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Review 『密偵』 ~闇の時代、ソン・ガンホの顔

Text by Kachi
2017/12/11掲載



 「時代を演じる顔」と呼ぶべき俳優は、この世に何人存在するだろうか。私は、今のところソン・ガンホという役者以外を想像することができない。たとえば『殺人の追憶』では、軍事政権下の重苦しさといった荒涼とした時代を、あるいは『観相師 ―かんそうし―』では、朝廷の権力争いの無慈悲さを、その面貌だけで存分に感じさせてくれた。ここに『王の運命(さだめ) ―歴史を変えた八日間―』『弁護人』を加えると、ソン・ガンホ映画の一つの特徴が見えてくる。主人公は皆、歴史の悲劇をなんとか回避しようと闘う人物であることだ。映画の中であっても事実は変わらないわけだが、その闘いが決して実を結ばないことを分かっていてもなお、ソン・ガンホの「歴史の立会人」を忘れることができない。

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 イ・ジョンチュル(ソン・ガンホ)は、朝鮮総督府警務局部長ヒガシ(鶴見辰吾)の命を受けながら、大韓民国独立を目指す運動家たちの過激な破壊活動を取り締まっていた。次の標的を義烈団のリーダー、チョン・チェサン(イ・ビョンホン)に定め、まず主要構成員のキム・ウジン(コン・ユ)を取り込もうと目論んでいた。一方の義烈団側も警察の動きを察知しており、民族感情を武器にジョンチョルを懐柔しようとする。

 韓国映画の「日帝時代」というジャンルは、ここ最近変化の兆しを見せている。『暗殺』は独立を目指した者たちの挫折と信念のドラマでもあり、『空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~』は、詩作と革命に命を燃やした若者たちの青春劇でもあった。分かりやすく反日的であるよりも、人物像が多様で、抵抗運動を通じて「人間の正しさ」に邁進し、倒れていった彼らへのシンパシーを抱かせることで、あの時代が如何に残忍であったかを痛感させる作りになっている。『密偵』はさらに、民族の強い結束を維持しながらも、目的を果たすために、失敗した者を容赦なく切り捨て、裏では仲間を欺くといった独立運動の負の側面や弱みにも踏み込み、人間的な悲劇として描き出すことに成功している。

 独立運動家を取り逃がした(ふりをした)ジョンチュルに、ヒガシは「君が朝鮮人に生まれたのは仕方がない。忘れてやろう」と言い放つ。「名誉日本人」の称号を獲得しなければ犬にも劣るという、悲壮な背景を持つ登場人物である。重厚なイメージのジョンチュルだが、芯のところで感情的に弱く、義烈団のリーダー、チョン・チェサンのようにカリスマティックに団員を導いていくことも、キム・ウジンのように自らの正義を強く信じることも叶わない(だからこそ、ウジンたちはジョンチュルを懐柔しようとしたのだろう)。同じ警察組織の人間で、ライバルのハシモト(オム・テグ)のように、任務の名のもとで冷酷に立ち回ることも結局はできなかった。映画の冒頭、独立運動家が盗品の仏像を売却しようとする現場にジョンチュルは駆けつけ、生かして捕らえるつもりが、追いつめられた相手は自害する。ジョンチュルは、民族の英雄にも裏切り者にもなれない人物である。しかし、実際かの時代に思想を抱いて生きた者がどのくらいいただろうか。ジョンチュルの脆さこそ、混乱をひたすら生き抜こうともがいた人間の、普遍的惑いであるに違いない。

 なぜこの時代に、なぜこの国に生まれたのか。血とともに朝鮮半島に染み込んだ屈辱と抵抗の歴史に思いを馳せれば、苦悩や煩悶と名付けてしまうにはあまりに深い問いかけである。『観相師 ―かんそうし―』でソン・ガンホ演じる観相家ネギョンが、息子を失い、自らもぼろ切れのようになった後で、「現し世(うつしよ)に何が見えるのか」と問われるが、未来を占うことができたはずの彼が何も答えられない。『密偵』ラストのジョンチュルの顔は、それと似ている。しかし虚無的なラストがなおも観客の胸を打つのは、悲劇を変えようともがいた多くの誰かを、ソン・ガンホの顔にははっきりと見出せるからなのだ。『密偵』を見終わった後に心に残るのは、やはりソン・ガンホの顔だった。


『密偵』
 原題 밀정 英題 The Age of Shadows 韓国公開 2016年
 監督 キム・ジウン 出演 ソン・ガンホ、コン・ユ、ハン・ジミン、オム・テグ、シン・ソンノク、鶴見辰吾、イ・ビョンホン
 2017年11月11日(土)より、シネマート新宿ほか全国ロードショー
 公式サイト http://mittei.ayapro.ne.jp/


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