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Review 『折れた矢』

Text by 井上康子
写真提供:福岡アジア映画祭
2012/8/30掲載



 2007年に韓国で実際に起きた事件、かつての裁判で自分に対して有罪判決を言い渡した判事に矢を撃ったとして元大学教授が拘束された「クロスボウ・テロ事件」をもとにした作品。相手が判事であったために被告が正当な裁判を受けることができず、重い量刑に処せられてしまったことを司法の問題として描いている。監督は『南部軍』『ホワイト・バッジ』(1992年・東京国際映画祭「東京グランプリ・都知事賞」・最優秀監督賞受賞)など、リアルな描写で社会的メッセージの強い作品を生み出してきたベテランのチョン・ジヨン。本作は彼の13年ぶりの作品となる。主人公を演じるのは「国民俳優」アン・ソンギ。彼がチョン監督作品に主演するのは『ホワイト・バッジ』以来20年ぶり。

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 数学の教授として勤務している大学で、入試に出題された数学の問題に誤りがあることを指摘し、公表すべきだと主張したキム・ギョンホは秘密裏に処理しようとする教授たちにより解雇されてしまう。教授の地位にあることの確認訴訟に敗訴し、控訴が不当に却下されたために、彼は担当判事に正当な裁判を要求しようと判事の自宅へ出向き、事件が起きる。実際は、ギョンホは判事の反省を促そうとクロスボウで威嚇しただけで、撃ってはいなかったのだが、撃って傷を負わせたとされ、検察は彼の行為を「法治国家への挑戦でテロ」と断定し、「厳罰に処す」と発表する。判事の血がついたシャツ、腹部に傷があるという診断はあるが、判事の血であることの検証は認められず、腹部の傷も殺傷能力の高いクロスボウの矢によるものとは思われない浅い傷である。そして、判事が事件の時に壁に当たって「折れた」と主張する矢はどこにも存在しないのに、ギョンホが矢を撃って傷を負わせたと決めつけられる。

 本作同様に司法の問題を扱った最近の作品として『トガニ 幼き瞳の告発』があり、こちらは事件の衝撃性を重く描いていたが、本作は独習した法律知識を武器にして裁判でも一歩も引くことなく、判事に対してさえ「これが裁判ですか? 判事を忌避します」と訴える主人公のキャラクターの強さを前面に出して見せている。保身をはからない潔さと融通のきかなさがほどよく調和して、小気味よくユーモラスな仕上がりになっている。ティーチインではゲストとして登場したアン・ソンギが「監督からシナリオを受け取って読んで、翌朝には出演オーケーと返事をしました」「シナリオの完成度がとても高い」と発言していたが、本来重いテーマをユーモアを交えて処理し、また、法廷での応酬には緊迫感をもたせており、笑いと緊張の連続で最後まで飽きさせることがない。

 主人公のキャラクターの強さを前面に出した作品であるという意味では、この作品はまさに主人公を演じたアン・ソンギの映画であり、1980年代から1990年代にかけて彼が演じた知的な主人公を彷彿とさせる役を力強く演じている。担当の弁護士ともうまく付き合えない偏屈者のように見えた主人公は、実は強い使命感をもっており「韓国は法治国家です。法は数学と同じように美しい。法を守らない裁判官たちを法を使ってやっつけます」と言うのだが、このような知的で信念をもった台詞がさまになり、法廷での長い弁舌によどみがなく、厳しい状況に置かれていても暖かみのある父・夫であり、加えて、エンディングではたいへん茶目っけのあるユーモアまで見せており、さすが「国民俳優」アン・ソンギだと思える。

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アン・ソンギ

 ギョンホは一度だけ弱気になるのだが、それは彼を屈服させようとする司法側の企てにより、房内で受刑者からレイプされたためである、また、ギョンホの信頼を得た彼の担当弁護士はもともと労働争議を専門にしていたが、過去に争議を阻止する側の暴力により労働者が重傷を負わされたことがトラウマになり労働争議を担当できなくなるなど、少しずつ出てくる悲惨な出来事のリアルさが印象的で、これはやはり『南部軍』、『ホワイト・バッジ』でリアルな描写をしたチョン・ジヨン監督作品だと納得できる。ギョンホは支援者から「司法被害者の英雄」と見なされていたが、韓国では実際に「司法被害者の会」という名の当事者団体もある。歴史的に軍政下での裁判に問題があったということが大きな理由だろうが、司法に対する信頼感が日本に比べて低いために、「司法被害者」という表現があるのだろう。ギョンホが反省を促そうと威嚇した判事は彼を解雇したS大学出身であり、大学の意向に判事が沿ったことも示唆されているので、ギョンホの「法を守らない裁判官たちを、法を使ってやっつける」という発言もリアルな重みをもっている。

 低予算で製作された作品で、アン・ソンギら俳優の多くがノー・ギャラで出演したことでも話題になったが、今年韓国で公開されるや350万人を動員するヒット作となった。「千の顔を持つ男」と評される演技派俳優ムン・ソングンは、前大統領選で盧武鉉(ノ・ムヒョン)の応援活動を繰り広げて当選に大きな役割を果たしたが、そういう彼が実際の政治的志向とは異なる超保守派の判事になりきって、アン・ソンギ演じる主人公と火花が散るような法廷対決をしているのも見ものである。映画祭代表の前田秀一郎さんが司会をし、アン・ソンギが質問に答える形で行われたトーク・イベント「アン・ソンギ ナイト」では、「シナリオがとても良かったし、チョン監督と一緒に仕事がしたかったのでノー・ギャラで出演することに決めました」という発言に大きな拍手が沸き起こった。アン・ソンギを中心とした出演者たちの心意気のこもった作品でもある。


『折れた矢』
 原題 折れた矢/英題 Unbowed/韓国公開 2012年
 監督 チョン・ジヨン 主演 アン・ソンギ、パク・ウォンサン、ナ・ヨンヒ
 第26回福岡アジア映画祭2012オープニング特別上映作品
 映画祭公式サイト http://www2.gol.com/users/faff/faff.html


特集 第26回福岡アジア映画祭2012
 福岡アジア映画祭とは?
 Review 『折れた矢』
 Review 『ネバーエンディングストーリー』
 Review 『不気味な恋愛』
 Review 『ペースメーカー』
 Report アン・ソンギ ナイト


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