Review 『悪人伝』 ~マ・ドンソク vs 野心刑事 vs 殺人鬼!三者三様の面構えが見応えあり
Text by Kachi
2020/7/18掲載
ヤクザの組長チャン・ドンス(マ・ドンソク)は、ある夜、見知らぬ何者かに襲われる。ドンスは辛くも生き延びるが、部下たちは対立する組との抗争へ。一方、チョン刑事(キム・ムヨル)はただ1人、この事件を連続無差別殺人鬼(キム・ソンギュ)によるものと確信し、ドンスと取引して犯人を捕まえようと目論む。そんな中、新たな殺人が起こってしまう…。

『悪人伝』は、韓国映画界での勢い止まらず、とうとうマーベル作品『エターナルズ(英題)』でハリウッド進出を果たすマ・ドンソクが主演だ。筋骨隆々とした肉体美に似合わない愛らしい笑顔や発言で“マブリー”と親しまれる彼だが、本作は序盤から狂犬ぶりが炸裂し、宿敵チョン刑事と本気のしばきあいをする。悪者たちに鉄拳制裁をお見舞いする正義の役が続いていたマ・ドンソクが、『悪人伝』で久々にアウトローを熱演している。
どうしてもマ・ドンソクに目が行きがちだが、キム・ムヨルの演じた問題刑事、チョン・テソクの無頼漢ぶりも映画に面白みを加えた。日本のいわゆる「マル暴」も、いかつい顔や容貌であることが多いが、チョン刑事の荒くれ方は型破りである。解決のためには強引な捜査や不法取引、脅しも辞さずにあけすけにやる問題児で、体格は及ばずとも、その猛犬ぶりはチャン組長を凌ぐ勢いである。そんなチョン刑事の野心を、キム・ムヨルの表情はたっぷり感じさせてくれた。また、猟奇殺人鬼に扮したキム・ソンギュは、改めて彼を映画俳優として発見できたことが収穫だった。甘い顔立ちではないが確かに美男であり、顔立ちに骨があって舞台映えがする。韓国ノワール映画にはこれまで多くの殺人犯役が登場するだけに、なかなか個性を出すというのは難しいことだったが、彼自体が持つ新鮮味は、強く印象に残るものだった。今作は殺人鬼だったが、次回は『神弓 KAMIYUMI』などスペクタクル史劇で有名なキム・ハンミン監督の新作に出演するそうだ。これからの活躍が楽しみな新鋭である。
英題が『The Gangster, The Cop, The Devil』であるように、互角にぶつかりあう三者三様のワルの面構えに見応えがある本作。ぜひとも、その顔を観ていただきたい。
『悪人伝』
原題 악인전 英題 The Gangster, The Cop, The Devil 韓国公開 2019年
監督 イ・ウォンテ 出演 マ・ドンソク、キム・ムヨル、キム・ソンギュ
2020年7月17日(金)より、シネマート新宿ほか全国ロードショー
公式サイト http://klockworx-asia.com/akuninden/
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