Review 『ザ・キング』 ~歴史の暗躍者たち、その悪の年代記
Text by Kachi
2018/3/12掲載
韓国映画の公権力は、どんな描かれ方をしているだろうか。もちろん例外はいくつもあるが、『殺人の追憶』や『チェイサー』を想像すると、彼らは捜査について無能で、ねつ造については奸計に長け、暴力についてはことさら執念深い。そして最終的に、その無能で狡い警察を始末した検察が世間で幅をきかせる。たとえば『生き残るための3つの取引』ではリュ・スンボム扮するチュ検事が、世を正した時代の寵児としてまつりあげられ、『悪いやつら』では盧泰愚政権によるヤクザ一掃の立役者として、チョ検事(クァク・トウォン)は出世の道を歩むことになった。だから『ザ・キング』が、韓国の検察組織が主題だと知ったとき、悪の親玉である検察が主役の映画が、今まで無かったことに意外であった。

パク・テス(チョ・インソン)は、喧嘩に明け暮れる日々だったが、家で威張り散らす父親が検事に平身低頭するのを見て、「悪を制するのは検察のような権力者だ」と確信し、猛勉強の末、地方検事になる。ある時、女生徒の性的暴行事件を担当したテスだったが、先輩検事から出世をエサにもみ消しを持ちかけられ、不承不承に従ってしまう。それをきっかけに、ソウル中央地検に引き抜かれたテスは、“キング”と呼ばれ権勢をふるい、政界の動きまでほしいままにする部長検事ハン・ガンシク(チョン・ウソン)の片腕としてのし上がっていく。
この映画は悪童として鳴らしたパク・テスの立身出世譚として始まり、汚職検察の仲間入りを果たして栄耀栄華を極めるピカレスク映画として展開していく。一方、全斗煥政権による圧政と民主化運動、ソウル五輪開催、経済発展の後のIMF通貨危機など、1980年から2010年までの激動の韓国史を分かりやすくなぞりながら、裏で政治を操った検事の“秘密の仕事”が描かれている。チョン・ウソン×チョ・インソンというダブル主演に加え、コバンザメ的部下のヤン検事にペ・ソンウ、妹夫婦にチョン・ウンチェとパク・ジョンミンなど、花も実もある脇役が揃っている。
ハン・ジェリム監督の作品は多彩なので、まとめて特徴を挙げるのは難しいが、ひとつ言えるのは、異なるジャンルのストーリーが、破綻なく一作品の中に融合されていることだ。ソン・ガンホとチョ・ジョンソクのコメディで進んでいたはずが、次第に血なまぐさい朝廷の権力争いに巻き込まれた後、世情の無慈悲さに包まれるラストに至る『観相師 ―かんそうし―』が、特に記憶に新い。『ザ・キング』も、中盤まではチョ・インソンとチョン・ウソン、ペ・ソンウの白昼夢のように繰り返されるダンス・シーンが強烈なコメディ映画だったのが、その後のストーリーが予想外に深い方向へ走っていくのでまんまと裏切られた。盧武鉉大統領以来の革新政権が誕生した今の時代に本作が作られたことに、大きな意義を感じた。
『ザ・キング』
原題 더 킹 英題 The King 韓国公開 2017年
監督 ハン・ジェリム 出演 チョ・インソン、チョン・ウソン、ペ・ソンウ、キム・アジュン、リュ・ジュンヨル
2018年3月10日(土)より、シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
公式サイト http://theking.jp/
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