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Review 『プンサンケ 豊山犬』

Text by Kachi
2012/8/15掲載



 朝鮮戦争の後、半島を分断した休戦ライン・38度線。そこを越えてソウルと平壌(ピョンヤン)を行き来する運び屋がいる。一言も口を利かない正体不明の男は、「帰らざる橋」(注1)に残された依頼人からのメッセージを受け取ると、3時間以内に依頼されたものを何でも運ぶ。彼が吸う北朝鮮産の煙草の銘柄からついた呼び名は「プンサンケ」。ある時プンサンケ(ユン・ゲサン)は、韓国に亡命した元北朝鮮高官の愛人イノク(キム・ギュリ)をソウルに連れてくるという依頼を受ける。危険な目に遭いながら国境を越えた二人には言葉で表現できない感情が芽生えていた…。

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 プンサンケは最後まで無言な男だが、瞳は感情を雄弁に語っている。離散家族の手紙や旗が揺れる「自由の橋」(注2)。彼はそこで悲しげにアリランを歌う老婆に、いつも持ち歩いているカメラを向ける。彼が運んだビデオレターに映る南の家族と涙の再会をする北の家族もファインダーに収める。その優しいが寂しい瞳から、この男は憎むべき相手ではないと直感できる。そして故郷を失い、もちろん韓国にも居場所などなく「来なければよかった」とつぶやくイノクは、何にも組せず生きるプンサンケと運命づけられたように惹かれあうのだ。しかし、小さな個人は国家の思惑の中で無情にもひねり潰されていく。

 「南北統一」といっても、北か南、どちらかによる統一。果たしてそれを「統一」と呼べるのだろうか。「おまえはどっちの犬だ?」と苛烈に尋問する韓国情報員や、口を割らせようと拷問する北朝鮮工作員に対して、決して答えないプンサンケが象徴しているものは火を見るより明らかだ。

 監督はチョン・ジェホン。嫉妬心にかられプンサンケの前でこれ見よがしにイノクを抱く元高官や、イノクの宝石を欲しがり「南朝鮮がうらやましい」とこぼす北の工作員など、人間の欲を露悪的に提示してみせる手法はデビュー作『ビューティフル』(2008年)を彷彿とさせるが、細かい笑いどころや、結末へいざなうスリル感は前作より増している。何より従来描かれてきた〈亡命〉や〈脱北〉のイメージを覆すアクロバティックな〈運び屋〉のプンサンケを誕生させた点に驚かされた。南北分断という、今なお朝鮮半島に横たわる深刻な問題をここまでスリリングに軽やかに扱えたのは、若手監督のなせる技だろう。そして主人公が〈喋らない男〉といえば…韓国映画ファンにはお馴染み、チョン監督の師匠キム・ギドクが、『ビューティフル』に引き続き脚本を担当している。

 「プンサンケ(豊山犬)」とは北朝鮮原産の希少種の犬のこと。ひとたび噛み付けば離さない凶暴さを持ちながら飼い主に忠実であるというプンサンケ。その名の通りに生きる男と、彼に「飼い主を失ったプンサンケに似ていますね」と寂しげに言った女。国家も民族もない、人間の純粋な心が宿った二人を思うにつけ、今もなお引き裂かれている人々に思いを馳せずにいられない。

(注1)板門店にある「帰らざる橋」は、朝鮮戦争後に捕虜の交換が行われた場所。捕虜たちはここで北か南かを選んだが最後、二度と戻ることができなくなることから、この名がつけられた。
(注2)坡州(パジュ)市にある「自由の橋」は、韓国民間人が自由に北朝鮮に近づくことのできる最北限で、ここの鉄柵には離散家族のメッセージが多く下げられている。


『プンサンケ 豊山犬』
 原題 プンサンケ 豊山犬/英題 Poongsan/韓国公開 2011年
 監督 チョン・ジェホン 主演 ユン・ゲサン、キム・ギュリ
 2012年8月18日(土)より、ユーロスペースにてロードショー、8月25日(土)より銀座シネパトスほか全国順次公開
 公式サイト http://www.u-picc.com/poongsan

Reviewer's Note
 Kachi。1984年、東京生まれ。図書館勤務。『クロッシング』『ムサン日記~白い犬』『かぞくのくに』、そして『プンサンケ 豊山犬』。北朝鮮シリーズとしてレビューしてきた作品から見て取れたのは、「近くて遠い国」に住む人々が私たちと同様に、大切な家族や友人を思い、ありふれた穏やかな生活を望んで生きているという至極当然のことでした。この当たり前なことが政治的な問題で忘れられがちな今、映画を見ることの意義を改めて感じました。





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