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Report & Interview 『新感染 ファイナル・エクスプレス』ヨン・サンホ監督 ~家族を描くことで社会やそれに対比するものも同時に描くことができる

Text by 加藤知恵
Photo by Kachi
2017/8/23掲載



 昨年夏に韓国で1,000万人以上の動員を記録し、カンヌ国際映画祭でも大反響を得た『新感染 ファイナル・エクスプレス』が9月1日、ついに日本で公開される。それに先立ち8月17日に一般観客を対象にした試写会が行われ、ヨン・サンホ監督も来日してトークイベントを行った。

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ヨン・サンホ監督

 開場時間の随分前から受付前に列を作り、笑顔を浮かべながら今作への期待感を露わにしていた観客たち。しかし上映が始まると一転、完璧に演出・統制されたゾンビたちのすさまじい動きや大規模なアクション・急展開の連続に体をのけぞらせて怯える人々が続出。中盤以降は笑い声や泣き声、鼻をすする音も客席の至る所から聞こえ、エンディングが流れる頃には自然と拍手が沸き起こっていた。

 物語の主人公は、別居中の妻に会わせるため、ソウルから釜山まで娘を連れていくことになったファンドマネージャーのソグ(コン・ユ)。娘スアン(キム・スアン)と共に早朝のKTX(高速鉄道)に乗り込むが、同じ列車に駆け込んできた一人の感染者(シム・ウンギョン)によって乗客が次々とゾンビに豹変し、無差別に他の人間を襲っていく。そんな状況下で露呈される様々な人間の本性。ある者は他人を犠牲にしても自分だけが助かろうとあがき、ある者は自分の命をなげうって大事な存在を守ろうとする。『哭声/コクソン』の振付師が動きを演出したというゾンビ集団の迫力もさることながら、極限状態を舞台に描かれる人間ドラマが実に巧妙で面白い。最も頼もしくユーモラスなキャラクターのサンファ(マ・ドンソク)や彼の妊娠中の妻ソンギョン(チョン・ユミ)、悪役ながら終始重要なポジションを担うヨンソク(キム・イソン)など、他の登場人物の個性も際立っていてストーリーの厚みを増している。

 終映直後、聞き手の宇野維正氏が「実はこの作品は監督の実写初監督作品なんです。なのにとてつもないクオリティですよね」と紹介すると、客席からはどよめきが起こった。主演のコン・ユは、シナリオを渡し、直接会って別れた20分後には「やります」と電話をかけてきたとのこと。そのようなキャスティング秘話に加え、「劇中に登場する大きな駅は昼間、人通りが多いため、田舎の駅で撮影を行ってあとはCGで合成した」など、撮影秘話も語ってくれた。その他に興味深かったのは、「ソウル(北)から釜山(南)に逃げていくという設定は、北朝鮮軍の侵略に対する恐怖も込められているのではないか?」という質問だ。これに対して監督は「今はミサイルを使っても攻撃できるので、必ずしも北から南に攻めてくるとは限らない。直接北朝鮮と関係があるとは言えないが、朝鮮戦争時の避難列車で実際に起きたエピソードはストーリーの参考にした」と答えていた。

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(左)宇野維正氏、(右)監督

 監督にとって今作が実写デビュー作ではあるものの、彼は『地獄』『愛はタンパク質』などの短編や、『豚の王』『我は神なり(原題 サイビ/英題 フェイク)』といった長編でも知られるアニメーション監督でもある。今回『新感染』の公開にあわせ、前日譚である『ソウル・ステーション パンデミック』(9月30日)と『我は神なり』(10月21日)も既に劇場公開が決まっている。今後の活動についての質問には「韓国のアニメーション産業は非常に小さい。当分はアニメーション製作に戻るのが難しい状況ではあるが、良い機会があればまた作るつもりです」と語った監督。「花開くコリア・アニメーション」のスタッフでもある筆者としては、今後のアニメーション製作にも期待が高まるばかりだ。

 試写会の翌日、更に詳しく今作や次回作について直接インタビューする機会を得た。

── 『新感染』はソグとスアンという父と娘を中心とした映画でもあります。前作『我は神なり』もそうですし、先日クランクアップされた『念力』も父と娘の物語との情報がありますが、こうした作風の流れには意図があるのでしょうか。報道資料には「元々、父と息子の物語を書きたかった」とあったので、娘に変更された理由も気になりました。
 また、監督のアニメーション作品は、ショッキングな結末が印象的で無慈悲なストーリーというイメージがあります。『新感染』では父と娘の関係以外にも家族愛の要素が感じられましたが、それは実写映画だからという理由もあるのでしょうか?

