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Report 第23回釜山国際映画祭(5) ~諦めきれない私たちの焦燥…『辺山』『バーニング』

Text by Kachi
2018/12/24掲載



 『空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~』『金子文子と朴烈(パクヨル)』での演技も記憶に新しいチェ・ヒソを主演に迎えた、ハン・ガラム監督の『アワー・ボディ/Our Body』(女優賞)は、30歳を迎えて未だに公務員試験を受け続け、閉塞感にさいなまれる一人の女性が、同世代のスポーティーな彼女に出逢って変化していく作品であった。同性愛的コードもあったが、それ以上に、世代間に漂う閉塞感があった。ミドルエイジの焦燥と諦めは、今日的テーマとして映画祭作品に反映されていた。

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『辺山』

 筆者は韓国のヒップホップはおろか、ラップについても不見識だ。しかし韓国語のパッチムや激音、濃音とラップ独特の詞の表現の相性、そして悪口(욕)の豊富さが、本家アメリカにも劣らない言葉の応酬を可能にし、ローカライズされた形でシーンを盛り上げていることは、容易に想像できる。『ラジオ・スター』『楽しき人生』『あなたは遠いところに』で「音楽三部作」を完結させたイ・ジュニク監督の新境地『辺山/Sunset in My Hometown』で気づかされたのは、ラップとはセンスと運動神経が要求される上に、大変知的な営みが根にある、ということだ。

 ハクスはヒップホップのトーナメント番組を勝ち進む実力派ラッパーだが、イマイチ大人気とまではいかず、コンビニのバイトでしのぐ毎日を送っている。生まれ故郷の扶安(プアン)・辺山(ピョンサン)に何一ついい思い出はなく、唯一の肉親である父とは絶縁状態。田舎育ちじゃ格好がつかないと、ソウル出身と嘘をついている。ある日、地元の病院から、父が倒れたからすぐに帰郷するようにと連絡が来て、ハクスは渋々10年ぶりに辺山へ足を踏み入れる。未だに地元でつるんで大騒ぎしているダサい同級生たち。学生時代の威光をかさに着て親分面で後輩をこき使い、憧れの美人同級生をちゃっかりモノにしているクソな先輩。何より大嫌いな父親は、入院してはいるものの予想に反してピンピンしている。ハクスへの初恋を今も心に抱くソンミに、はた迷惑な熱視線を送られるわ、地元のドタバタに巻き込まれるわで散々な目に遭いながら、ハクスは反発と追憶に彩られたオリジナルの言葉を紡いでいく。

 ハクスも、病父の世話で地元に縛られながら小説を書くソンミも、やみくもに夢を追える年齢ではない。一方ソンミがそうであるように、韓国でも日本でも、親の介護に追われる歳のラインが確実に低年齢化している。どんなに遅咲きだろうとも、自身の情熱をすり減らして誰かのために生きることはまだ選べない。劇中のバックミュージックでは、心が成熟していない彼らと彼女たちの軋轢ともどかしさがこもったハクスのリリックが刻まれる。音楽をテーマに、人生に起こる喜怒哀楽を温かいコメディに仕上げることには折り紙つきのイ・ジュニクの手腕が、また冴えている。見終わった後、韓国ラップに親しみたくなった。ところで個人的には、ソンミ役のキム・ゴウンはクール系美女で、初恋の相手としては全然がっかりではない。

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『バーニング』

 どこの国でも、映画祭会場のエレベーターは、今観終えた映画の感想大会になる。『バーニング/Burning』上映後、観客はなかなか辛辣なことをつぶやいていた。

 誰もが傑作を観たい。巨匠と呼ばれた監督ならなおのこと、次回作は大きな期待を持って待ち望まれている。しかし私は、必ずしも傑作が観たいわけではないのだということを今回知った。傑作は誰もが観るからである。8年待ち続けたイ・チャンドン監督の新作『バーニング』のように決して放っておけない映画のことを、そうした作品を作り続けるイ・チャンドンのことを忘れたくない。

 肉体労働でその日をしのぐジョンスは、ソウルの雑踏で偶然幼なじみのヘミに再会する。ヘミはアフリカへ行くと唐突に言い出し、その間、飼い猫の世話をして欲しいと頼んで、ジョンスを自宅へ連れ込む。そのまま二人は行きがかりでセックスをする。ほどなく帰国したヘミは洗練された男性ベンを連れていて、迎えに来たジョンスを戸惑わせる。

 ベンはペントハウスにハイソサエティな友人を呼んではホームパーティーを繰り広げ、高級外車を乗り回している。日雇い労働者であり、坡州(パジュ)の農村にある荒れたジョンスの実家や、陽の差さないヘミのワンルームとは雲泥の差だ。ジョンスは皮肉を込めて、ベンを「韓国のグレート・ギャッツビー」と呼ぶ。だが、ベンは飽きたりない毎日を贅沢で取り繕っていたのだ。そしてある日、ジョンスはベンから、ビニールハウスを燃やすことの快楽について聞かされる。それからというもの、ジョンス自身もビニールハウスに火を放つ妄想に取り憑かれる。

 村上春樹の短編小説『納屋を焼く』を原作にしているが、エッセンスだけを借りた作りになっている。小説と違い、主人公のジョンスよりも、エキセントリックな魅力を持つヘミや冷静なベンが、村上春樹的人物をよく表している。個人的に村上春樹の書く斜に構えたような人物像が苦手だったのだが、この三人の若者は筆者の心を掴んで離さなかった。ジョンスの実家がある坡州は、北朝鮮にほど近いため、北が韓国政府を批判する放送がスピーカーで延々流されていて、片やそのそばには、南の守り神のように太極旗が高々と掲げられている。しかし、それらは三人の焦燥や諦め、幻滅に対して、何ひとつ慰謝にはなり得ない。ヘミが裸になって踊るシーンにさりげなく太極旗を入れるイ・チャンドンは、国によるがんじがらめを皮肉っているかのようだ。

 『バーニング』は撮影スケジュールが押したせいでキャスティングが変更された後、ユ・アインが「イ・チャンドンの男」に抜擢された。『ベテラン』『王の運命(さだめ) ―歴史を変えた八日間―』での熱のこもった演技で、すでに韓流イケメン・スターの殻を脱皮していたユ・アインだったが、本作でイ・チャンドンの洗礼を浴びたことで、更に若手俳優たちにおける「実力派」という評価のハードルを格段に上げてしまった。大きな演技をしている訳ではないのに、内部に炎を宿しているような末恐ろしい芝居、としか言いようがないが、極端なことを言えば今後、ユ・アインほどに演じなければ誰もが小手先の役者に過ぎないだろう。

 イ・チャンドンの映画は観ていて痛々しく、心身が疲弊させられる。本作のユ・アインや、『ペパーミント・キャンディー』のソル・ギョングがそうだったように、劇中人物は社会と時代の共苦的人物として自身を惜しみなく作品に捧げ、観客はまるで刃物でも突きつけられるようにそれを見届けるからだ。そもそも娯楽や爽快さは目指されていない。彼の作品にしかない人間の本物がある。描かれる世界はミニマムで時に唐突だが、生々しい焦燥や葛藤、悲しみに必ず寄り添える監督なのである。


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第23回釜山国際映画祭
 期間:2018年10月4日(木)~10月13日(土)
 会場:釜山市内各所
 公式サイト http://www.biff.kr/


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