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Report 第23回釜山国際映画祭(3) ~哀れさと傷に寄り添うこと…『ヨンジュ』『呼吸』

Text by Kachi
2018/12/13掲載



 昨年、山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映された、アナーキーなグランドコアバンド、パムソム海賊団の活躍と落日を追った刺激的なドキュメンタリー『パムソム海賊団、ソウル・インフェルノ』の中で、一瞬シビアな空気が漂う。ドラマーのヨンマンが野外ライブのMCで「俺たちがなぜ親に顔向けできないのかといえば、稼いでいないからだ」と語るシーンだ。7月、文在寅大統領は新婚夫婦や若者世代の住宅難を解消するための対策を発表したが、8月の青年失業率は10%を超えた。映画に目を向けると、リアリズムこそ韓国映画の心髄とばかりに、シビアで酷薄な社会状況から目を逸らすことのない作品が相変わらず豊作だ。その中でも、予定調和を許さないながらも一筋の希望を抱かせる良作に出会えた。

 チャ・ソンドク監督の『ヨンジュ/Youngju』。ヨンジュは16歳の時に両親を交通事故で失い、2歳下の弟を支えながら生きてきた。叔父夫妻はヨンジュが生まれ育った家を売りに出そうとし、弟と激しいぶつかり合いになる。ある日、弟が友人たちと集団で窃盗事件を起こして補導され、多額の保釈金が必要になる。家のことで揉めた叔母からはすげなくされ、行き詰まったヨンジュは、両親を事故死させた男性の下を訪ねる。男性はすでに刑期を全うし、妻と小さな豆腐店を営んでいた。ヨンジュは自らの正体を明かせないまま、夫婦に雇ってもらう。

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『ヨンジュ』

 大学生の弟に、スーパーの倉庫で夜勤のヨンジュ。ふたりは決して裕福ではない。「生きていくために仕方がない」とはよく使われるセリフだが、韓国映画のそれは、選択肢としてのレベルが本当に深刻だ。ヨンジュが借金に奔走し、顔も見たくないはずの家族の下へ足を向けるシークエンスなど、そのヒリヒリするまでの心の在り様が胸に迫る。昨年の釜山国際映画祭上映作『最後の息子』同様、絶望の底まで沈む者が、もがくうちに正しくない手段を選んでしまう心情が、丁寧に書き込まれている。ティーンエイジという多感な時に、早く大人になることが必要だったヨンジュは、もうすぐ20歳を迎えるというが、実年齢よりずっと幼く見える。当初は復讐心を燃やしていたヨンジュだったが、ずっと恋しかった親の温もりに安堵していく。

 人はつらい時、自分が一番不幸だと錯覚してしまいがちだ。だがむしろ、人生に何の傷もない人間がいるだろうか。自分を不幸せにした誰かが実は何も手にしていないことを知って、憎しみの矛先が行き場を失った時、人間はどうあるべきなのだろう。

 クォン・マンギ監督『呼吸/Clean up』(KTH賞受賞)の主人公は、清掃会社で働きながら、酒とたばこにおぼれる日々を一人送る女性、チョンジュ。教会で祈りを捧げるが、心は一向におだやかにならない。ある日、出所者の社会復帰に力を入れる社長が新しく雇った青年ミングを見て、チョンジュはひどく狼狽える。かつて、身体が弱かった息子の手術代を捻出するため、チョンジュが夫と画策して誘拐した男の子だったからだ。身代金と引き替えにミングを解放したが、多額の金銭を捻出したミングの母親は、病気の治療を受けられずに亡くなり、父親は自殺。たった一人で生きていくため、ミングは盗品を売りさばいて逮捕されたのだ。そして、チョンジュの息子も手術の甲斐なく亡くなったのだった。ミングに負い目を感じるチョンジュは、さりげなく目をかける。自分を誘拐した犯人であることに気づかないミングは、いつしか彼女を慕うようになる。

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『呼吸』

 清掃会社はゴミ屋敷はもちろんのこと、不幸にも看取る者もなく亡くなった者の住まいや、凄惨な殺人現場の後始末をも引き受けている。実際に稼働している清掃会社が撮影協力した本作は、グロテスクなまでに現実に忠実なシーンがある。また、清掃現場の風景がそうであるように、家族を失って関係性の断絶の中で生きるチョンジュやミングも、たった一人で死んでいくかもしれない。『呼吸』の観客は、そうした生々しさにはりつめた気持ちで向き合うことになる。

 本作の英題『Clean up』は文字通り、“清掃”と“罪を洗い流すこと”のダブルミーニングになっている。しかし、罪悪感とは物質的な染みや垢ではない。こすって落とそう、なかったことにしてしまおうとすればするほどに、その後ろめたさがますます罪の所在を明確にしてしまうからだ。罪悪感とは、自身の心に刻みつけられたものなのである。

 自身に起きた身を切るような悲しみを、なかったことにして新しく生きることももちろん必要かもしれない。しかし本作が寄り添うのは、罪を犯した上に希望も見いだせなかった、あまりに哀れで、誰よりも孤独な人間たちだ。救済と贖罪は果たして実現しうるのか。『群盗』で弓の名手マヒャンを凜々しく演じていたユン・ジヘが、荒みきった中年女性を力演していた。


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第23回釜山国際映画祭
 期間:2018年10月4日(木)~10月13日(土)
 会場:釜山市内各所
 公式サイト http://www.biff.kr/


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