Review 『グッバイ・シングル』 ~笑いのちホロリ。王道コメディ
Text by Kachi
2018/4/8掲載
去年、釜山の旅館でテレビを点けると、「同床異夢シーズン2-君は僕の運命」というバラエティが放映されていた。実際の芸能人夫婦の生活を撮影し、VTRを見たスタジオのタレントたちがツッコミを入れる番組で、その日はサッカー選手の鄭大世と奥さんとのやり取りで笑いを誘っていた。韓国には以前、芸能人同士が仮想結婚をする「私たち結婚しました」という人気番組があったが、夫婦バラエティは今も健在なようである。

『グッバイ・シングル』の主人公ジュヨン(キム・ヘス)は、抜群のプロポーションを誇るわがままな人気女優。しかし、寄る年波には勝てない現実に直面しつつある。ドラマでは脇役に甘んじ、おまけに年下の彼氏ジフン(クァク・シヤン)は女子大生と浮気する始末。男と仕事に失望した彼女は「永遠に私を裏切らない存在がほしい」と言い出し、何とか出産しようと奔走。マネージャーのピョング(マ・ドンソク)たちを振り回す。同じ頃、女子中学生タンジ(キム・ヒョンス)は、予期せぬ妊娠に頭を抱えていた。この二人の偶然の出会いをきっかけに、タンジが赤ちゃんを産み、ジュヨンが育てるという計画が決行されることになる。しかしジュヨンの思いつきが、まさかの大騒動に発展する…。
韓国統計庁が先月21日に発表した「2017年婚姻・離婚統計」によると、昨年の韓国の婚姻件数は26万4,500件で、前年より6.1%(1万7,200件)減少し、1974年(25万9,600件)以来の低水準となった。また「2017年出生死亡統計暫定結果」によれば、昨年生まれた子どもは初めて40万人以下に下落し、合計特殊出生率(一人の女性が、出産可能とされる15歳から49歳までに産む子供の数の平均)は歴代最低値である1.05人を記録した。かくゆう筆者も独り者。結婚、そして出産にそっぽを向く我々に身を固めよとソフトに促すには、テレビ番組や、本作のようなコメディ映画も、一役買うのだろう。
しかし、確かに社会事情を感じさせはするものの、『グッバイ・シングル』は肩に力の入っていない作りで、好感が持てる。互いに気が強いせいで反発しあっていたジュヨンとタンジが、次第に年の差を超えた絆を結んでいくさまにグッとくるし、仕事も料理も何でもござれなピョングを演じたマ・ドンソクのエプロン姿にも和む。またストーリーに「人生は結婚や出産だけがゴールではなく、それですべてが上手くいくほど人生はイージーでもない」という、“おひとりさま”の生き方を肯定してくれるメッセージが込められているのにも、唸らせられる。笑い、時にホロリとする王道コメディが、また韓国映画界から誕生した。
『グッバイ・シングル』
原題 굿바이 싱글 英題 Familyhood 韓国公開 2016年
監督 キム・テゴン 出演 キム・ヘス、マ・ドンソク、キム・ヒョンス
2018年4月7日(土)より、シネマート新宿ほか全国順次公開
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