Review 『エターナル』 ~悲しきキロギアッパを描くだけで終わらないミステリーの秀作
Text by Kachi
2018/3/3掲載
証券マンや投資会社社員を主人公にした作品が、韓国映画で特に目につく。そして『新感染 ファイナル・エクスプレス』でコン・ユ演じる父親もそうであったように、仕事熱心だが冷徹な人格で、家族と心がすれ違い、やがて投資先に大きな問題が起きて多くの被害者を出すなど、悪役とは言えないまでも社会を揺るがす因子として描かれることが多い。金融商品という「目に見えないもの」を売る現代ホワイトカラーの罪と憂鬱と言えるジャンルが出来つつあるようだ。

『エターナル』の主人公、カン・ジェフン(イ・ビョンホン)も証券マンである。息子を妻とともにオーストラリアに留学させ、自身は支店長として辣腕を振るっていた。しかし、多額の不良債権によって顧客から糾弾され、苦しい立場に置かれてしまう。ジェフンはすべてを捨て家族に会いに向かうが、待っていたのは、活き活きと暮らす妻スジン(コン・ヒョジン)と、その傍らに睦まじそうにいる子持ち男性。心がつぶされそうになるジェフンだったが、彼には帰れない理由があった…。
母親同伴で子供を海外留学させ、自身は国内で独り暮らしをしつつ仕送りに励む父親を、韓国では渡り鳥のガンになぞらえて「キロギアッパ」と言う。『エターナル』はそんな父親の哀愁映画だと分かって臨んだが、平凡に感じられるほどの静かな情景の向こう側に、もう一つの世界を隠していた。何度も見返して味わえる優れたミステリー映画に仕上がっているのは、編集の技によるものである。作品の真相に関わるある出来事のシーンを、カットを割らずにすべて観客に提示しているのに、まるで何も起きていないように見えるため、気持ちよく欺かれてしまう。エンドクレジットにパク・チャヌク映画の編集でお馴染みのキム・サンボムとキム・ジェボムの名前があり、二人の魔術的手腕に改めて唸らされた。
イ・ビョンホンが、キロギアッパの枯れ切った悲壮さを上手く醸し、存在感のないジェフンを演じきっている。さらに言及すべきは、妻役のコン・ヒョジンである。笑顔、涙、どれをとっても芝居に見えないほど自然なのは、わずかな仕草さえもゆるがせにしないからだ。妻が彼女でなければ、『エターナル』はまた違った映画になっていただろう。TVドラマへの出演が多いコン・ヒョジンだが、映画でももっと姿を見せて欲しいものだと、つくづく感じさせられた。
『エターナル』
原題 싱글라이더 英題 A single rider 韓国公開 2017年
監督 イ・ジュヨン 出演 イ・ビョンホン、コン・ヒョジン、アン・ソヒ
2018年2月16日(金)より、TOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー
公式サイト http://hark3.com/eternal/
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