Review 『犯罪都市』 ~実録・鉄拳刑事マ・ドンソク
Text by Kachi
2018/5/6掲載
マ・ドンソクの顔が広く認知されたのは、筆者の記憶が正しければユン・ジョンビン監督『悪いやつら』だった。チェ・ミンシクとハ・ジョンウという、華も実もアクもある名優が対を張りながらも、本作からはキム・ソンギュン、チョ・ジヌンといった、今や押しも押されもせぬ「これぞ韓国の漢」というべき味わい深い面構えの俳優が輩出された。マ・ドンソクは、チェ・ミンシク演じるイクヒョンの妹婿で、武術の有段者だがイマイチ抜けてるソバンに扮し、精彩を放った。

ボディビルディングで鍛え抜かれた体に、低音のイイ声。それに似合わぬ愛らしい笑顔(「マブリー」という造語があるほど)。アメリカへの移民であるため実は英語が堪能というインテリぶりは、韓国映画の通たちを速攻でイチコロにした。きわめつけは日本でのヒットも記憶に新しい『新感染 ファイナル・エクスプレス』での大活躍である。妻と生まれてくる娘への愛を叫びながらゾンビ化していく最期に、どれほどの観客が涙を搾り取られたことだろう。こうしてマ・ドンソクの顔は一躍知れ渡ることとなった。
そんな彼が、凶悪犯を取り扱う強力班のデカを演じたのが、『犯罪都市』である。この映画は、かねてから中国系韓国人が定着していたソウルの衿川区(クムチョンく)で、2004年に行なわれた犯罪集団一掃作戦をベースにしている。衿川区加里峰洞(カリボンドン)のチャイナタウンでは、朝鮮族の毒蛇組と黒竜組とがシノギを削り、互いのナワバリを荒らしては報復を繰り返していた。地元の警察マ・ソクト(マ・ドンソク)はゴロツキを拳で牽制していたが、ある日の流血沙汰を境に、街は一層殺伐とした雰囲気に包まれる。ソクトは毒蛇組のリーダーでハルビン出身のチャン・チェン(ユン・ゲサン)が裏で動いていることを知り、組の一斉検挙へ乗り出す。
今作がキャリア初の長編劇映画であるカン・ユンソン監督は、「アジア映画のワルの溜まり場」でお馴染みなビリヤード場を抗争の現場にするなどつかみは上々だ。実話を元にしたハードボイルドな空気感もよい。そこかしこにオフビートな笑いを仕込んでいるのも、映画としての完成度を高めている。
たとえ相手がドスやチャカでかかって来ても、ソクトはビンタで解決。やはりマ・ドンソクには鉄拳が似合う。少しタメを作ってから相手の横っ面に繰り出される張り手は、腕の振りも力強い。こうしたキャラクターをマ・ドンソクが演じたというだけで、すでに本作の面白さとリアリティは約束されたようなものだ。一方でソクトは班長と部下の間に立ち、双方の不満に挟まれる、いわば中間管理職的なツライ役回りでもある。合コン参加に余念がない独り身で、美女にコロリとなびくだらしなさも、酔いつぶれて捜査に遅刻するドジっぷりも憎めない。危険な強力班での仕事に悩む後輩を優しく諭す、兄貴肌な素顔にも惚れる。傷を生身と心に刻みながら生きてきたからこそ、強く優しいハートの漢になるのだと、ソクトは教えてくれる。
韓国では5月1日、彼が腕相撲のキングを演じる異色スポーツ・コメディ『チャンピオン』が公開された。これまで助演で光るマ・ドンソクだったが、最近は以前に増して主演作が増えてきた。また『犯罪都市』は、続編製作の企画が持ち上がっているそうだ。「実録・鉄拳刑事マ・ドンソク」として、ぜひシリーズ化して欲しいところである。
『犯罪都市』
原題 범죄도시 英題 THE OUTLAWS 韓国公開 2017年
監督 カン・ユンソン 出演 マ・ドンソク、ユン・ゲサン
2018年4月28日(土)より、シネマート新宿ほか全国ロードショー
公式サイト http://www.finefilms.co.jp/outlaws/
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