確かに最初の設定では息子でした。それはこの映画のモチーフにしていたコーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』という小説が、父と息子の話だったからです。私が思うにその小説で父と息子を主人公にした理由は、「終末」という巨大なテーマを扱う中で、世代論と言いますか、つまり次の世代に何を残すべきかということを描きたかったからだと思います。『新感染』も同様に、そのような話を描く上で当初は父と息子の物語にしました。しかしその後の製作中に短編映画祭の審査員を務めたのですが、そこでキム・スアンが出演している作品を見たんですね。彼女は女の子ですが、僕の求めていたイメージに非常に近いと感じました。それから息子役のオーディションを何度も重ねましたが、彼女のことが忘れられず、結局会うことにしました。その場では彼女に簡単な感情だけを説明して「アロハ・オエ」の歌を歌ってもらいましたが、それを聴いて僕がイメージしていた最後のシーンにぴったりだと思いました。最初は彼女に男の子の格好をさせて演じてもらうことも考えましたが、それはさすがに失礼だと思い、設定を息子から娘に変えました。結果的にそこがこの作品の軸になったわけです。

また、『我は神なり』をはじめ『豚の王』や『ソウル・ステーション』など、僕の作品の多くが家族をモチーフにしています。家族といっても色んな形態があり、そこから生まれる様々な感情を作品に込めるのが好きなんですね。温かい家族もあれば、冷たい家族もあり、お互いに憎みあっているような家族もあります。僕は人間が経験しうる最小限の社会が家族であり、家族を描くことで社会やそれに対比するものも同時に描くことができるという意味で非常に良い素材だと思っています。『我は神なり』では暴君のような父親と対比させる存在として、娘はどうかと思いました。『新感染』はより商業的で予算も大きな作品ということもありましたし、関連作である『ソウル・ステーション』でホームレスや家出をした少年・少女の話を描いていて、家のない人々や父親を捜し求める主人公という設定が重要な要素でもあったので、『ソウル・ステーション』と対比させるためにも『新感染』はあのような家族の話になりました。

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── 過去のゾンビ映画については、ゾンビがもたらす予測不能の災難や不条理さ、極限状態における人間の業の深さというものが社会情勢を象徴しているという見方もされています。ただゾンビを描くのが目的であれば、もっと気持ち悪くグロテスクに描くこともできたと思うのですが、その点には表現に節制が効いていて、人間ドラマに重点が置かれているように感じました。今回監督がゾンビを素材に選んだ理由と、ゾンビを通して描きたかったものは何なのかを教えて下さい。

まず『新感染』の舞台となるKTXには、普通の人々がたくさん乗っています。ソグやヨンソクのように、平凡な人々が善人にも悪人にも変化しうるということを伝えるのが重要だと考えました。それにこの作品は、先ほど申し上げたような世代に関する寓話といった見方もできます。例えば物語の序盤から中盤に出てくるおばあさんの姉妹は、車内で流れるニュースに対して反応がそれぞれ違いますよね。彼女たちはイデオロギーが大事であった世代の象徴であり、正反対のイデオロギーを持っていることも意味しています。また10代の子供たちが犠牲になる姿を描くことで、韓国社会において10代・20代の若者たちが大人の世代に搾取されている状況を描きたいと思いました。そのように様々な世代の話が入り混じっている映画だと言えると思います。また、この映画を作るにあたり、ゾンビ映画の本質とは何かについても深く考えました。ゾンビ映画はスプラッター映画の代名詞とも言われますが、ゾンビが与える恐怖とはどんなものかと考えた時、ひとつは「自分の愛する人が全く違うものに変わってしまうという恐怖」、そしてもうひとつは「自分が違うものに変わって愛する人を攻撃してしまうかもしれないという恐怖」だと思いました。ですからスプラッタースタイルの表現は排除して、そのような恐怖にポイントを絞って映画を作ろうとしました。

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── 最近クランクアップされた新作『念力』についても、どんな作品か、見どころなども教えて下さい。

『念力』も父と娘が主人公の物語ですが、非常に無責任でかなり昔に娘や家族を捨てた父親と、そんな父親を憎んでいる娘の話です。父親はあることをきっかけに超能力を身に付けるのですが、その超能力を通して韓国社会の様々な面を描き出しています。『新感染』とは違ってコメディの要素が強く、ある意味では更に大規模なアクションシーンも含まれています。笑いながら鑑賞できて、超能力アクションも楽しめて、最後には感動も得られる作品になるように、現在編集作業を進めています。

── 実写映画を3本撮るという契約をされたと伺ったのですが、そうするともう1本実写作品の予定があるわけですよね。そちらの作品も現在進行中ですか?

『新感染』の完成後から企画していた作品がいくつかありまして、シナリオはまだ完成していませんが、大筋の決まっている作品は2本あります。そのうちの1本を選んで今年中にシナリオを完成させ、来年『念力』が公開された後に撮影に入るつもりです。その作品は『新感染』や『念力』よりも暗い内容の作品になると思います。




『新感染 ファイナル・エクスプレス』
 原題 부산행 英題 TRAIN TO BUSAN 韓国公開 2016年
 監督 ヨン・サンホ 出演 コン・ユ、チョン・ユミ、マ・ドンソク、キム・スアン、キム・イソン、チェ・ウシク、アン・ソヒ
 2017年9月1日(金)より、ロードショー
 公式サイト http://shin-kansen.com/

Writer's Note
 加藤知恵。「僕は本来新しい人と仕事をするのが苦手で、自宅の家具の配置が変わるのさえ嫌がるような人間なんです」と語っていた監督。気難しい方なのかもしれないと、取材前は緊張しましたが、「花開くコリア・アニメーション」のスタッフでもあることを告げ、「他のスタッフも皆、監督のご活躍を喜んでいます」と伝えたところ、にこやかな笑顔を見せて下さいました。


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