Report マンスリー・ソウル 2019年10月 ~ラブロマンスの秀作『季節と季節の間』『ユ・ヨルの音楽アルバム』を堪能
Text by hebaragi
2019/10/20掲載
すっかり秋の気配のソウル。今回も多彩なジャンルの韓国映画9本(『季節と季節の間』『12番目の容疑者』『なまず』『ハチドリ』『ユ・ヨルの音楽アルバム』『いちばん普通の恋愛』『長沙里:忘れられた英雄たち』『量子物理学』『パーフェクトマン』)を見ることができた。印象に残った2作品を紹介する。
『季節と季節の間』
作品世界に感銘を受け、翌日同じ劇場で再見した。なお、本作は『花咲く季節が来るまで』という邦題にて「第28回レインボー・リール東京 ~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~」で上映されている。

『季節と季節の間』
結婚が破談になったヘス(イ・ヨンジン)は、ソウルから小さな街に移り住み、ひとりでカフェを営んでいる。そんなある日、他人の視線は気にせず自分の感情に正直な女子高生イェジン(ユン・ヘリ)がやってきて、店でアルバイトをすることになる。凛としてクールビューティーだが、どこか陰のあるヘスと、元気で明るく活発なイェジンはすぐに良い関係になり、お互いにかけがえのない存在になっていく。イェジンのアイディアで、殺風景だったカフェの店内には花の装飾が施されるなどして明るくなり、客も増えて経営も順調に推移する。満席になった店内を微笑みながら見つめるふたりがいる。何気ない日常が春の暖かさのように幸せな日々につながっていく。そうして穏やかな日々が続いていくかに見えたのだが…。
そんな折、ヘスに携帯電話販売店勤務のボーイフレンドができ、たびたびカフェを訪れるようになる。また、イェジンがヘスに「オンニ(お姉さん)が好き」と告白し、店長とアルバイトの関係以上の感情を持ちはじめたために、ヘスはイェジンを疎ましく思い始める。さらに、イェジンの母がアルバイトを辞めさせるようヘスに直談判に来たりもする。結局、イェジンは店を辞めることとなり、失意のうちにレズビアンバーを訪れるが、心は晴れない。イェジンがいなくなったカフェの入り口には「アルバイト募集」の貼り紙が貼られ、季節は冬へと移ろう。ヘスが、いつもの習慣で、もういなくなったイェジンを呼ぼうとするシーンが悲しい。イェジンがいなくなったとたんに閑古鳥が鳴くようになったカフェに呆然と佇むヘス。
全編を通して、季節のうつろいとともに、ふたりの関係が変化していく様子を丁寧に描いた演出が秀逸で、見ていて切ない思いにかられる。カフェでの日常以外でも、ふたり一緒に花火を見たり小旅行に行ったりするなど、様々なシーンで心を通い合わせるふたりの表情が印象的だ。終始しっとりと静かに展開しながら、しっかりとメッセージが伝わってくる珠玉のようなラブロマンスの秀作といえよう。
『ユ・ヨルの音楽アルバム』
1994年、「ユ・ヨルの音楽アルバム」というFM番組で、歌手のユ・ヨルが初めてラジオDJを務めた日、母の残したパン屋で働いていたミス(キム・ゴウン)。まるで時代に取り残されたような古ほけたたたずまいの店に、ある日客として訪れたヒョヌ(チョン・ヘイン)に恋心を抱くミス。しかし、思わぬアクシデントでヒョヌと連絡が取れなくなる。待ち続けたミスは、ある日ヒョヌと再会する。

『ユ・ヨルの音楽アルバム』
1990年代から2000年代にかけて流行した懐かしい音楽にのせて展開するラブストーリー。パソコンやインターネットや携帯電話が普及し始めた時代の、ネットを通じたふたりの交流もほほえましい。10年以上の時間のなかで、ときにすれちがいながらも、紆余曲折を経てふたりの交際が展開していく。2005年、周囲は再開発されて街並みはすっかり変わり、パン屋の隣はコンビニに変わっている。再会したふたりの恋のゆくえは果たして…。主演のミスを演じた透明感のあるキム・ゴウンと、彼女を一途に思うチョン・ヘインの表情が秀逸。恋のせつなさ、すれ違いを描いたストーリーが強い印象を残す王道のラブストーリーだ。
Writer's Note
hebaragi。『新聞記者』が10月17日、『天気の子』が10月30日に韓国公開される。2本の日本映画は韓国の観客にどう受け止められるのだろうか。
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