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Report 第23回釜山国際映画祭(6) ~BIFF2018最高の1本…『ハチドリ』

Text by Kachi
2018/12/26掲載



 ひょんなことで知り合ったソウル・鍾路(チョンノ)の独立映画館「ソウルアートシネマ」のスタッフSさんが、今年の釜山国際映画祭(以下、BIFF)作品で韓国人に一番人気なのはキム・ボラ監督の『ハチドリ/House of Hummingbird』(FIPRESCI賞、NETPAC賞、KNN観客賞)だと教えてくれた。Sさんは小津や成瀬を偏愛し、亡き若松孝二監督と若松プロの華やかりし季節を記録した青春劇映画『止められるか、俺たちを』について、今観たばかりだと興奮気味に話してくれる、熱いシネフィルだ。そんな彼女が勧めてくれる映画を見逃す手はないとばかりに、3日間チケットボックスに早朝から通い詰めたが、上映回数が多いにもかかわらず全く手に入らない。どうにか機会を得られたのは、釜山で過ごす最後の夜の一番遅い回だった。

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『ハチドリ』

 舞台は1994年。主人公のウニは、少女から大人の女性に少し背伸びをしつつある、反抗期にさしかかった14歳だ。別の中学校に通う恋人と子どもっぽいファーストキスを経験し、友達同士隠れて喫煙や万引きをし、後輩女子から恋ともつかない情熱を寄せられている。超難関のソウル大学への進学を父から厳命される兄は、プレッシャーへの苛立ちからかウニへ頻繁に手を上げる。年頃らしく奔放な姉に毎晩のように父親は激高し、時として母と流血沙汰の大喧嘩に発展する。大韓民国的家父長制が覆う、当時は当たり前だった家庭環境だ。

 「自分が嫌いになる」 そんな思いに苛まれる毎日の中で出逢ったある一人の女性が、ウニの生活にささやかな変化をもたらす。さしたる興味もなく通っていた中国語教室の新しい女性教師ヨンジは、誰にはばかることなくタバコをくゆらせ、物憂げに視線を投げかけながらも、たおやかさを感じさせた。そのたたずまいに、ウニは心を奪われる。

 突然の大病で入院したウニを訪ねたヨンジは、「もう誰にも殴られてはいけない。誰であっても、あなたに手を上げる人とは闘わないといけないの」と、芯の強い口調でウニに言い、ウニにとっては生涯忘れられない言葉になる。粒ぞろいのBIFF作品の中にあって、特に『ハチドリ』が優れていると感じたのは、エッセイ調の作りでありながら私たちが生きるこの現実世界へ自然にシンクロしているところだ。積み重ねられる繊細なエピソードは、まるで隣りに寄り添ってくれるようである。歴史的惨事の瞬間を映画の主軸として切り取ることで時代に連結し、さらに昨年から世界的なムーブメントになっている#MeToo運動にまでコミットしていく。脚本のディテールと背骨がしっかりしていて、なおかつテクニックだけに頼らない血の通ったストーリーに、心から感動した。ヨンジのセリフには、韓国が幾度となく巨大で野蛮な力に押し流され、足蹴にされようとも、その歩みを止めようとせずにきた姿勢がそのまま、一言で表されているのだ。

 『ハチドリ』に大いに泣かされた帰路、なぜこの国の映画はこれほどまでに豊かなのかを考えていた。ドキュメンタリーにしろフィクションにしろ、現実と切り結ぶことなく安全な映画が、ほぼ見当たらない。疲弊した現実社会に芸術である映画がひきずられてしまううらみはあれど、その生々しい手ざわりは忘れがたく印象を残す。荒涼としたこの世界で生きなければならない時、それでも「世界は美しいのよ」(『ハチドリ』より)と、スクリーンから語りかけられることは何と幸福で、明日を生きるよすがとなることだろうか。映画は良き隣人で、最良の伴侶であることを、釜山で痛感させられたのだった。

(了)


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 Report 第23回釜山国際映画祭(6) ~BIFF2018最高の1本…『ハチドリ』

第23回釜山国際映画祭
 期間:2018年10月4日(木)~10月13日(土)
 会場:釜山市内各所
 公式サイト http://www.biff.kr/


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