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Review 釜山国際映画祭で観た『それから』 ~世界で最も美しい女優に雪が降る

Text by Kachi
2018/6/6掲載



 一週間好天という天気予報にもかかわらず、釜山は朝から冷たい豪雨であった。若い観客がひしめく映画祭のチケットボックス前で、凍えながら2時間も並んだわけは、他でもない、ホン・サンス監督『それから』のチケットを手に入れるためだ。『正しい日 間違えた日』の撮影から始まったホン・サンスとキム・ミニの“不倫関係”が映画界隈を騒がせて2年が経つ。二人の関係が明るみになると、韓国の映画ポータルサイト「NAVER」の『正しい日 間違えた日』の口コミには、作品内容についてではない否定的意見が目立ち、ホン・サンス偏愛家としては現地の観客の反応が気がかりだった。筆者が辛くもチケットを入手したその後、完売を知ったときは安堵のため息が出た。

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 劇場に入ると、経験したことがないほど場内が暗く、少し戸惑う。辺りを見回すと、大きくて四角く、暗幕を張ったような黒い箱型の装置が、スクリーンがあるべき場所に出っ張っている。そこはサムスン電子が開発した話題の「SUPER S」のシアターだったのである。「SUPER S」は電源が切られたテレビのような見た目だが、上映時には内蔵されたLEDで画面そのものが発光する。そのため、従来のスクリーンに投映する上映方法より、一層明るくメリハリのきいた映像が楽しめるという。つまり、映画館の心臓たる映写機が不要なのだ。日本で『新感染 ファイナル・エクスプレス』が上映された3面スクリーン上映「ScreenX」のような、エンターテイメントとしての飛び抜けた効果があるわけではないが、日本で導入されれば、映画館にまたひとつ、アトラクションとしての役割が加わることになるだろう。

 だが正直、モノクロ映画の『それから』では、「SUPER S」の効果がわからなかった。冒頭に出る、ワールドセールスを担う配給会社「FINECUT」のロゴの青色が非常にきれいに見えたので、カラー作品だったら実感できたのかもしれない。と同時に、デジタルシネマの最先端な上映スタイルとホン・サンス作品とが、どうも頭の中でかみあわない。ホン・サンス作品に指摘されるミニマムさと、こうした装置で上映される大がかりなエンタメ映画とは、そもそもの表現という面で目指すものが異なっているように思う。余談だが、韓国映像資料院の公式インスタグラムによれば、資料院に提出された最後の35mmフィルム作品は、ホン・サンスの2013年公開作『ヘウォンの恋愛日記』だそうだ。

 さて映画の話。

 出版社を経営する文学評論家ポンワン(クォン・ヘヒョ)は、妻に浮気を疑われてはぐらかす。実は社員のチャンスク(キム・セビョク)と逢い引きを重ねていたのだが、関係に苦しんだ彼女から別れを切り出されていた。代わりに、作家を目指すアルム(キム・ミニ)が出版社で働くことになる。彼女の初出勤の日、職場に乗り込んできた妻は、アルムを浮気相手だと勘違いし、激しく責め立てる…。

 ホン・サンスといえば同じ出来事の反復と差異が指摘されるが、『自由が丘で』以降はやや変奏し、並べられたシークエンスが時系列でなかったり、物語の始点と終点が曖昧であったり、直線ではない時間の組み合わせで単純な出来事がどう見えるかに面白みを発見している。観念的な会話を展開しつつも物語の分かりやすさが大事にされ、男女のもつれた関係を綴る作劇の筆は相変わらず冴えている。何しろ、妻になじられて横っ面を張られるアルムの役を、現実に監督とただならぬ仲のキム・ミニが演じているのだ。ホン・サンスとキム・ミニの“インモラル”な恋愛から生まれた、『それから』や『夜の浜辺でひとり』といった作品の中で交わされる男女の睦言と悶着が、インモラルを楽しむホン・サンスの剛胆さとキム・ミニの度量の広さのたまものとすれば、二人の危険な関係はもはや感動的ですらある。ひょっとすると一連の作品群は、映画の名を借りた、愛の覚悟宣言なのかもしれない。

 過去作『次の朝は他人』は、撮影地の北村に降る雪があまりに美しかったから色が除かれたというが、『それから』も同じく「そのほうが美しいから」という理由に違いない。アルムがタクシーに乗ると、窓に雪がちらつき始め、彼女の顔が、無垢な真珠のように輝くシーンは、「SUPER S」というテクノロジーの存在がかすんでしまう。映画とは何が映り、何が語られているかが一番大事なのだ。こんなに美しいカット、映画が、この世界にあるのだろうか。そういえば『正しい日 間違えた日』も、ラストで雪が降っていた。


『それから』
 原題 그 후 英題 The Day After 韓国公開 2017年
 監督 ホン・サンス 出演 クォン・ヘヒョ、キム・ミニ、キム・セビョク、チョ・ユニ
 2018年6月9日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
 公式サイト http://crest-inter.co.jp/sorekara/


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