Review 『未成年』 ~人はみな“未成年”のまま生きてゆく
Text by Kachi
2020/5/30掲載
女子高生ジュリ(キム・ヘジュン)は、父親デウォン(キム・ユンソク)の浮気を知ってしまう。相手は学校の問題児、ユナ(パク・セジン)の母ミヒ(キム・ソジン)だった。母親が不倫の子を身ごもっていることを知ったユナは、ジュリの母親ヨンジュ(ヨム・ジョンア)に暴露してしまう。ジュリとユナは互いに反発をくり返しながら、まもなく生まれてくる小さな命の姉同士、少しずつ心を通わせていくのだが…。

メインキャストはたったの5人と、作りはミニマムだ。キム・ユンソク以外は全員女性で、彼女たちの配役と演出が的確になされている。能天気で自己中心的なミヒも、気弱で問題事を避けるヨンジュも手に負えないが、デウォンが誰よりもみっともなく、それが映画の中で絶妙に効いている。妻にも不倫相手にもいい顔をしたいくせにごまかすことが下手という、ユンソクのキャリア史上最も情けない中年男を、監督本人がどこか楽しんで演じている。デウォンの立ち居振る舞いは実に滑稽で、要所要所で観客を笑わせてくれる。
この映画についてユンソクは「秘密と嘘は家族の内に衝突をもたらします。この映画は、それらが明らかになったときに何が起こるかについて描いています」と語っている。本作で起こる衝突とその結末は、女子高生のジュリとユナには少々ヘビーだ。しかし、この映画を見終わった後の気持ちはなぜか明るい。まだティーンエイジャーの二人が互いにも、だらしのない親たちにも(呆れつつも)優しいからだ。それはとりもなおさず、監督自身が、みっともなくて頼りない親たちに対しても優しい眼差しであるからだろう。「人はみな“未成年”のまま生きてゆく」ことを肯定的に見せてくれる。初監督作品で、ここまで手堅い佳品に仕上げてきたことに拍手を送りたい。
『未成年』
原題 미성년 英題 Another Child 韓国公開 2019年
監督 キム・ユンソク 出演 ヨム・ジョンア、キム・ソジン、キム・ヘジュン、パク・セジン、キム・ユンソク
2020年6月5日(金)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋にて公開
公式サイト http://klockworx-asia.com/miseinen/
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