人のいる地下部屋でも、職場でも、町の中でも彼に関心を払う人は誰もいない。大都会の無機的な空間に彼の寂寥が立ち上る。『昨夜、あなたが微笑んでいた』はプノンペンの集合住宅の取り壊し過程を描いたドキュメンタリー。住宅も住民もポル・ポト政権下を生き延びたが、住宅は壊され、住民はわずかな補償金で次の住処を探さなくてはならない。『ジャッリカットゥ』はインド南部の伝統的な牛追い祭りのこと。本作では、肉屋の処理場から脱走した巨大なバッファローを大群衆の男たちが我先に追っていく。そのスピード感が心地良い。『マリアム』では夫の失跡で収入を断たれたマリアムが子供を養うために、夫が死んだと虚偽の申告をして公的援助金を受け、苦境に陥る。監督がカザフスタンのテレビ番組で取材した女性の実話を基にした作品でマリアムは本人が演じている。雪原での生活の厳しさに彼女の人生の辛苦が重なる。


『福岡』モノクロ版上映 チャン・リュル監督が語ったモノクロの良さ


 昨年、カラー版『福岡』がオープニング上映されたのに引き続き、今年はモノクロ版が上映された。「カラーは現実をリアルに写すという点で優れており、モノクロは物語と登場人物の心情に意識をより集中させやすくなるはず」と監督は述べている。確かに、悲しい夢のような『福岡』の物語にはモノクロがマッチしていると思われた。

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『福岡』モノクロ版

 『福岡』後に監督が柳川で撮影した『柳川』は、撮影は完了していたものの、新型コロナの影響でその後の作業が滞っているそうだ。来年は『柳川』が見たい。会場でゲストたちの話も聞きたい。そのような状況になっていることを祈るばかりだ。


アジアフォーカス・福岡国際映画祭2020
 期間:2020年9月20日(日)~9月24日(木)
 会場:キャナルシティ博多(ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13)
 公式サイト http://www.focus-on-asia.com/

Writer's Note
 井上康子。『82年生まれ、キム・ジヨン』が日本でもベストセラーになったことが影響しているのか、小説の翻訳が増えていて喜ばしい。チョン・セラン著『保健室のアン・ウニョン先生』の主人公は高校の養護教諭で霊を見る力を持ち、校内に溜まった悪から生徒を守る。特別な能力を持つ自分がすべきことと諦観し、おもちゃの剣で果敢に立ち向かう姿は誰もが応援したくなるだろう。映画化されないだろうか。


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