Review 『毒戦 BELIEVER』 ~ハードでバイオレンスな中にある深み
Text by Kachi
2019/9/30掲載
120分間、一瞬たりとも緩まない。
『毒戦 BELIEVER』は、強烈な暴力と脂の乗った悪役たちが暗躍する。これぞ韓国ノワール、とファンを唸らせながらも、さらに深遠な問いかけもはらんでいるところが新鮮だった。

麻薬取締局、通称“マトリ”の刑事ウォノ(チョ・ジヌン)は、巨大麻薬カルテルを牛耳る謎の人物“イ先生”の行方を追い続けていた。そんな中、麻薬製造工場の爆破事故が発生。唯一の生存者で、組織に見放された青年ラク(リュ・ジュンヨル)が発見される。ウォノはラクを利用しようと彼と手を組み、潜入捜査に乗り出していく。
巨匠ジョニー・トー監督の『ドラッグ・ウォー 毒戦』(2012)を大胆にリメイクしたのは、『京城学校:消えた少女たち』(2015)のイ・ヘヨン監督。前作でも、ワンシーンごとの美意識を感じたが、本作も麻薬製造工場や麻薬組織のアジトといった空間の作り方が見事である。また、『哭声/コクソン』の禍々しい旋律が記憶に新しいダルパランが劇伴を担当しているおかげで、音楽がゾクリとくる演出をしてくれている。さらに脚本では、『親切なクムジャさん』(2005)以降、パク・チャヌクとともに傑作を生みだしてきたチョン・ソギョンが、「一体誰が黒幕か?」というサスペンスフルな展開を通じて、悪と暴力の応酬だけでは収まらない深遠さを加えた。本作の英題「BELIEVER」は「信仰」を意味する。作品を見終わったとき、その言葉が暗示することに重く考えさせられる。
執念の“マトリ”を演じたチョ・ジヌンの、ギリギリの緊迫感を感じさせる“動”の演技と、眼差しで語るリュ・ジュンヨルの“静”の演技が本作を支えている。だが私はどうしても、闇マーケットの帝王ハリムに扮したキム・ジュヒョクがスクリーンに登場したシーンの、狂気を感じさせる気配が忘れられない。近年は特に、端正な顔立ちで愉快そうに演じる悪役が堂に入った感すらあった。遺作となった今作で、第39回青龍映画賞と第55回大鐘賞映画祭で助演男優賞を受賞している。
『毒戦 BELIEVER』
原題 독전 英題 Believer 韓国公開 2018年
監督 イ・ヘヨン 出演 チョ・ジヌン、リュ・ジュンヨル、キム・ジュヒョク、キム・ソンニョン、パク・ヘジュン、チャ・スンウォン
2019年10月4日(金)より、シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
公式サイト https://gaga.ne.jp/dokusen/
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