Report マンスリー・ソウル 2019年4月 ~ドキュメンタリー映画の力を感じる
Text by hebaragi
2019/5/12掲載
今回は、韓国劇映画3本、韓国ドキュメンタリー2本、日本のドキュメンタリー1本を見た。シネコンで開催された東野圭吾作品の読書会に参加し、ミュージカルも鑑賞した。
『他人は地獄だ』
同級生の男性5人、女性2人がキャンプ場で休暇を過ごす一泊二日を、ほぼワンシチュエーションで描いている。三部作構成で、とめどなく続く会話を中心に展開する青春群像劇。時間の経過につれ、女性1人と男性2人に三角関係が生じるなど、人間関係が微妙に変化する展開が興味深い。女性2人の表情が印象的。

『他人は地獄だ』
ちなみに、この作品が上映された「ハリウッド劇場」はいわゆる名画座で、ふだん、内外の旧作を高齢者を対象に料金2,000ウォン(約200円)で上映している。作品を見終わって劇場を出てきたとき、たくさんの高齢者が行列を作っていた。このような映画館は、シネコンが全盛のソウル市内では稀有な存在といえるだろう。
『ウォッチング』
駐車場で拉致された女性と犯人が主人公のホラー・サスペンス。犯人と女性との緊迫感あふれるやりとりと、息詰まるスピーディーな展開が印象的だった。監視カメラが多数存在する中での大胆な犯行が現代社会の闇をえぐり出していた。

『ウォッチング』
『安藤忠雄』
斬新な建築で有名な建築家は韓国でも関心が高く、レイトショーだが、多数の観客で客席が埋まっていた。内容は、彼の建築の数々を彼独特のユーモアを交えたインタビューにのせて紹介するドキュメンタリー。

『安藤忠雄』
緑、水、光をコンクリートと調和させたデザインの数々は意表をつくものが多く、改めて傑作が多いことに気づかされる。中でも大阪にある「光の教会」や瀬戸内海・直島にある「地中美術館」は印象的だった。大学や専門学校に行かず、ほぼ独学で学んだ知識を元にした発想は素晴らしく、感動の連続だった。
『盧武鉉と馬鹿たち』
革新政権として期待されながら、大統領退任後に判明したスキャンダルが原因で自殺した盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領をテーマにしたドキュメンタリー。彼を懐かしむ80名を超える様々な市民のインタビューを交え、あの熱狂的な盧武鉉大統領誕生の真実に迫る力作だった。韓国で初めてネット社会から生まれた大統領といわれる盧武鉉とは何だったのか? 「馬鹿たち」とは誰を指すのか? いろいろと考えさせられる作品だった。

『盧武鉉と馬鹿たち』
『ビューティフル・マインド』
年齢も様々な障がい者と健常者のオーケストラの活動の日々を扱ったドキュメンタリー。クラシックの名曲の数々が彩りを添える。ピアノ、チェロ、バイオリンなど楽器は異なるが、熱心に練習に取り組む姿が胸を打つ。本人たちはもちろんだが、温かく見守る家族たちの表情も素晴らしい。困難を乗り越えて迎えたラストの演奏会は感動的。

『ビューティフル・マインド』
『誕生日』
2014年に起きたセウォル号沈没事故の遺族をテーマにしたドラマ。事故以来、生前のままの勉強部屋が残されていたり、夫婦が別居するなど、年月が経っても癒されない遺族の姿が痛々しい。亡くなった高校生の友人たちが誕生日に集まり、彼のありし日の写真のスライドを見ながら思い出を語る様子は、ただただ悲しい。ラストに読み上げられたメッセージは胸に迫るもので、観客の涙を誘っていた。遺族の夫婦を演じたソル・ギョングとチョン・ドヨンの熱演が印象的だった。

『誕生日』
読書会「イ・ダヘのブッククラブ シーズン2 東野圭吾」
繁華街・明洞のシネコンの中にある「シネマライブラリー」で開催された講義形式の読書会。壁際に映画に関わる図書が並び、客席にはゆったりとしたソファが設置されるなど、心地よい空間となっている。入場の際にレジュメを渡され、大学の講義のように作品のあらすじを輪読し、講師が解説を加えていくイベント。今回は、広瀬すず&櫻井翔主演で2018年に日本公開され、5月9日からは韓国でも公開される『ラプラスの魔女』がテーマ。講師は内外のミステリーに詳しいようで、宮部みゆきやアガサ・クリスティの話題も出た。講義の途中で『ラプラスの魔女』の1シーンも上映された。韓国では過去に『白夜行』や『容疑者Xの献身』がリメイクされ公開されるなど、東野圭吾人気は有名だが、今回も満席になるほどの人気に日本人として嬉しくなった。

読書会の模様
ミュージカル「キム・ジョンウク探し」
2010年にイム・スジョンとコン・ユの主演で公開された同名映画のミュージカル版。映画は日本では『あなたの初恋探します』という邦題で公開された。設定は映画とほぼ同じで、テンポのよい楽しいラブコメディ。9年前にインドで初恋の人と出会った主人公が初恋探しの会社を訪れるという、2人の出会いから、ハッピーエンドに至るまでのストーリーにほっとさせられた。ちなみに、劇場のある大学路は100軒以上の小劇場が存在する芸術の街で、駅からの道すがら多数のストリートミュージシャンが演奏するなど、若者の街として活気が感じられるのも魅力的である。

ミュージカル「キム・ジョンウク探し」
Writer's Note
hebaragi。LCC利用で経費をかけずに毎月ソウルを訪れ、映画鑑賞することにしました。できるだけ多くの情報を提供したいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。
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