Review 『ロス暴動の真実―コリアタウンはなぜ襲われたか―』
Text by Kachi
2012/8/26掲載
今年6月、ある歴史的な重要人物の訃報が伝えられた。ロドニー・キング。1992年に起こったロス暴動の引き金とされる「ロドニー・キング事件」の被害者その人である。しかし、ロス暴動の悲劇には隠された主役が存在した。当時増え始めていた韓国系アメリカ人である。「人種のるつぼ」と形容されるほど多様な人種を抱えていたロサンゼルスで、なぜ敵意は韓国系アメリカ人へ向けられたのか。この土地でくすぶり続けてきた火種を一気に燃え上がらせた葛藤とは…。

本作は、移民が海外で「一時の客人」ではなく、その国の人間として生きていくことの難しさを浮き上がらせる。お互いを理解すれば全てが解決する、という楽観主義では埋められない隔たり。ロス暴動とは、移民と彼らを受け入れる側とがよりよく生きていくための死闘だったのだ。
そして、これは過ぎ去った20世紀の事件ではなく、国際化の進む今だからこそ振り返るべき出来事だ。去年7月、ノルウェーで移民政策への不満から極右思想を持つ青年が多くの命を奪った事件は記憶に新しい。悲痛な歴史を振り返る中で、作品は「異なる人間同士が平和な関係を築くには」という普遍的な命題へ行き着く。今も民族間の葛藤を抱える国々はもちろん、「移民問題とは無縁」と思われがちな日本でも、多くの人に見られるべきドキュメンタリーだ。
『ロス暴動の真実―コリアタウンはなぜ襲われたか―』
アメリカ映画/原題 Clash of Colors/2008年
監督 デビット・キム ドキュメンタリー
2012年9月1日(土)、Theater Cafe(名古屋市大須)にて上映。ノンフィクション作家・高賛侑氏のトークあり。
Theater Cafe 公式サイト http://www.theatercafe.jp/
Reviewer's Profile
Kachi。1984年、東京生まれ。図書館勤務。イ・チャンドン監督の『オアシス』で韓国映画に目覚めました。
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