Review 8月公開の韓国映画『鬼手 キシュ』『ディヴァイン・フューリー/使者』 ~エンタメ感たっぷり、「映画を観る楽しさ」を思い出させてくれる作品
Text by Kachi
2020/8/15掲載
新型コロナウイルス騒動により、上映中止や延期といった影がさした日韓の映画界だが、業界は何とか活況を取り戻そうと動いている。客足への影響は未だ少なくないはずだが、韓国では7月に公開された『半島(原題)』(2021年1月、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開)が観客動員300万人を突破し、日本では緊急事態宣言解除後に公開された『はちどり』や『マルモイ ことばあつめ』が好評を博している。そんな中、8月に公開される2本の韓国映画を紹介したい。いずれもエンタメ感たっぷりで、この数ヶ月で忘れかけていた「映画を観る楽しさ」を思い出させてくれる作品である。
囲碁の鬼がぶつかりあう期待のスピンオフ
身よりのない少年グィスは、その天才的な碁の腕を生かし、100ウォンで囲碁好きの大人たちをなぎ倒す少年として碁会所の話題となる。そんなとき、グィスは謎の棋士ホ・イルド(キム・ソンギュン)から声をかけられる。イルドとの出逢いは、グィスの運命を熾烈なものに変えていく。

『鬼手 キシュ』
『鬼手 キシュ』はチョン・ウソン主演の『神の一手』の派生作品だ。監督・主演などは総入れ替えになり、ストーリーも引き継がれているわけではない。『神の一手』では、碁盤も石も見ることなく頭の中だけで碁を打てる異能の持ち主を“鬼手”と呼んだ。過去作で繰り出された劇画顔負けの異種格闘囲碁に、私のように快哉を叫んだ向きも多かっただろう。そんな邦題が冠され、クォン・サンウが主演になり変わった本作『鬼手 キシュ』は、前作以上に意表を突いていて、『神の一手』ファンの期待も裏切らない出来映えである。奇想天外すぎるルールやギミックはぜひ本編でご確認いただきたいが、その過激さには実に圧倒される。一方で、自分の石を生かすためには攻めなければならない“生死”の容赦なさが、グィスのファイトスタイルに表現されている。破天荒な映画だが、囲碁がやりたくなる。少しかじった経験がある程度の筆者も、本作を観て久々に碁石に触りたくなった。
ジャンルムービーでありかつ、信仰をめぐる葛藤の物語
総合格闘技の若き世界チャンピオンとして注目を集めるヨンフ(パク・ソジュン)。ある夜、悪夢から目覚めると、右の掌に生々しい傷が浮かびあがっていた。同じ時期、バチカンから一時帰国中のアン神父(アン・ソンギ)が悪魔祓いをする瞬間を目の当たりにする。自身の傷の謎を解くためアン神父と行動をともにするにつれ、ヨンフはソウルの夜にうごめく邪悪な存在にふれることになる…。

『ディヴァイン・フューリー/使者』
韓国では近年、『哭声/コクソン』、『プリースト 悪魔を葬る者』、『サバハ』といった悪霊を祓うテーマを扱う映画が立て続けに作られている。また、ヨンフは幼い頃に両親を失い深く傷ついていた。『シークレット・サンシャイン』や『ファイ 悪魔に育てられた少年』など、韓国映画ではこうした「神への疑心と懊悩」がテーマになることが多い。韓国映画にはまだまだこうしたオカルトジャンル映画の愉しみがあるのは嬉しい。
『ディヴァイン・フューリー/使者』は、悪霊とのバトルシーンはアクション要素で魅せてくれる一方で、教会への憎しみを抱きながらアン神父と行動をともにするヨンフの姿を通して、信仰をめぐる葛藤の物語が語られている。伏線の回収や構成の妙に手抜かりがない点も感心した。
『鬼手 キシュ』
原題 신의 한 수: 귀수편 英題 The Divine Move 2: The Wrathful 韓国公開 2019年
監督 リ・ゴン 出演 クォン・サンウ、キム・ヒウォン、キム・ソンギュン、ホ・ソンテ、ウ・ドファン
2020年8月7日(金)より、シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
公式サイト https://kishu-movie.com/
『ディヴァイン・フューリー/使者』
原題 사자 英題 The Divine Fury 韓国公開 2019年
監督 キム・ジュファン 出演 パク・ソジュン、アン・ソンギ、ウ・ドファン
2020年8月14日(金)より、シネマート新宿ほか全国ロードショー
公式サイト http://klockworx-asia.com/divinefury/
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