Review 『フェルーザの夢とともに』 ~偶然の出会いに導かれ、エチオピアの少女の夢は一気に動き出す
Text by mame
2019/6/15掲載
韓国アニメーション『フェルーザの夢とともに』が、「花開くコリア・アニメーション2019+アジア 名古屋会場」と「世界のアニメーションシアター WAT 2019」で日本初公開され、キム・イェヨン監督、キム・ヨングン監督が来日する。

本作の主人公、フェルーザ
本作は、両監督が新婚旅行中にアフリカで出会った少女との交流を、実写を織り交ぜる形で映像化したドキュメンタリー・アニメーション。類い希なる語学の才能を持った聡明な中学生フェルーザ。しかし、エチオピアの田舎では早婚の風習が残り、まもなく見ず知らずの男性と結婚しなければならなかった。フェルーザの真摯な姿に心打たれた両監督は、なんとかできないかと奔走するのだが…。
可能性はどこに転がっているかわからない。私達ひとりひとりが一度しかない人生を生きており、自分を特別だと思う気持ちと、やはり自分は凡人だと打ちのめされるような気持ちの狭間で葛藤を続けながら、毎日を過ごしているのではないだろうか。
だが、とてつもない可能性を持ちながらも、周りの環境によってその才能を発揮できない運命を背負った人を身近に見つけた時、私達はどうするだろう? 『フェルーザの夢とともに』のキム・イェヨン監督とキム・ヨングン監督の出した答えは、才能を活かせる場所をいっしょに探す事であった。

エチオピアのゲストハウスで働いていたフェルーザが話す流暢な韓国語に目を見張り、「いつか韓国に行きたい」と話す彼女の夢を叶えようと奮闘する。果たして自分はここまで他人のために出来るだろうかと驚く気持ちでいっぱいになる。しかも、自身の新婚旅行の途中である。
思わぬ好機に恵まれたフェルーザにも、助けずにはいられない魅力が溢れていたのだろう。助けるという言葉には語弊がある。フェルーザの夢を巡る旅は、彼女がふるまってくれた伝統的なコーヒー・セレモニーのお返しとして、両監督が何かできないかと提案した事から始まった。お互いの得意分野で相手を喜ばそうとする関係がすがすがしい。
中学校を卒業すれば見知らぬ男の元へ嫁ぐ事は決まっており、それ以外の将来など考えた事もなかったフェルーザ。だが、黙々と日々の勤めを果たしながら、毎日自分で屋根に登ってアンテナを立て、唯一の娯楽ともいえるテレビを通して広い世界を知り、言葉を学んだ事で、いつしか夢を持つようになった。旅の道中、面接用の志望動機を書くにあたり、初めて自分の将来に思いを馳せ、疲れ切って寝てしまうフェルーザの様子はどこか微笑ましい。

夢を叶えるためには何が障害なのか、どうやって取り除けば良いのかがテンポの良いナレーションとアニメーションで描かれる。フェルーザの夢はネットもつながらない田舎から始まり、韓国語コンテストにエントリーするために車で2時間かけて訪れたネットカフェを経由して、エチオピアの首都アディスアベバへと広がり、いつしか現実味を帯びて一気に加速してゆく。
いろんな偶然とタイミングの不思議を感じずにはいられなかった。やがて韓国へと戻った両監督は、フェルーザとお互いの顔を見ながらスマートフォンで会話する。どこにいてもネット環境さえあれば一瞬で誰かと繋がることのできる現代を疎ましく思う声もあるが、そのおかげでこんな風に、旅行中でも出会った誰かの夢を叶えるお手伝いができてしまう。変えられないと思っていた運命をも、偶然会った旅人との出会いで変えてしまう事ができるのだ。
もちろんそこはフェルーザの強い思いと、彼女を支える家族の協力、そしてネット大国である韓国から来た両監督のスピード感があってこそだろう。

左から、キム・イェヨン監督、フェルーザ、フェルーザの弟、キム・ヨングン監督
好機を逃さず自分のものにする、その努力を怠らなかったフェルーザと両監督の起こした奇跡を目の当たりにし、「いつか」は「いつの間にか」始まっていて、その瞬間を掴めるかは自分次第なのだと気づかされる。凡人の自分がこの世界の特別な存在になれる瞬間なんて、そう何度もない。だが、両監督がフェルーザを「この旅の本当の意味を教えてくれた少女」と語るように、お互いを特別な存在として認め合う事は、時に運命を変えてしまうほど大きな力を生み出すのだと、思い知らされた。
『フェルーザの夢とともに』
原題 페루자 英題 FERUZA 制作年 2017年 上映時間 24分
監督 キム・イェヨン、キム・ヨングン 出演 フェルーザ、キム・イェヨン、キム・ヨングン
「花開くコリア・アニメーション2019+アジア」
2019年7月6日(土)・7日(日)、愛知芸術文化センターにて開催
公式サイト https://anikr.com/
※ 第10回記念として『フェルーザの夢とともに』を特別上映。
※ 7月6日(土)13:45の『フェルーザの夢とともに』上映後、キム・イェヨン、キム・ヨングン監督によるトークあり
「世界のアニメーションシアター WAT 2019」
2019年6月29日(土)より、下北沢トリウッドにて開催。以降、京都、姫路、名古屋ほか巡回予定
公式サイト http://www.wat-animation.net/
※ 『フェルーザの夢とともに』はCプログラムで上映。
※ 7月7日(日)15:30のCプログラム上映後、キム・イェヨン、キム・ヨングン監督によるトークあり
Writer's Note
mame。テレビで5ヶ国語をマスターしたというフェルーザのずば抜けた語学能力。少しでも彼女に追いつきたくて、韓国語のインタビューを音読したり、留学当時の辞書を引いてみたり、語学学習の楽しさを思い出せました。

『フェルーザの夢とともに』のポスター
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