Review 『22年目の記憶』 ~ある“予行練習”に人生を翻弄された父と子の物語
Text by Kachi
2018/12/27掲載
韓国で、2018年の大きなニュースといえば、やはり11年ぶりに行なわれた南北首脳会談である。『22年目の記憶』は、今以上に朝鮮半島情勢が政治的緊張に包まれていた時代の、ある“予行練習”に人生を翻弄された父と子の物語である。

舞台は1972年。ソングン(ソル・ギョング)は、小劇団の売れない役者。後輩たちに役を取られてすっかり雑用に甘んじているが、演劇への情熱は捨てていない。ついにシェイクスピアの『リア王』の主役を演じるチャンスがおとずれるが、諳んじるほどに記憶していたはずのセリフが本番の緊張で飛んでしまい、息子テシク(パク・ヘイル)の前で演出家になじられ、面目丸つぶれ。そんな時、一人の人物が楽屋を訪ねてくる。大学の演劇科のホ教授(イ・ビョンジュン)だ。ソングンの演技を見込んだという教授は、あるオーディションへの参加をすすめる。その裏側には、国家による前代未聞かつ壮大なリハーサルが用意されていた…。
『彼とわたしの漂流日記』のイ・ヘジュン監督なだけに、奇抜な発想から練られたシナリオだと思っていたが、なんと当時実際に南北会談の予行練習が行われていたというから、まったく事実は小説より奇なりである。だが本作は、やはりソル・ギョングの独擅場だ。だいぶ使い回された「カメレオン俳優」という言葉だが、改めて彼の称号だと本作で確信させられた。突然国家の思惑に巻き込まれた小市民の男としてのおどおどとした佇まいから、威厳と風格を漂わせた北の最高指導者・金日成へと、文字通り豹変する。くちびるの端を少し上げて卑屈にほほ笑む表情をつくるシーンには、その憑依役者ぶりに思わず肌が粟立った。
『22年目の記憶』
原題 나의 독재자 英題 My Dictator 韓国公開 2014年
監督 イ・ヘジュン 出演 ソル・ギョング、パク・ヘイル、ユン・ジェムン、イ・ビョンジュン
2019年1月5日(土)より、シネマート新宿・心斎橋にてロードショー
公式サイト http://www.finefilms.co.jp/22nenme/
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