Review 『EXIT イグジット』 ~サバイバル・パニック&コメディの顔をした社会派映画
Text by Kachi
2019/11/17掲載
昔は山岳部の活動に青春を燃やした青年ヨンナム(チョ・ジョンソク)は、今は金ナシ職ナシ彼女ナシ。うだつが上がらない毎日を筋トレでまぎらわせている。母の古希のお祝い会のため、都心の高層レストラン「雲の庭園」に親戚一同が集まったある夜、ヨンナムはかつてあっけなくフラれた苦い思い出のある後輩ウィジュ(ユナ)と鉢合わせする。同じ頃、地上近くでは謎の有毒ガスが散布される事件が発生。ヨンナムたちにも危険が迫る…!

『建築学概論』のナプトゥク役、という説明をつけずとも、イケメンだが二枚目半に徹して、サスペンスからコメディ、ラブストーリーに至るまで味のある演技をみせる俳優のひとりに数えられているチョ・ジョンソク。『EXIT イグジット』では生死の狭間で恐怖のどん底にありながら、ウィジュと協力して懸命に前進していく姿に手に汗を握る。またウィジュは男性に守ってもらう、か弱い女性ではなく、危機的状況で自ら動き、機転でヨンナムを助けるパワフルなヒロインとして躍動していて好もしい。少女時代のユナにこんなに芯の強い役がピッタリだとは、不覚にも発見であった。
監督はこれが初長編のイ・サングン。壁の中に幽閉された男が脱出し、恋人に会いに行く不可思議なロマンス短編『Mr. Tap's Holiday』(2010年)で評価されていた。リュ・スンワンが制作陣に名を列ねているとはいえ、長編デビュー作でここまで見応えのあるエンターテイメントを、しかも脚本から練り上げてしまったことに敬服する。現実的に、確実にそこに存在する物を使えるように、起こりうる危機と状況から逆算して考えたのだろう。キャラクターの動きやシーンに無駄がなく、ラストまでスクリーンに没入してしまう。それでいて家族愛を織り込みきっちり泣かせてくるのだから、大ヒットもうなずける。
本作はサバイバル・パニック&コメディだが、有毒ガス事件にまつわる不当解雇や青年の失業問題、二人の脱出をネットで生中継する劇場型社会の描写がアクチュアルだ。そして何より、今も大きな傷痕として残るセウォル号事故に対する意識的な描写に深く考えさせられた。
『EXIT イグジット』
原題 엑시트 英題 EXIT 韓国公開 2019年
監督 イ・サングン 出演 チョ・ジョンソク、ユナ(少女時代)
2019年11月22日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
公式サイト https://gaga.ne.jp/exit/
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