Report マンスリー・ソウル 2019年6月 ~映画、ミュージカル、演劇に見る韓国の今。日本映画も盛況
Text by hebaragi
2019/7/20掲載
梅雨まっただ中ですっきりしない天気が続く6月下旬のソウル。今回は上映中の韓国映画が少なかったため、韓国劇映画3本、日本の劇映画1本、日本のアニメーション1本を鑑賞した。また、映画以外では、ミュージカル2本、演劇1本、アクロバット・パフォーマンス1本を鑑賞した。
『寄生虫』
見終わったあと、「なるほど、こういう作品がカンヌで最高賞(パルム・ドール)を獲るのか」と妙に納得する。ポン・ジュノ ワールド全開。『スノーピアサー』などと同様に格差社会や極限状況における人間模様をテーマにしているが、ブラックユーモアの香りが漂う。

『寄生虫』
家族全員が無職で明日の生活もままならないが仲の良いギテク一家。ある日、長男ギウがグローバルIT企業の社長宅で高収入の家庭教師のバイトをすることとなる。半地下の劣悪な環境の住宅に住んでいた一家が、その後、社長の屋敷に入り込み、まるで寄生虫のような生活を始める。それなりに平穏な日々が続くかと思えたが、ラスト近くでストーリーが急展開する。もちろん、ハッピーエンドとは言い難く、観賞後、どうにもやりきれない思いが残る作品だ。全編を通してソン・ガンホの熱演が印象的。なお、本作は日本公開予定となっている。
『ロング・リブ・ザ・キング:木浦の英雄』
木浦にある巨大組織のボス、チャン・セチュル(キム・レウォン)は、地元で進められようとしている再開発計画への反対デモの立ち退き要員として行った場所で、出会った女性弁護士、カン・ソヒョン(ウォン・ジナ)の言葉を聞いて、彼女が願う「良い人」になることを決心する。ある日、セチュルがバス転落事故で人命救助をしたことをきっかけにメディアに取り上げられて英雄となり、国会議員選挙に出ることとなる。

『ロング・リブ・ザ・キング:木浦の英雄』
テンポのよいアクションドラマでもある。主演のふたりが魅力的で、ストーリーが進むにつれてふたりの距離が近づいていく作品世界に引き込まれる。また、ステージカーでの街頭演説など、日本とは異なる韓国の選挙事情も興味深い。なお、マ・ドンソクがカメオ出演している。
『ビースト』
世間を震撼させる殺人事件が発生。捜査のためなら手段を選ばない古参刑事と、ライバルで組織のルールに忠実な刑事が捜査にあたる。手段と方法を選ばず犯人を捕まえてきた強力班の刑事ハンスは後輩とともに捜査に乗り出す。ハンスは麻薬ブローカーが犯した殺人事件を隠蔽してやる代わりに、今回の殺人事件の決定的な手がかりをつかむ。だが、ライバルのミンテ刑事がそれに気づいてしまう。強引な捜査で殉職者も出すなか、最終的に事件は解決。ミンテは昇進する。アクションシーンの数々は迫力があり、また、刑事たちの人間関係も丁寧に描かれている力作だ。

『ビースト』
『ビブリア古書堂の事件手帖』
2018年の日本公開作品。レイトショーにもかかわらず20名ほどの観客。鎌倉を舞台に、古書をめぐるミステリーがしっとりと描かれている。主演の黒木華の『リップヴァンウィンクルの花嫁』や『日日是好日』でも見せてくれた透明感のある凛とした佇まいが魅力的。何度か出てくる夏目漱石や太宰治作品の朗読シーンも印象に残る。回想シーンの東出昌大と夏帆の表情も秀逸だ。
本作が上映されていたCGV明洞駅シネライブラリーでは、ほぼ常時日本映画が上映されているが、いつでもコンスタントに観客が入っている。また、今回は残念ながら満席のため見られなかったが、スタジオジブリの名作『魔女の宅急便』も大勢の観客を集めていた。このような状況は、日韓の政治レベルでの葛藤が続く中、文化交流の観点から歓迎すべき状況といえよう。
『となりのトトロ』
1988年公開の作品だが初見だった。相変わらずの宮崎駿ワールドが展開。キャラクターデザインは「アルプスの少女ハイジ」に似ている。時代設定は戦後間もなくなのか、壁掛け電話や電報、オート三輪が登場する。キャラクターのキラキラとしたみずみずしさが魅力的。糸井重里が父親役の声を演じているのにも注目。
ミュージカル『パルレ』
4回目の鑑賞だが、見るたびに新たな発見がある。さらに、今回のキャストはダブルキャストで前回までとは異なっており、新鮮な印象で見られた。ソウル市内で偶然同じアパートに住むことになった書店で働く女性ナヨンと、モンゴルからの労働者の若者ソロンゴを中心に展開するハートフルドラマだ。格差社会、外国人労働者、パワハラ、障がい者差別など、現代の韓国が抱える問題が織り込まれている。「洗濯物が風に身をまかせるように、心も風にまかせよう」「洗濯物が乾くように、涙もいつか乾く」など、心に響く台詞も多数。本作は2005年からロングランを続けており、日本で公演されたこともある。鑑賞当日は4,759回目の公演とのことだった。
ミュージカル『作業の定石(ナンパの定石)』
2005年にソン・イェジンとソン・イルグクの主演で公開され、日本でも『ナンパの定石』として公開された映画のミュージカル版。テンポのよい楽しいラブ・コメディが展開する。ワンシチュエーションの二人芝居で、双子の妹とのひとり二役を演じて妹の元カレを欺こうと画策するストーリー。肩がこらず楽しめる作品だ。
演劇『ジャマイカヘルスクラブ』
TV番組への再出演が決まり、短期間でのダイエットを求められた女優が、スポーツクラブで奮闘するストーリー。ワンシチュエーションのコメディ・ドラマだが、4人それぞれのキャストの個性が光っていて見ごたえがあった。終演後、キャスト全員が公演ポスターにサインをし、観客との写真撮影に応じていたのも嬉しいファンサービスだ。
アクロバット・パフォーマンス『JUMP』
テコンドーをモチーフにしたアクロバット・パフォーマンス。席が3列目だったので、迫力満点。バク転や宙返りなどの華麗な技の数々に圧倒される。個性豊かな家族たちが演じるコメディタッチの展開に満席の観客が沸いていた。観客は外国人比率高めで、日本人もちらほら。終演後、会場出口でキャスト全員が参加するサイン会が開催されていた。
Writer's Note
hebaragi。ソウル滞在最終日は22時過ぎまで映画を見て、LCCの深夜便を利用しての帰国。翌日早朝に着いて、その足で出勤というハードスケジュールも2回目。しかし、今回も良い作品に出会えた充実感からか、あまり寝ていない割は睡魔は襲ってこなかった。
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