Review 『悪女/AKUJO』 ~肉と骨が砕けようとも激情で戦う復讐の女
Text by Kachi
2018/2/8掲載
幼い頃、何者かに父を殺されたスッキ(キム・オクビン)は、延辺マフィアの若頭ジュンサン(シン・ハギュン)に拾われ、殺人マシンとなるべく教育された。やがてスッキとジュンサンは愛しあう仲になったが、彼は敵対する組織との争いで命を落としてしまう。たった一人復讐に乗り込んだスッキは、国家情報院に逮捕されると、その腕を国家の極秘任務に利用されることになる。女性ばかりの刺客養成所で優秀な成績をおさめ、彼女は解放されるが、次々と情報院からの危険な命令が下る。「おじさん」と呼んで愛したジュンサンの忘れ形見、愛娘ウネとの平穏な日々へあこがれを抱きながら、スッキは今日も標的に引き金を引く。

チョン・ビョンギル監督の前作『殺人の告白』は、ポン・ジュノの『殺人の追憶』同様、華城連続女性殺人事件を端緒にしつつも、むやみに力の入ったアクション・シーンで、結果的にはほとんど異なるジャンルの映画になってしまっていた。しかし監督が一番やりたかったのは、謎解きよりも、爆走する車のボンネット上での取っ組みあいという、誰も見たことがないカーチェイスだったはずだ。『悪女/AKUJO』では、監督の脳内メーターが徹頭徹尾最大値のままである。オートバイにまたがりハイスピードで走行しながらのチャンバラ。敵が運転するバスに、これまた走る車から手斧ひとつで飛び乗るカチコミ・シーン。そうまでする必然性がどこにあるのか? しかし、この容赦ない過剰さが、実に清々しく、胸を熱くさせる。
『悪女/AKUJO』から読み取れるのは「映画のアクションとは技の華麗さを誇示すること以上に必死に立ち回ることが真髄である」ということだ。日本の観客へのメッセージを求められ、監督は「(この映画は)スタントマンの血と汗と人体と骨でできている」と語った。その言葉は、アクション映画の本質を言い表すものでもある。
オール主観ショットによるアクション・シーンが、オープニングから激しく展開される。確かに映像は洗練されている。顔の写るシーンはすべてスタントを使わずにやり遂げたキム・オクビンの胆力にも敬服である。しかし、それ以上に感動させられるのは、撮りもらされることのないスッキの荒い息づかいと、苦闘にうなる声といった、血も涙もないはずの殺戮者の肉体的反応である。スッキは感情の強い暗殺者だ。その濁流のような激情が一挙手一投足にみなぎるからこそ、観客は圧倒される。肉、骨、時には臓物にさえも刃が達しようとも戦う“悪女”は、しぶとくも涙に濡れた心臓で、銃を握りしめているのである。
『悪女/AKUJO』
原題 악녀 英題 The Villainess 韓国公開 2017年
監督 チョン・ビョンギル 出演 キム・オクビン、シン・ハギュン、ソンジュン、キム・ソヒョン、チョ・ウンジ
2018年2月10日(土)より、角川シネマ新宿ほかロードショー
公式サイト http://akujo-movie.jp/
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