Report 福岡インディペンデント映画祭(FIDFF)2017 ~日本人監督が釜山で撮った『憧れ』を日本初上映
Text by 井上康子
写真提供:福岡インディペンデント映画祭事務局
2017/10/15掲載
映像作家の育成と交流を目的にした福岡インディペンデント映画祭2017(以下、FIDFF)が、9月7日~10日に福岡市内で開催された。例年のコンペを今年は一休みし、昨年のグランプリ受賞作『アレルギー』(ヒョン・スルウ監督)を始めとするこれまでの受賞作品・招待作品等68作品が上映された。筆者が特に注目していたのはユネスコ釜山インターシティ映画祭(英語表記では"Busan Inter City Film Festival" 以下、BICFF)主催のレジデンス制作プログラムにより福岡在住の神保慶政監督が撮った『憧れ』で、日本人監督が韓国人スタッフ・キャストにより、台詞はすべて韓国語で制作した、日韓交流の申し子のような作品だ。例年通り釜山独立映画祭(以下、IFFB)受賞作品も上映された。また、アニメ有志作家による「アニメーション・パレット SELECT & PLUS」ではキム・ハケン監督『Jungle Taxi』が上映された。

『憧れ』
多様なものとの交わりを見せる、釜山で撮られた『憧れ』
BICFFはIFFBのインターシティ部門から独立した映画祭で、釜山市が2014年にユネスコの映画創意都市に選ばれたこともあり、映画創意都市や海外映画祭との交流によるネットワーク活性化を目的にしている。今年5月に初めて開催されたBICFFでは昨年のFIDFFの優秀作品が上映された。監督(脚本も)はFIDFFの推薦によりBICFFのレジデンス制作プログラムの参加者に選ばれ、「inter-city」をテーマに、3週間釜山に滞在して本短編を作り上げた。主人公ミナは釜山に住むライターで、出産前の最後の仕事に、釜山の人々の生まれて初めての記憶を書き残そうとする。インタビューのために、釜山の街を縦横して、出会った人々の記憶を手繰り寄せていく。そして、ある老女との出会いにより、出産への不安を希望へと転じていく。空間を縦横し、出会った人々の過去と希望を込めた未来の時間も共有していく。「inter-city」の究極の目的は多様なものとの交わりと考えると、まさにテーマに即した作品だった。監督は第一子の出生を経験し、妊娠・出産にまつわる女性の不安の大きさを実感したことから企画したそうだが、女性同士の連帯を通して女性の強さも描いている。
IFFB2016グランプリ作品『試験のあとに』上映
FIDFFはIFFBと交流があり、例年、相互に優秀作品を上映してきた。今年はFIDFF2016で『ランニング・フォトズ』(IFFB2015)が上映されたキム・ナヨン監督の『試験のあとに』がIFFB2016でグランプリを得たことを記念し、両作品が上映された。『ランニング・フォトズ』は名作映画の走る場面を編集した作品だったが、『試験のあとに』は監督が脚本も書き、親友同士の二人の女性を登場させた作品。主人公は高校時代には試験後に友人宅で点が取れなかったことをぼやく。そして現代は会社を辞めた後、もやもやした気持ちのまま友人宅で好きな映画を見ている。ふと眠り込んだ主人公は友人と過ごした高校時代と好きな映画の世界に入り込んでいく。主人公が登場人物に共感し涙する映画は侯孝賢監督作『恋恋風塵』だ。夢と現実、現代と過去が交錯するが、非現実的な夢想はなく、社会の中で感じるつらさや不安が不思議な感覚となって迫ってくる。
FIDFFは来年、記念すべき10回目を迎える。今年はコンペがないことがいささか寂しかったが、来年はコンペも開催されるとのことである。BICFFとの交流の今後も楽しみだ。
第9回福岡インディペンデント映画祭2017
期間:2017年9月7日(木)~9月10日(日)
会場:福岡アジア美術館
公式サイト http://www.fidff.com/
Writer's Note
井上康子。ファンであるカズオ・イシグロ氏がノーベル賞作家になった。彼の『わたしを離さないで』は何度も号泣しながら読んだ。同じように「人とは何か」を問うた、映画『ブレードランナー』は運命を切り開こうとするが、『わたしを離さないで』は運命を受容し、静謐で余りにも悲しい。
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